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理屈ではない道に進め
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私がまだ中等部に上がったばかりの頃、友達もおらず作るつもりもなかった私はいつも一人で椅子に座っていました。1人でいたいわけではありません。でも、誰かといたいわけでもない。楽しい時を過ごせる人となら友達になりたいけど、私を馬鹿にし、蔑み、暴言を吐くような人と友達になりたいとは思えませんでした。小学校からそのスタンスだった私は中等部に上がってもその姿勢を崩すことは無く、いつも教室で一人で座っていました。あの時までは。
「君、友達はいないのかい?」
いつものように教室で一人でお弁当を食べていた私に声をかけた人がいました。下を向いてただお弁当を食べるという作業をこなしていた私は声の主の顔を見るために顔を上げました。
「一人でお弁当食べるの寂しくないかい?」
その人はこの学園でのちょっとした有名人、要天馬でした。父親が名の知れた名探偵である彼女は学園でも名が知られており、とはいえ学年も違う彼女がなぜここにいるのか何故私に声をかけたのか分かりませんでしたが、その時の私はシンプルに彼女の言葉に気分を害していました。
「初対面の相手に投げかける質問にしてはデリカシーなさすぎじゃないですか?友達ならいませんが何か?一人ご飯もそれなりに寂しいですが何か?」
小学校から敵を作りやすかった私は、ここでも先輩に向かっていつもの口調で返していました。失礼な言葉遣いだったと思いましたが、口に出した言葉はもう取り消せません。私はとりあえず不躾な先輩の顔を真正面から睨みました。
「君はボクに随分な言葉遣いをするんだね。」
「...失礼な物言いを先にしたのは貴方です。」
謝るチャンスだったのかもしれません。でも一度出した言葉が戻せないように、一度とった態度もそう簡単には変えられません。
「うん。そうだね、良いと思う。自分を大切にしない人間を大切にする必要はない。ボクもそう思うよ。」
その先輩はそう言うとははっと歯を見せて笑いました。私はその先輩の言葉に、この人は何か人と違う人間なんだろうと漠然と思いました。そんなことを考えていると、私と先輩の前にずかずかと歩いてくる人が1人。
「白輝さん、貴方要天馬さんに向かって失礼じゃない。本人が許しているからって見ててとても不愉快よ。」
クラスの中心人物。発言力があってカースト上位の彼女は私のことが気に食わないらしく、いつも突っかかってくる。そして周りの人間も彼女のことが怖くて私と仲良くしようとしない。よくあるこの状況。
「まあまあ、木霊は森の精なんだぞ~。そんな態度だと森に怒られるかも~。」
囃し立てる男子。私の名前は一般的には珍しいキラキラネームってやつなのかもしれない。私自身この名前でいつもこんな目に合うから好きじゃない。カースト上位の女子が怖くて何も行動出来ない言いなりになる女子、私の名前をからかって玩具にしてただ馬鹿みたいに笑う男子。居心地が悪い。だから私は友達なんていらない。そうやって自分に言って聞かせて、普通に友達と笑って楽しく過ごすことを諦めてきた、はずだった。この時までは。
「このクラスに君は必要とされてないみたいだね。それならボクが君をさらっちゃおうかな!」
要天馬という人間はそう言うと、私の手を引っ張って居心地の悪かった教室から私を強引に連れ出した。
手を引かれ、黙って付いて行った先は使われていない教室だった。
「さぁ、さらってしまったよ。君は誘拐の被害者だ。ははっ、悪いことをするとドキドキするけど楽しいね。」
「お昼休み終わりますけど。」
「うん。だから悪いこと。君は被害者だから全部ボクのせいにしていいよ。安心してくれ、ボクはこの学園の有名人かつ重要人物。怒られるにしても君よりは処罰が軽い。」
「じゃあそうします。」
「受け入れるの早いね。」
先輩はそう言うとこの部屋に置いてあったソファにドカッと座りました。
「さ、じゃあ会話をしよう。どうせ授業はサボってるんだ。時間はたっぷりある。」
「会話...。」
「そう、会話。まず君は自分の名前、嫌いかい?白輝木霊ちゃん。」
「嫌いじゃない...なかったはずです。でも嫌いになりかけてる。」
「なるほどなるほどー。自分ではよいと思ってるものも周りに貶され続けたら良くないように思えてきちゃうもんね。うんうん。ならあえて言っておこう。ボクは君の名前好きだ。綺麗だから。好きだから木霊ちゃんって呼ぼう。」
私は先輩の何の深みもない綺麗という言葉が胸に刺さりました。だって私も、木霊と言う名前が綺麗で好きだから。
「周りの木霊ちゃんを大事にしないやつの貶す言葉と、ボクの木霊ちゃんと会話を求める言葉、どちらに重きを置くかは自分で判断してくれ。じゃあもう一つの話題。木霊ちゃんはあのクラスとどう関わりたい?」
