龍神様の住む村

世万江生紬

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季節話

龍神様と女中

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「ぜっったいに嫌です!!!」

「なんでだぁぁぁぁぁぁ!」

新緑が木漏れ日を浴びてキラキラと光るこの時期に、龍平の拒否の悲鳴とそれに絶望する龍神様の悲鳴が響き渡りました。

「なんで着てくれないのだぁ!」

「これ男が着るものではないでしょう!なんですか、めいどふくって!!」

この日、龍神様の手には黒に布にふりふりの白い装飾のついた未来で言うところのメイド服が握られていました。もちろん龍平に着てもらおうと龍神様が一から作ったものですが、そんな思いも虚しく龍平が受け取ることはありませんでした。

「これ着て『おかえりなさいご主人様』と言ってくれないかぁ。」

「言うわけないでしょう!なんですかご主人様って!」

「では手でハートを作ってくれるだけでも構わんからぁ。」

「嫌です!というかどうやって作るんですか!?」

「じゃあ『もえもえきゅん』と言ってく」

「言って貰えると本当に思ってるんですか!?!?」

龍神様の必死のお願いも、龍平はばっさりと断ります。一般的な男性からすると至ってまともな反応ですが、龍神様には受け入れ難い反応です。

「じゃあ着なくても良い。胸の前に合わせるだけでも良い。」

「嫌ですよ。」

「せめて持つだけしてくれないかぁ?」

「嫌ですけど。」

「じゃあいっその事破ってくれ!」

「嫌…というかそれなんの意味があるんです?」

かなり難易度の下がったお願いも、龍平は容赦なく断ります。ただ、ここまでひたすらに断ってきた龍平ですが、一切引き下がらない龍神様を見ていささか面倒くさくもなってきました。

「龍平ぃ…。ご主人様って呼んでくれぬかぁ。」

「あー!もー!うるさいです!!ご主人様!!!」

ついに龍神様のしつこい付きまといに痺れを切らした龍平は半分激怒しながら龍神様を「ご主人様」と呼びました。龍神様の希望する呼び方とは全く違った呼び方でしたが

「りゅ、龍平ぃ…!」

それでも嬉しいのが龍神様です。この後めいどふくを龍平が着ることはありませんでしたが、龍神様はそれでも希望は捨てず、押し入れにしまい込んだのでした。
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