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反対の意味と一つの意味と
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「天馬先輩!次これ読みたいんですけど、漫画ありますか!?」
「もちある!しばし待たれよ!」
ここは暁学園コペルニクスサークル。今日は以前相談に来た白鳥さんが遊びに来ています。
「これ!九巻は特装版だから!ブックレット付きだよ!」
「本当ですか!?さすが先輩!」
白鳥さんは以前先輩に相談してからというもの、うまく話せないものの毎日挨拶やお礼の言葉だけはしっかり言うようにし、クラスの子たちとも少しずつおしゃべりが出来る様になったんだそう。加えて部活にも入り、そこで出会った子と仲良くなり、同じクラスだったこともあってその子のいるグループにも入れてもらえたんだとか。要は悩みは完全解決、ハッピーエンドでよかったです。
「先輩!このブックレットIF物語ですか!?」
「いえす!最強に尊いからぜひ読んで!」
そしてなんと白鳥さんは先輩の布教のせいで立派なオタクになりました。相談に来てから二週間ほどしか経っていないのに良くここまで染まるものです。今では先輩の漫画やDVDをしょっちゅう借りに来ていますし、先輩とオタク話を楽しんでいます。ちなみに彼女が入った部活は美術部で、漫画の推しキャラを上手く描けるようになりたかったんだとか。
「白鳥さん、その漫画たち持って帰るなら紙袋か何かあげましょうか?」
「ひぇっ!?あ、えっと、だ、大丈夫です...。」
「貴方さっきまで先輩とは普通に楽しそうに話してたじゃないですか。私とだとなんでそんなにどもるんですか。」
白鳥さんの環境は改善されたものの、コミュ障であることはまだ治っていないらしく、先輩以外の人相手だとまだどもります。先輩との会話を聞いているだけに私への対応がこんなに怯えたものだとさすがに少し傷つくんですがね。
「ご、ごめんなさい...私コミュ障が治ったわけじゃないんですよぉ...。」
「あはっ!木霊ちゃん怖がられてる?いっつも仏頂面で、誰に対してもお堅く敬語で喋るからだよ~。」
「じゃあ先輩みたいに誰彼構わず失礼な物言いをしろって言うんですか。」
私は先輩の頭を軽くグリグリとしながら反論しますが、先輩は「痛い痛いよ」と言いながら私の手をつかんで離します。白鳥さんが漫画を鞄にしまうのを見ながら軽くじゃれていると、扉がノックされました。
「うぃーっス、天馬ー、会いに来たっスよー。」
「夜野先輩、お久しぶりです。」
「うぇっウサギちゃんじゃん、何しにきたのさ。」
「木霊ー久しぶりっス。天馬はうぇってなんスか、さっき言ったっスよ、会いに来たんス。あとウサギちゃんって呼ぶのやめろっス。」
先輩と軽く言いあいながらドカッとソファに座るのは夜野卯月、先輩の友達です。独特な喋り方で気さくな方ですが、先輩の友達と言うだけあって変わり者です。
「嘘つけぇい、彼氏を待つ間の暇つぶしとかだろう、どうせ。」
「お、正解っス、良く分かったっスね。」
「あんたいつもここに来るとき同じ理由でしょうが!」
夜野先輩は一つ年下の彼氏がいます。彼氏はサークル活動があるそうで、それが終わるまで頻繁にここに来ては時間をつぶしています。
「あ、あの、先輩、ですよね...?その、私お邪魔でしょうし、帰りますね。」
初対面の相手にコミュ障を炸裂させ、気まずそうな白鳥さんがおずおずと口を開きます。お邪魔になるからという理由を提示してはいますが、知らない人と一緒という空気に耐えられないから逃げたい、と言うのがもろ顔に書いてあります。
「んー?別に邪魔じゃないっスよ?あ。自己紹介いるっスよね、アタシは夜野卯月。天馬と同じ大学の三年で、天馬とは中学からつるんでるっスかね?ちなみに漫画とアニメは毛ほども興味ないっス。アンタは?名前なんて言うんスか?」
「言っとくけど、仲いいとかじゃないから!ボクはウサギちゃんのこと好きじゃないし!」
「アタシも天馬のこと別に好きじゃないっスよ。あとウサギちゃんって呼ぶなっス。」