「どうって、関わりたくないですけど。」
私は何のためらいもなく言う。だってそうだ。あんな居心地の悪い場所、早く時間が過ぎろとしか思えない。
「そうかそうか。木霊ちゃんがそう思うならそれで構わない。所詮クラスメイトなんて生まれた年が同じで志も価値観も何もかも違う人間を無理に一つのグループにしてまとめたものだ。そこに拘束力もなければ将来の責任もない。ボクはお昼はここで食べるんだ。人気者は引っ張りだこなんでね、逃げるためだ。教室の居心地が悪いならここに来ればいいよ。ここを木霊ちゃんの居場所にして、教室が嫌になればここに来ればいい。あぁ、木霊ちゃんはボクと一緒にいるのも居心地悪いかな?」
「…いえ。先輩は別に…。」
「ははっ、可愛いこと言うね。先輩って呼んでくれたし。じゃあ先輩らしく助言でもしようかな。『ミステリと言う勿かれ』から。真実は1つじゃない、2つや3つでもない。真実は人の数だけあるんだ。木霊ちゃんにとっての真実は、ただ自分を大事にしないクラスメイトたち、じゃあそのクラスメイトから見た真実は何なんだろうね。」
「え...。」
先輩は軽く笑って私に問いかけていました。私は先輩の言葉に一瞬何を言っているんだと思いましたが、クラスメイトたちの真実、そんなもの考えたこともありませんでした。
「真実はどうであれ木霊ちゃんが居心地悪いと感じていることは事実。だけど、真実を知る努力をしたら何か変わるかもしれない。そのために必要なのが会話だ。木霊ちゃんもボクのことを初対面では失礼なやつだと思っていただろうけど今は二人でいるのも嫌じゃないと言った。ボクと会話して、ボクのことを知ったからだ。クラスメイトともそんなことが出来ればいいね。理屈じゃないんだ、理屈じゃない。そんな道に進んでみても今より悪くないことはないんじゃないかい?」
先輩はそう言うと笑いました。私は先輩の話を聞いて、先輩が私に伝えたいことは先輩が自分自身に言い聞かせていることでないかと考えました。いつだって有名人だからと人に囲まれる先輩は、人の真実が知りたいんじゃないかと。私はこの日、クラスメイトたちの真実を知ろうとする決心をしました。人を嫌いになるのは、その人のことを知ってからでいい。
次の日、私は例の部屋に向かっていました。私自身がクラスメイトに立ち向かった結果を伝えるため。そして、先輩と一緒に部活動を作らないか打診するため。悩みを持つ人の話を聞いて、解決はしないけど、自分自身の力で一歩踏み出せるような助言を与える、そんな部活。名前は、今までの考えが180度変わる、そんな自分を変えられるきっかけになる願いを込めて、『コペルニクスサークル』。
「君、友達はいないのかい?」
いつものように教室で一人でお弁当を食べていた私に声をかけた人がいました。下を向いてただお弁当を食べるという作業をこなしていた私は声の主の顔を見るために顔を上げました。
「一人でお弁当食べるの寂しくないかい?」
その人はこの学園でのちょっとした有名人、要天馬でした。父親が名の知れた名探偵である彼女は学園でも名が知られており、とはいえ学年も違う彼女がなぜここにいるのか何故私に声をかけたのか分かりませんでしたが、その時の私はシンプルに彼女の言葉に気分を害していました。
「初対面の相手に投げかける質問にしてはデリカシーなさすぎじゃないですか?友達ならいませんが何か?一人ご飯もそれなりに寂しいですが何か?」
小学校から敵を作りやすかった私は、ここでも先輩に向かっていつもの口調で返していました。失礼な言葉遣いだったと思いましたが、口に出した言葉はもう取り消せません。私はとりあえず不躾な先輩の顔を真正面から睨みました。
「君はボクに随分な言葉遣いをするんだね。」
「...失礼な物言いを先にしたのは貴方です。」
謝るチャンスだったのかもしれません。でも一度出した言葉が戻せないように、一度とった態度もそう簡単には変えられません。
「うん。そうだね、良いと思う。自分を大切にしない人間を大切にする必要はない。ボクもそう思うよ。」
その先輩はそう言うとははっと歯を見せて笑いました。私はその先輩の言葉に、この人は何か人と違う人間なんだろうと漠然と思いました。そんなことを考えていると、私と先輩の前にずかずかと歩いてくる人が1人。
「白輝さん、貴方要天馬さんに向かって失礼じゃない。本人が許しているからって見ててとても不愉快よ。」
クラスの中心人物。発言力があってカースト上位の彼女は私のことが気に食わないらしく、いつも突っかかってくる。そして周りの人間も彼女のことが怖くて私と仲良くしようとしない。よくあるこの状況。
「まあまあ、木霊は森の精なんだぞ~。そんな態度だと森に怒られるかも~。」
