自己満足

世万江生紬

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恋人になってください

恋人になってください(前編)

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 俺の名前は桜木涼介。三日後に入学式を控える新大学生だ。入学が楽しみで大学回りを散歩でもしようかとぶらぶらしていた、そんな俺の目の前に、今美少女が立っている。美少女と言っても俺と同じ年くらいだと思うけど、綺麗な女の人が立っている。何なら俺を見ている。俺も健全な男子、こんなに美少女にマジマジと顔を見られては照れてしまうんだが。

「あの、私の恋人になってください!」

頭の中で色々考えていたらなんと愛の告白をされてしまった。え、俺に言ってるのか、俺に初めての春が来たのか!?

「あの、聞いてる!?」

固まって思考回路をフルスロットルさせていると、美少女は俺に少し不満そうな声を上げた。ツンデレの匂いがするな、悪くない。

「えぇっと、恋人になってくださいって言うのは、俺に言ってるんです、よね...?俺、あなたの事知らないんですけど...とりあえずあなたのなま、え、えぇぇぇ!?」

とりあえず彼女の名前を聞こうと口を開いた瞬間、俺は気づいてしまった。彼女の足がうっすらと透けていることに。

「え!?幽霊!?」

「なっ、失礼ね!まだ死んでません!」

「まだって何!?」

美少女に出合い頭で愛の告白!という嬉し恥ずかし恋愛ルートに入ったと思ったら、幽霊に告白されるというホラールートに入ったんだが!?俺はパニックを起こし、ひとまず落ち着くために彼女と近くの公園に行くことにした。


「とりあえず...君は誰?というか何?」

「私の名前は咲良日向です。何とは失礼ですね、人間です。」

「人間は足が透けたりしないんだよ。よく見たら体全体的に透けてるし。」

「むぅ、確かにそうだけど、幽霊じゃないよ。幽体離脱...意識だけ?身体の方は動けないの。事故で。」

要約すると、彼女は事故に会い体は入院しているものの死んでいるわけではない。意識だけが体を抜け出している状態。そしてなぜか、俺にしか見えない。

「事情は分かった。けど、それでなんで俺に恋人になってほしい、になるんだ?」

「そうしないと涼介くんが後悔するから。」

「はあ?」

何を言っているのか分からない。分からないけど、1つだけ確かなことがある。咲良日向はとても可愛い、ということ。零体じゃなかったら即お付き合いしてるのになぁ。さすがに零体とは付き合えない。

「悪いけど、零体である君とは付き合えない。だから...」

「日向。」

「え?」

「日向って呼んで。」

名前呼びのお許しならぬ催促!くそぉ、美少女のこういう言動には本当弱いんだよ、俺。

「ゔ...ひ、日向とは恋人になれない。だからもっと別の人探しなよ?というかそんなに焦らなくても、身体が元気になってから...」

「私が零体だから恋人になってくれないの?」

「え、ああ、簡単に言えばそう、か?」

「じゃあ零体じゃなかったら恋人になってくれるんだね?」

「え、まあそれなら。」

「よし、じゃあ約束、ね?」

何の約束!?でも軽く首を傾けて小指を出してくる言動がシンプルに可愛い。なんで零体なんだよ本当に!

「じゃ、涼介くんの家に居候していい?」

「え!?」

何々!?何が起こってる!?この美少女が!?俺の恋人になりたいとお願いしてくるだけじゃなく!?俺の家に来る!?いやいやいや!

「ダメでしょ!」

「涼介くん一人暮らしだから自由に色々出来るでしょ?まあ私零体だから触れることさえ出来ないいんだけどね。そうだよ、触れることさえ出来ないんだから問題は起こりえないよ。それでも?」

「...触れられないなら、倫理は関係ないのか...?いやいや、でも、」

「それに私、涼介くん以外には見えないから、涼介くんが拒否するなら行く場所がないんだけど...。」

「実家は?あ、親がいないとかちょっと複雑な家庭環境だったり...?」

「むう...分かった。じゃあ三日だけ。涼介くんの大学の入学式までにはちゃんと出ていくから。三日だけ。ダメ?」

 突然だが、美少女の困り顔からのお願いを断れる男がいるだろうか。否、いない。結局俺は彼女を家に泊めることにしたのだった。


 正直それからの三日間はパラダイスだった。美少女と一つ屋根の下で暮らすというだけで心躍るのに、日向は本当にいい子だった。隣にいるのが心地よい柔らかい雰囲気、俺のことをよく観て俺の好みを把握したり、俺の気持ちを慮った言動、にじみ出る優しさ、すべてが好きになる要素しかなかった。本当に、この三日で彼女が零体であることを嘆いた回数は三桁を超えると思う。
そんなこんなで三日が経ち、入学式の日。俺は家を出る準備をしていた。

「涼介くんも今日から大学生だね!」

「うん...あのさ、日向は今日でこの家出ていくんだよな?」

「うん、そうだね?」

「じゃあ、最後に俺の質問に答えてほしい。」

「なあに?」

俺はずっと気になっていることがあった。出会った初日は意味の分からないことオンパレードでパニックになっていたけど、冷静に考えると彼女にはどうしても疑問に思うところがあった。

「なんで初めて会った日、俺名乗ってないのに名前知ってたんだ?」

「...。」

そう、彼女は俺が自分の名前を名乗る前から俺のことを『涼介くん』と呼んでいた。

「そもそも、初対面で日向が最初に俺に言った言葉は『恋人になってください』。これの理由も聞いてない。」

彼女は初対面で告白してきた。俺は彼女に会ったことすら、どんな人間かも知らないのに。彼女は俺のことをしていた。恋人にしてほしいとお願いするほど好意を持っていた。

「それに、日向がこの家に来るの、三日だけって言った。入学式までには出ていくって。なんで入学式が三日後にあること知ってた?」

俺の事を知っていたのは、もしかしたら俺が気づいてないだけで知り合いなのかもしれない可能性はないことは無いけど、入学式の日付まで把握してるのはさすがに違和感がある。正直気づいたのは昨日の夜だけど。

「一応言うけど、俺は日向のこと、ちゃんと好きになってる。だから、この質問の答えは別にどうでもいいんだ。ただ知っておきたいと思っただけ。...言えない?」

俺の顔をじっと見ていた日向はやがてどこか悲しそうな眼をして笑った。そして一言だけ、たった一言だけ、

「入学式に行けば分かるよ。」

と言って俺の背中を押したような、気がした。


 俺はまだ頭の中が整理のつかない、複雑な状況だったけど、入学式に向かった。俺に『入学式に行けば分かるよ』といった直後、日向は消えていた。零体だから壁も抜けられるし、どこかに行ったんだと思った。もしかしたら、消えたのかもしれないけど、確かめるすべもないし、どうするかと言ったら、日向が最後に言った言葉を信じて入学式に出るしか俺に取れる選択肢はなかった。が、

「入学式終わったんですけど!?」

そう、入学式は滞りなく終わった。なんならその後の説明会も終わった。あとはもう帰るだけ。

「入学式に行けば分かるって言ったじゃん...。」

俺はぼやきながらトボトボと帰路についていると、目の前を歩いていた子がポケットからハンカチを落とした。スーツを着ているので同じ入学生か。女性の落とし物を見過ごすのは俺の生き方に反する、ということで拾って声をかけた。

「あの、ハンカチ落としたよ。」

「あ、ありがとうございます。」

そう言って振り向いたのは、ついさっきまで俺の家にいた、この三日間俺の家で一緒に過ごした、咲良日向だった。


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