先輩たちの会話に白鳥さんはより帰りたそうな顔をします。そして邪魔じゃないと言われた以上、お邪魔だからと帰ることも出来ないのでご愁傷さまです。
「えぇっと...私は白鳥瞳、です...。その、さっきからウサギちゃん、と言うのは...。」
白鳥さんは空気に耐えられなくなったのか、ぼそっと名乗るとすぐに自ら話題を上げます。私は話が長くなりそうだったので人数分のお茶を用意しに行きます。
「ああ、ボクがつけたあだ名だね。旧暦の卯月って漢字まんまで卯月って名前だから、ウサギちゃん。旧暦の卯月は干支四番目のウサギに由来するとかなんかあるけど、単純に好きじゃない相手への嫌がらせさ。」
「所構わずウサギちゃんって呼びやがるから同じ学部のやつもウサギちゃんって呼ぶんスよ!?本当にやめろっス。」
「嫌だね。いいじゃないか、かわいいよ、ウサギ。」
「ウサギはかわいいけど夜野先輩はそういうキャラじゃないから嫌がってるんですよ、先輩。」
私は入れたお茶を、にらみ合ってる先輩方の前と、完全に委縮して縮こまってる白鳥さんの前に置きます。
「そうだ!白鳥ちゃんにもあだ名をつけてあげよう!」
「ふぇっ!?」
完全に不意をつかれた白鳥さんは珍妙な声を上げます。
「白鳥瞳、っスよね?じゃあひーちゃんとかでいいんじゃないっスか?」
「ふっ、ウサギちゃん、短絡的過ぎだよ。そうだな...瞳、だからアイ、とかどう?アイちゃん!ボクだけのあだ名感があっていいじゃないか。」
「あ、えっと、私はなんでも...。」
「白鳥さん、先輩があだ名で呼ぶのは先輩にとっての友情の証みたいなものなんですよ。...良かったですね。」
委縮しまくっている白鳥さんに私は先輩の意図を教えます。私の言葉を聞いた白鳥さんは一瞬「え?」という顔をした後先輩の顔をちらりと見ると、顔を赤くして下を向きました。
「それだとあだ名で呼ばれてるアタシとも友情の証与えられてることになるじゃないっスかー。」
「ウサギちゃんは嫌がらせだよ。」
不満そうな顔をする夜野先輩に対し、先輩は辛辣な言葉を放ちます。ここでケンカするのやめてほしいんですが。
一色触発の状況にあわあわしていた白鳥さんが話を変えるためか口を開きました。
「あ、あの、あの先輩方はお互い好きじゃないって、嫌い合っているのにどうして仲良くされてるんですか...?」
「んー?別に仲いいわけじゃないっスよ。ただなんて言うか...。」
「アイちゃん、これ、『ロヂウラくらし』。絵も可愛くて緻密なストーリーが最高なボクの好きな作品なんだけど、この中にこんなセリフがある。「好きの反対は嫌いじゃない」。大きいの反対が小さい、寒いの反対が暑い、みたいに簡単なものじゃないんだよ、好きって。好きじゃないから嫌いってわけじゃないし、嫌いじゃないから好きってわけじゃない。一つじゃないんだ、感情って。色んな感情がごちゃ混ぜになって、そこから自分にとって一番過ごしやすい感情を持って接する。これが人との付き合い方だと、ボクは思うね。」
先輩は漫画を一冊掲げながら白鳥さんを説き伏せると、そっとその漫画を白鳥さんの鞄に入れようとしました。白鳥さんも「先輩らしいですね」と軽く笑いながら先輩から漫画を受け取り、自分の鞄に入れました。
「なんだ、瞳も天馬と同じオタクなのか。」
「ひぇっ、ひ、瞳!?」
「んあ?アタシは人の名前は呼び捨てで呼ぶタイプなんスよ。...お、千弦サークル終わったっぽいっスね。じゃあアタシ帰るっス。」
「帰れ帰れぇ!」
夜野先輩は最後まで先輩とケンカしながら帰っていきました。私はやっと静かになったと思いつつカップを片づけます。
「す、すごい人でした...。」
「ウサギちゃんは紹介しようと思うともっといろんな属性合わせ持ってるからね、893家で親と血がつながってないとか...。ま、また今度ゆっくり紹介しようじゃあないか。」
「今ちょこっと聞いただけでも属性てんこ盛りですね!?キャラ化してみたいです!」
白鳥さんも夜野先輩とは仲良くなれそうだな、というような顔で先輩は満足そうにしています。
好きじゃないけど嫌いでもない、他人との関係はそんなに単純なものじゃない。それは友達が少ないことを気にしていた白鳥さんへのアドバイスだったのか、真相は分かりません。けれど私は先輩の何気ない行動も何か意味のあるものじゃないかと思ってしまうのです。
