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運命を変えたその言葉

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 「いっぱいあるから、好きなだけ食べていいよー。」

「本当にいいんですか?」

「ありがとうございま―す!」

 ここは暁学園コペルニクスサークル部室。いつものように部屋に入ると見知らぬ男子生徒二名に先輩がお菓子を分け与えていました。それ私が買ってきたお菓子なんですけど。

「あ、木霊ちゃん、いらっしゃーい。」

「こんにちは、お邪魔してます。」

「こんにちはー。木霊さんって言うんですか?変わった名前ですね?」

挨拶しようと私の方を向いた二人は顔も声もそっくりな双子でした。しかも超絶美形。いえ、美形というより美少女と言った方がしっくりくるほど可愛らしい顔立ちをしています。ズボンを履いていなければ女の子と見間違うところでした。それから髪型も身だしなみもすべてそっくり。名乗られてもどっちがどっちか分からなくなりそうです。

「陽人、初対面の人に失礼だよ。あの、俺羽衣月人はごろもつきとです。こっちが双子の兄の羽衣陽人はごろもはるとです。どっちも高等部一年で...その、兄がすみません、失礼しました。」

この礼儀正しい方が弟で、初対面の人を変わった名前呼ばわりする方が兄ですね、覚えました。私は二人に軽く挨拶をすると、先輩の邪魔にならないよう部屋の奥に座ります。基本私は来客された方にお茶を出す以外は、先輩が相談に乗っている邪魔をしないよう奥の席に座っています。今日は先輩が自分で淹れたらしく、机にカップが出ているのでこのまま座ります。

「ところで君たちさ、拉致って来たボクが言うのもなんだが、よく知らない人にほいほいついて行けるね。ボクが悪者だったらどうするんだい。」

「...拉致?先輩、この二人相談に来たんじゃないんですか?」

「え、違うよ。ちょっと呼び出したい人がいてね、その人質だよ。」

「はあ?」

思わず声を上げ話に割って入ったところ、要約するとこうです。この双子は先輩の知り合いが溺愛する従弟らしく、その知り合いの方を呼び出すために来てもらったんだそう。嫌われているのか普通に呼び出すと絶対に来てくれないので、強硬手段に走ったとか。先輩が突拍子のないことをするのはいつものことですが、まさかそれに付き合う人がいるとは思いませんでした。この双子、先輩と頭の作りが似てるんでしょうか。

「零の昔からの知り合いと言われたので危ない人ではないかと。」

「そうそう。それに、付いてったら零の昔話とか聞けそうだし!」

零というのは先輩の腐れ縁になる、神楽木零かぐらぎれいのことです。この人なら私も知ってます。先輩の一つ下、私と同じ年の大学二年。この部屋にも先輩に無理やり連れて来られているので、何度かあったこともあります。この双子は随分と零に懐いているようで、零の話題を出すと嬉しそうに喋っています。

「先輩、零に何か用事でもあるんですか?」

「ん?うん、婚約の話の...」

先輩がそこまで言った瞬間、双子の顔つきが一気に変わりました。兄の方があからさまに機嫌が悪く、シンプルにイラついているような、弟の方は表情が硬くなり目が一切笑っていません。これは懐いているというか、ただの過激派ですね。

「あはは、君らアレ?零ちゃんガチ勢なの?安心しなよ、婚約破棄の話だ。ボクと零ちゃんはね、親が決めた婚約者なんだよ。でもお互い抵抗して、普通に婚約破棄になったから、その辺諸々話し合いに今日行くんだ。だから待ち合わせ。あとなんか面白そうだからこの事実を君らにも話そうと思って。」

「なーんだ、破棄の話かー。本当に婚約の話だったら、僕このカップに入ったお茶先輩にぶっかけちゃうところでしたー。危ない危ない。」

兄の方が指をかけたカップから手を放します。フリとかじゃないですね、本当にかけようとしてましたよ。ちなみに弟の方は鞄の中に手を突っ込んでました。何取り出そうとしてたんでしょうかね、ほんと。強火ってこんな感じなんでしょうか。怖すぎます。


