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一学期

同担拒否は関わらぬが仏

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 今日も帰り道。隣を歩く緒方優羽は、少し真面目な顔をして歩いている。それもそのはず、明日からは期末試験が始まる。定期試験の前日と言えば最後の追い込みを行うべく、テスト週間の中でもより勉強に熱をいれるものだ。彼女も普段は変人のような言動をするオタクだが、とはいえ仮にも特別進学コース、定期試験の前日にもなれば真面目な顔もするだろう。

「西山くん...同担拒否ってやっぱり心が狭いと思う?」

テスト前の真面目な顔だったんじゃないんかい。このタイミングで、とんでもなく真面目な顔をして、勉強に関係ないこと考えてたのか。なんか騙された気分。

「えーと、そもそも同担拒否ってなに?」

「Aというキャラを推しているとして、同じようにAを推している人とは関わりたくない、みたいな感じ。」

「なるほど...?まあ、それだけ聞くと、好きな人同士みんなでAを推して楽しめばいいんじゃないかと思うけど。」

と、俺は自分で言いつつ、そういうことじゃないんだろうな、というのは分かっている。それが割り切れないから同担拒否なんて言葉があるんだろうし。

「やっぱ、オタクじゃない人はそう考えるんだよね...。」

あれ?ちょっと落ち込んでるように見えなくもないような。そうか、緒方さん、自分は同担拒否なのにそれを分かってくれず、周りに心が狭い的なことを言われたんじゃないだろうか。だからちょっと落ち込んで、俺に相談の様に落ち込んだ気持ちを吐露したんじゃないだろうか。やばい、結構当たってると思う、名推理だ。でもだとしたら、俺の今の返答はより彼女を傷つけたりしたんだろうか。訂正しておかないと。

「あ、あの、でも、」

「でも私は物申したい!」

わあ全然元気。色々考えた挙句悩みが怒りに変わるタイプなんだろうか。どっちにしろいつもの彼女の様子に戻って嬉しいような騒がしいような。

「何を物申したいのでしょう。」

「よくぞ聞いてくれました。まずね、なんで嫌なのかって言うとね、好きの形って人それぞれだと思うの。アニメを見るだけで全然満足できる人もいれば、ラジオとか特番とかまでしっかり見たい人もいるし、何なら主に都会でしか開催されない声優イベントにも絶対参加したい人もいる。グッズとか何も買わない人もいれば新商品が出ればすぐ買う人もいる。そういうのってバラバラだし、人によりけりだと思うの。Do you understand?」

「無駄に発音よく聞かないで。Yes,I do」

「無駄に発音よく返事しないで。そんでね、問題はこっからなんだよ。お金や時間や労力の使い方は確かに人それぞれだけど、浪費してる人からすると、してない人とは仲良くなれないんだよ。」

「ピンと来ないな...。」

「んっとね、例えば自分はテスト期間中遊ぶのも趣味もめちゃめちゃ我慢して勉強頑張ったけど自信なくて『今回のテストヤバいなぁ』って言うとする。にも関わらず、テスト期間中も学校帰りに寄り道したり休日は遊びに行ったりしてる人が『今回のテストヤバい~』と言ってるのはなんか嫌!って感じがしない?」

まさかここで定期試験の話に戻ってくると思わなかった。しかも例えがすごく分かりやすい。つまり、自分はここまでしてるのに、そこまでしてもいないあなたと一緒くたにされたくないってことか。まあそれを言われた方の気持ちを考えると理不尽な気もするけど、だからこそ君子危うきに近寄らず、なんだろうな。

「労力とかだけじゃなくて、私の場合知識量とかも言える。このネタはラジオで言ってた裏話を知ってる方がエモく感じるのに、とか、作画を気にしながら見たらもっと楽しめるのに、とか。なんて言うか、レベルが同じ人とだけ楽しんでいたいっていうか。別にみんながみんな嫌ってわけじゃないよ?相手に合わせて話をすることだって出来るし、楽しむことも出来る。でも、やっぱりずっとそうなんじゃなくて、たまに位レベルの合わない人を避けたっていいんじゃないって、思うんだよ。」

「...やっぱり、何かあった?」

いつもの彼女に戻ったと思ったけど、やっぱりちょっと元気がないような、会話の内容を聞いてもちょっと嫌なことを言われたような、そんな気がした。から心配したのに、

「はは、君のような勘のいいガキは嫌いだよ。」

彼女はゆるりと躱す。本気で言っているのか分からないけど、緒方さんは真面目な話を真剣なトーンで話すのをのらりくらりと避けているような気がする。でもそっちがそのつもりなら俺もそうする。気にはなるけど、俺が踏み込むことじゃないし。彼氏じゃないんだから。

「あ、じゃあ私ここで。ばいばーい。」

「ん。あ、明日のテスト頑張ろー。」

「言わないでよ、思い出しちゃったじゃん!くー、学年一位様は余裕だなぁ。」

そういう緒方さんは俺と差はありながらも学年二位なのだが。国語だけなら俺より成績良いのだが。

「はは。でもま、お互いがんばろーねー。じゃ。」

緒方さんはそう言うとポッケから単語帳を取り出し、にらめっこしながら歩き出した。俺はその背中を見送っていると、変に視線を感じた。後ろを振り返っても誰もいなかったが、どこか敵意を感じたような、そんな気がした。
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