「もちある!しばし待たれよ!」
ここは暁学園コペルニクスサークル。今日は以前相談に来た白鳥さんが遊びに来ています。
「これ!九巻は特装版だから!ブックレット付きだよ!」
「本当ですか!?さすが先輩!」
白鳥さんは以前先輩に相談してからというもの、うまく話せないものの毎日挨拶やお礼の言葉だけはしっかり言うようにし、クラスの子たちとも少しずつおしゃべりが出来る様になったんだそう。加えて部活にも入り、そこで出会った子と仲良くなり、同じクラスだったこともあってその子のいるグループにも入れてもらえたんだとか。要は悩みは完全解決、ハッピーエンドでよかったです。
「先輩!このブックレットIF物語ですか!?」
「いえす!最強に尊いからぜひ読んで!」
そしてなんと白鳥さんは先輩の布教のせいで立派なオタクになりました。相談に来てから二週間ほどしか経っていないのに良くここまで染まるものです。今では先輩の漫画やDVDをしょっちゅう借りに来ていますし、先輩とオタク話を楽しんでいます。ちなみに彼女が入った部活は美術部で、漫画の推しキャラを上手く描けるようになりたかったんだとか。
「白鳥さん、その漫画たち持って帰るなら紙袋か何かあげましょうか?」
「ひぇっ!?あ、えっと、だ、大丈夫です...。」
「貴方さっきまで先輩とは普通に楽しそうに話してたじゃないですか。私とだとなんでそんなにどもるんですか。」
白鳥さんの環境は改善されたものの、コミュ障であることはまだ治っていないらしく、先輩以外の人相手だとまだどもります。先輩との会話を聞いているだけに私への対応がこんなに怯えたものだとさすがに少し傷つくんですがね。
「ご、ごめんなさい...私コミュ障が治ったわけじゃないんですよぉ...。」
「あはっ!木霊ちゃん怖がられてる?いっつも仏頂面で、誰に対してもお堅く敬語で喋るからだよ~。」
「じゃあ先輩みたいに誰彼構わず失礼な物言いをしろって言うんですか。」
私は先輩の頭を軽くグリグリとしながら反論しますが、先輩は「痛い痛いよ」と言いながら私の手をつかんで離します。白鳥さんが漫画を鞄にしまうのを見ながら軽くじゃれていると、扉がノックされました。
「うぃーっス、天馬ー、会いに来たっスよー。」
「夜野先輩、お久しぶりです。」
「うぇっウサギちゃんじゃん、何しにきたのさ。」
「木霊ー久しぶりっス。天馬はうぇってなんスか、さっき言ったっスよ、会いに来たんス。あとウサギちゃんって呼ぶのやめろっス。」
先輩と軽く言いあいながらドカッとソファに座るのは夜野卯月、先輩の友達です。独特な喋り方で気さくな方ですが、先輩の友達と言うだけあって変わり者です。
「嘘つけぇい、彼氏を待つ間の暇つぶしとかだろう、どうせ。」
「お、正解っス、良く分かったっスね。」
「あんたいつもここに来るとき同じ理由でしょうが!」
夜野先輩は一つ年下の彼氏がいます。彼氏はサークル活動があるそうで、それが終わるまで頻繁にここに来ては時間をつぶしています。
「あ、あの、先輩、ですよね...?その、私お邪魔でしょうし、帰りますね。」
初対面の相手にコミュ障を炸裂させ、気まずそうな白鳥さんがおずおずと口を開きます。お邪魔になるからという理由を提示してはいますが、知らない人と一緒という空気に耐えられないから逃げたい、と言うのがもろ顔に書いてあります。
「んー?別に邪魔じゃないっスよ?あ。自己紹介いるっスよね、アタシは夜野卯月。天馬と同じ大学の三年で、天馬とは中学からつるんでるっスかね?ちなみに漫画とアニメは毛ほども興味ないっス。アンタは?名前なんて言うんスか?」
「言っとくけど、仲いいとかじゃないから!ボクはウサギちゃんのこと好きじゃないし!」
「アタシも天馬のこと別に好きじゃないっスよ。あとウサギちゃんって呼ぶなっス。」
先輩たちの会話に白鳥さんはより帰りたそうな顔をします。そして邪魔じゃないと言われた以上、お邪魔だからと帰ることも出来ないのでご愁傷さまです。
「えぇっと...私は白鳥瞳、です...。その、さっきからウサギちゃん、と言うのは...。」