「てめぇ天馬ぁぁぁ!このメッセージどういうつもりだ!!!」

バーンと扉を開け入ってきたのは神楽木零です。走ってきたのか額にうっすら汗をかいています。というか先輩なんてメッセージ送ったんですか。すごいキレてますけど。

「どういうつもりって...『君の大事な双子は預かった。返してほしくばコペルニクスサークルへ来い』、まんまの意味だけど。」

「普通に呼べや!!!!」

零の渾身の突っ込みが響き渡ります。先輩といるときの零は常識人なことが災いして、とにかく先輩の被害を被ります。可哀想に。

「零、天馬さんから聞いたけど、昔親のことパパママ呼びしてわがまま一切言わないいい子だったって本当?。」

「遅いよー。遅いから零が昔やんちゃしてた頃の武勇伝とか聞いちゃったよ。」

双子が追い打ちをかけます。ガチ勢容赦無いですね、黒歴史掘り起こされて零がひたすら可哀想です。

「やめろ!!お前らいつの間に天馬と知り合いになったんだよ!言えよ!言ってくれてたらもうちょっとなんか、魔の手にかからないようにしてたのに!」

「さっきだよ?」

「教室に来てて、初対面だったけど零の昔話話してくれるって言うからついてきたの。」

「知らない人にほいほいついていくんじゃありません!!!」

常識人は大変そうですね。私はカップに紅茶を淹れて零に渡し、落ち着かせました。

「いやーそれにしても、零ちゃんがこんなかわいい子たちと一つ屋根の下で暮らしているとは知らなかったよ。」

「永遠に知らないでいてほしかったな。あと変な言い方すんな。陽人と月人の親が海外出張に行く間、学校から近くて一人暮らししてる俺の家に来てるだけだ。あとお前俺の昔話ぺらぺら喋るんじゃねぇよ。」

「零が昔は我が儘言わないいい子だったのちょっと意外。今一人暮らししてるのも親への反抗って聞いてたし、結構反抗するタイプだと思ってた。」

弟の方が意外そうな声を上げます。

「ほんとだよねー。しかも結構最近までずっと真面目ちゃんだったんだよ。反抗しだしたのも大学入ってから?遅めの反抗期かい?」

「お前のせいだろうが!」

零が大きな声を上げます。先輩も零の言葉が意外だったのか「え?ボク?」とでも言いたそうな顔をしてます。

「零、天馬先輩のせいってどういうこと?」

「俺も気になる。天馬先輩と何かあったの?」

「あーのーなー!天馬、お前が言ったんだぞ。俺、昔から親にあんまもの言えなかったからさ、親に実家の神社継げって言われて、ガチで悩んでた時、お前が言ったんだ。『モブサイコ100』だっけか?『嫌な時はな、逃げたっていいんだよ』って。そっからだよ、親に言いたいこと言うようにして、神社も継がないし家も出ることにした。それから、お前との婚約も破棄した!お前の言葉で俺の決められた運命が変わったんだ。全部お前のせいだぞ?」

零は先輩に向かって嫌味の様にそう言いました。その言葉は嫌味のようで、でも私には感謝の様にも聞こえました。そして先輩もそう聞こえたんでしょうか、先輩はびっくりした表情のまま固まっています。そしてそのまま後ろを向いてしまいました。

まあでも大変なのは双子の方で。嫉妬で表情が怒りに満ちています。私は夫婦喧嘩は犬も食わない、の如く部屋の奥に移動します。

「零!僕もう帰る!零も帰るよ!」

「そうだよ、もうここにいる必要もないでしょ。」

「はあ!?用事あるから呼び出されたんだろ、おい、天馬用事はなん...」

零が双子の言うことにもっとな意見を返そうとした時、先輩が零に背を向けたまま声を上げました。

「もういい!帰れ!ボクも零なんか嫌いだ!」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

零がひたすら可哀想ですが、双子に両腕をがっちり組まれ、引きずられるようにして帰っていったので、とりあえずこの場は収まりました。
私は先輩に近づき、ひょいっと先輩の顔を覗きます。その顔はりんごの様に真っ赤で、the照れているといった顔です。先輩の照れ顔なんて初めて見ましたし、さっきの言葉もきっと照れ隠しだったんでしょう。
私は先輩の知らない顔を見せてくれた零に心の中で感謝しつつ、双子にとやかく言われている零に心の中で手を合わせるのでした。


 人の運命なんて、人が発したたった一言の言葉で変わります。ただその一言は運命すらも変えてしまおうとして発したものではなく、心から思って伝えた言葉だからこそ変えてしまう。だから言った本人は覚えていないなんてこともあるのでしょう。
 私の運命を変えた一言を、先輩は覚えているのでしょうか。

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