囃し立てる男子。私の名前は一般的には珍しいキラキラネームってやつなのかもしれない。私自身この名前でいつもこんな目に合うから好きじゃない。カースト上位の女子が怖くて何も行動出来ない言いなりになる女子、私の名前をからかって玩具にしてただ馬鹿みたいに笑う男子。居心地が悪い。だから私は友達なんていらない。そうやって自分に言って聞かせて、普通に友達と笑って楽しく過ごすことを諦めてきた、はずだった。この時までは。
「このクラスに君は必要とされてないみたいだね。それならボクが君をさらっちゃおうかな!」
要天馬という人間はそう言うと、私の手を引っ張って居心地の悪かった教室から私を強引に連れ出した。
手を引かれ、黙って付いて行った先は使われていない教室だった。
「さぁ、さらってしまったよ。君は誘拐の被害者だ。ははっ、悪いことをするとドキドキするけど楽しいね。」
「お昼休み終わりますけど。」
「うん。だから悪いこと。君は被害者だから全部ボクのせいにしていいよ。安心してくれ、ボクはこの学園の有名人かつ重要人物。怒られるにしても君よりは処罰が軽い。」
「じゃあそうします。」
「受け入れるの早いね。」
先輩はそう言うとこの部屋に置いてあったソファにドカッと座りました。
「さ、じゃあ会話をしよう。どうせ授業はサボってるんだ。時間はたっぷりある。」
「会話...。」
「そう、会話。まず君は自分の名前、嫌いかい?白輝木霊ちゃん。」
「嫌いじゃない...なかったはずです。でも嫌いになりかけてる。」
「なるほどなるほどー。自分ではよいと思ってるものも周りに貶され続けたら良くないように思えてきちゃうもんね。うんうん。ならあえて言っておこう。ボクは君の名前好きだ。綺麗だから。好きだから木霊ちゃんって呼ぼう。」
私は先輩の何の深みもない綺麗という言葉が胸に刺さりました。だって私も、木霊と言う名前が綺麗で好きだから。
「周りの木霊ちゃんを大事にしないやつの貶す言葉と、ボクの木霊ちゃんと会話を求める言葉、どちらに重きを置くかは自分で判断してくれ。じゃあもう一つの話題。木霊ちゃんはあのクラスとどう関わりたい?」
「どうって、関わりたくないですけど。」
私は何のためらいもなく言う。だってそうだ。あんな居心地の悪い場所、早く時間が過ぎろとしか思えない。
「そうかそうか。木霊ちゃんがそう思うならそれで構わない。所詮クラスメイトなんて生まれた年が同じで志も価値観も何もかも違う人間を無理に一つのグループにしてまとめたものだ。そこに拘束力もなければ将来の責任もない。ボクはお昼はここで食べるんだ。人気者は引っ張りだこなんでね、逃げるためだ。教室の居心地が悪いならここに来ればいいよ。ここを木霊ちゃんの居場所にして、教室が嫌になればここに来ればいい。あぁ、木霊ちゃんはボクと一緒にいるのも居心地悪いかな?」
「…いえ。先輩は別に…。」
「ははっ、可愛いこと言うね。先輩って呼んでくれたし。じゃあ先輩らしく助言でもしようかな。『ミステリと言う勿かれ』から。真実は1つじゃない、2つや3つでもない。真実は人の数だけあるんだ。木霊ちゃんにとっての真実は、ただ自分を大事にしないクラスメイトたち、じゃあそのクラスメイトから見た真実は何なんだろうね。」
「え...。」
先輩は軽く笑って私に問いかけていました。私は先輩の言葉に一瞬何を言っているんだと思いましたが、クラスメイトたちの真実、そんなもの考えたこともありませんでした。
「真実はどうであれ木霊ちゃんが居心地悪いと感じていることは事実。だけど、真実を知る努力をしたら何か変わるかもしれない。そのために必要なのが会話だ。木霊ちゃんもボクのことを初対面では失礼なやつだと思っていただろうけど今は二人でいるのも嫌じゃないと言った。ボクと会話して、ボクのことを知ったからだ。クラスメイトともそんなことが出来ればいいね。理屈じゃないんだ、理屈じゃない。そんな道に進んでみても今より悪くないことはないんじゃないかい?」
先輩はそう言うと笑いました。私は先輩の話を聞いて、先輩が私に伝えたいことは先輩が自分自身に言い聞かせていることでないかと考えました。いつだって有名人だからと人に囲まれる先輩は、人の真実が知りたいんじゃないかと。私はこの日、クラスメイトたちの真実を知ろうとする決心をしました。人を嫌いになるのは、その人のことを知ってからでいい。
次の日、私は例の部屋に向かっていました。私自身がクラスメイトに立ち向かった結果を伝えるため。そして、先輩と一緒に部活動を作らないか打診するため。悩みを持つ人の話を聞いて、解決はしないけど、自分自身の力で一歩踏み出せるような助言を与える、そんな部活。名前は、今までの考えが180度変わる、そんな自分を変えられるきっかけになる願いを込めて、『コペルニクスサークル』。
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