白鳥さんは空気に耐えられなくなったのか、ぼそっと名乗るとすぐに自ら話題を上げます。私は話が長くなりそうだったので人数分のお茶を用意しに行きます。
「ああ、ボクがつけたあだ名だね。旧暦の卯月って漢字まんまで卯月って名前だから、ウサギちゃん。旧暦の卯月は干支四番目のウサギに由来するとかなんかあるけど、単純に好きじゃない相手への嫌がらせさ。」
「所構わずウサギちゃんって呼びやがるから同じ学部のやつもウサギちゃんって呼ぶんスよ!?本当にやめろっス。」
「嫌だね。いいじゃないか、かわいいよ、ウサギ。」
「ウサギはかわいいけど夜野先輩はそういうキャラじゃないから嫌がってるんですよ、先輩。」
私は入れたお茶を、にらみ合ってる先輩方の前と、完全に委縮して縮こまってる白鳥さんの前に置きます。
「そうだ!白鳥ちゃんにもあだ名をつけてあげよう!」
「ふぇっ!?」
完全に不意をつかれた白鳥さんは珍妙な声を上げます。
「白鳥瞳、っスよね?じゃあひーちゃんとかでいいんじゃないっスか?」
「ふっ、ウサギちゃん、短絡的過ぎだよ。そうだな...瞳、だからアイ、とかどう?アイちゃん!ボクだけのあだ名感があっていいじゃないか。」
「あ、えっと、私はなんでも...。」
「白鳥さん、先輩があだ名で呼ぶのは先輩にとっての友情の証みたいなものなんですよ。...良かったですね。」
委縮しまくっている白鳥さんに私は先輩の意図を教えます。私の言葉を聞いた白鳥さんは一瞬「え?」という顔をした後先輩の顔をちらりと見ると、顔を赤くして下を向きました。
「それだとあだ名で呼ばれてるアタシとも友情の証与えられてることになるじゃないっスかー。」
「ウサギちゃんは嫌がらせだよ。」
不満そうな顔をする夜野先輩に対し、先輩は辛辣な言葉を放ちます。ここでケンカするのやめてほしいんですが。
一色触発の状況にあわあわしていた白鳥さんが話を変えるためか口を開きました。
「あ、あの、あの先輩方はお互い好きじゃないって、嫌い合っているのにどうして仲良くされてるんですか...?」
「んー?別に仲いいわけじゃないっスよ。ただなんて言うか...。」
「アイちゃん、これ、『ロヂウラくらし』。絵も可愛くて緻密なストーリーが最高なボクの好きな作品なんだけど、この中にこんなセリフがある。「好きの反対は嫌いじゃない」。大きいの反対が小さい、寒いの反対が暑い、みたいに簡単なものじゃないんだよ、好きって。好きじゃないから嫌いってわけじゃないし、嫌いじゃないから好きってわけじゃない。一つじゃないんだ、感情って。色んな感情がごちゃ混ぜになって、そこから自分にとって一番過ごしやすい感情を持って接する。これが人との付き合い方だと、ボクは思うね。」
先輩は漫画を一冊掲げながら白鳥さんを説き伏せると、そっとその漫画を白鳥さんの鞄に入れようとしました。白鳥さんも「先輩らしいですね」と軽く笑いながら先輩から漫画を受け取り、自分の鞄に入れました。
「なんだ、瞳も天馬と同じオタクなのか。」
「ひぇっ、ひ、瞳!?」
「んあ?アタシは人の名前は呼び捨てで呼ぶタイプなんスよ。...お、千弦サークル終わったっぽいっスね。じゃあアタシ帰るっス。」
「帰れ帰れぇ!」
夜野先輩は最後まで先輩とケンカしながら帰っていきました。私はやっと静かになったと思いつつカップを片づけます。
「す、すごい人でした...。」
「ウサギちゃんは紹介しようと思うともっといろんな属性合わせ持ってるからね、893家で親と血がつながってないとか...。ま、また今度ゆっくり紹介しようじゃあないか。」
「今ちょこっと聞いただけでも属性てんこ盛りですね!?キャラ化してみたいです!」
白鳥さんも夜野先輩とは仲良くなれそうだな、というような顔で先輩は満足そうにしています。
好きじゃないけど嫌いでもない、他人との関係はそんなに単純なものじゃない。それは友達が少ないことを気にしていた白鳥さんへのアドバイスだったのか、真相は分かりません。けれど私は先輩の何気ない行動も何か意味のあるものじゃないかと思ってしまうのです。
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