自己満足

世万江生紬

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運命の赤い糸

運命の赤い糸

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 俺の名前は赤沢聡。突然だが、運命の赤い糸、というものは信じているだろうか。ちなみに俺は信じていない。まあ、そんなものがあったらロマンチックだよな、くらいには思っているけど、そこまでだ。それ以上でもそれ以下でもない。だが、今の俺は信じられないものの存在を信じざるをえない状況にある。なぜなら今俺は、雲の上にいるからだ。

「あー!目覚ました!良かったー。このまま目覚めなかったら邪魔だなーって思ってたんだ。」

...目の前に天使がいる。いや、何を言っているか分からないと思うが、天使がいるのだ。体は全身タイツでも履いてんのかってほど真っ白。男か女かもよくわかんない顔つき。そして何より背中に生えてる翼。天使というしか存在を表せないようなやつが今、俺の目の前にいる。正確に言えば仰向けに寝ている俺の顔面の真上から、見下ろすように覗き込んでいる。

「え、えっとぉ?」

「こんにちは!ここは天国みたいなところだよ!お兄さんついてないね!」

「えっと、俺は死んだってこと...?」

「ん?んー、正確にはまだ死んでないかな!」

「仮死状態的な...?」

「いやあ?違うよ?」

この時点で俺の頭はすでに物事を把握するキャパシティがオーバーしている。もうここはどことか、お前は誰とか、なんで俺はこんな場所にいるんだとか、分からないことが多すぎる。

「じゃあ一から説明してあげるね!まずここは天国、つまり死んだ人が行く場所、の一歩手前!死ぬか生きるかギリ選べる場所だよ!ここに来た人には説明役としてもれなく天使が付いてくるんだ!」

それがコイツってことか...てか、天使ってこんなウェイ系のノリなの?俺ついて行けねぇんだけど。

「で、お兄さんが一番知りたいのは、なぜこんなところに来てしまったか、だよね!その答えがぁ...!お兄さんの左手の小指!!」

「左手の小指?」

俺は天使に言われるがままに左手を見た。そしたらなんと、指に赤い糸が巻き付いていた。運命の赤い糸なんてもの信じてなかったけど、今の俺にはまぎれもなくそれがある。何なら触れる。え?運命の赤い糸って物理的に触れるものだっけ?

「それね、繋がってるでしょ?その繋がってる相手が、不運な事故で死んじゃったんだよね!可哀想!だからね、運命の相手であるお兄さんもこっち側に来ちゃったってわけ。」

「Pardon?」

は?え、俺齢19歳にして初恋もまだなんだけど。じゃあ何、俺は見たことも会ったこともない運命の相手が事故で死んだから、糸に導かれて天国一歩前まで来ちゃったってこと!?

「でもね、お兄さんまだ死んでないから。お兄さんが取れる選択肢は二つ!一つ!運命の赤い糸をここで切って、これからもう二度と運命の相手に会うことは無いけど生きていく!二つ!運命を受け入れて運命の相手と一緒にこのまま天国に行く!お兄さんどっちがいい?」

「タイムタイムタイム!!」

え、なに、さっきからこのまっしろしろすけは何言ってんの?え、じゃあ俺このまま死ぬか、一生彼女も出来ないと分かってて生きていくかの二択ってこと?どっちも地獄じゃん。天国に行く前に地獄落ちが決定しているんですが!?

「お兄さんまだラッキーだよ?自殺だったら相手はここにも来られず問答無用で仲良く天国行きだもん。まだお兄さんの相手は事故だったからお兄さんには選択肢があるんだよ!でもね、それでもここに来る人って結構多くてさばくの大変なんだよね!だからさっさと決めてほしいって言うのが本音!」

だからコイツ初っ端で『目が覚めなかったら邪魔』とか言ってたんだな?でも!こんな二択スパッと決められるわけないじゃん!自殺志願者とかだったら運命受け入れて死ぬだろうよ!でも!俺はこれからの明るい未来を夢見て生きる19歳!まだ死にたくないし!彼女は欲しい!切実に!

「あのさぁ、仮に糸を切って生きることを選んだとして、運命の相手が変わること、糸が別の誰かと繋がることってあるのか?」

「んー、さあ!」

さあ!じゃねぇんだよ!くそ...でもやっぱり死にたくはねぇから彼女は諦めるべきなのか?死にたくないしなぁ...。

「お兄さん、決まった?」

「決まるわけねぇだろ。でもま、一番に思ったのは”死にたくない”かな...。」

「オッケー!じゃ、現世帰還!」

「は!?まだ決めてねぇって!オイ!」

天使は俺の言葉から強引に結論付けて糸をハサミでチョキンと切った。その瞬間、俺の座っていた雲がスポンと抜けて落下する感覚。気づいたら俺は意識を失っていた。




 それから数年。

『氏名:赤沢聡。大学卒業後、就職した会社で知り合った女性と結婚。一年後、彼女のお腹にも新たな命が宿り、一層彼女とお腹の子を守るため奔走している。』

「こんなもんかな!」

そう言うと天使はパタンと報告書を閉じました。

「お兄さん、ぶつぶつ考えすぎなんだよね!どうせここでのことについての記憶は一切残らないし!ここで選ぶのは生きるか死ぬか!見極めるのは命を諦めるか死にたくないか!お兄さんは死にたくないと本能が考えた。じゃあそれが正解なんだよね!運命なんてもの、天使だって信じてないよ!お兄さん結構運命信じるタイプだったんだね!ま、運命なんてもの、生きてさえいればどうとでも転ぶんだよね!」

天使は聡の様子を見ながら言います。下界を見ていると、またひとりの男性が上がってくるのが見えました。

「あー、また仕事だぁ!もー人間ってすぐ死んじゃうんだから!」

天使は上がってくる男性のために説明の準備を始めます。そして、もう一度だけちらりと聡の様子を見ると、

「お幸せに。」

と意地悪く笑いました。
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