龍神様の住む村

世万江生紬

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季節話

龍神様と発明

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 桜も散り始める春の日。そんな桜の花びらが舞う中で、龍神様が大きな声を上げました。

「で、出来た...ついに出来たぞぉー!」

龍神様はそう言うとたったいま完成したそれを手に乗せて掲げました。龍神様の大きな手のひらにちょこんと乗るそれを見つめ、龍神様は妖艶な笑みを浮かべました。

「これで...ふふふ...龍平も...!」

そんな不敵な笑いが零れ落ちている様子を訝しげに見ている青年が一人。

「龍神様?俺が、何ですって?」

「おおぅ!いたのか龍平ぃ。」

龍平でした。発明品が手から落ちそうになるのを慌てて防ぎ、龍神様は龍平に向き直ります。

「い、いつからいたんだぁ?」

「出来たーと言っている辺りですね。これで龍平も...とか言いながら笑っているのがあまりに怪しいので思わず声を掛けましたけど、俺に何をするつもりだったんですか、龍神様。」

「え、い、いや、大したことではないぞ...?」

「変な薬でも盛ろうとしてたんじゃないでしょうね?」

「そ、そんなことはないぞぉ!?」

龍平の言葉を否定する龍神様ですが、どうも歯切れが悪く怪しい限りです。とはいえ、これ以上問い詰めても答えてくれそうにないので龍平ははぁっと息をつくと諦めたように言いました。

「はぁ...もういいです。それは俺に害のあるものではないんですね?」

「も、もちろんだぁ!」

「惚れ薬とかそんなものでもないんですね?」

「ち、違うぞぉ!」

「...ならいいです。信じます。」

「私を信じてくれるとは、嬉しいぞ龍平ぃ!」

「ただし、これで俺を裏切るような事したら信用が地に落ちますから。」

「厳しいな...。」


 その夜、龍平が眠りについた時、寝ている龍平の元へ龍神様がやって来ました。そして今日発明したそれを龍平の口に塗ります。

「これで良し。龍平の唇、乾燥で荒れていたからなぁ。これで良くなるだろう。」

そう、龍神様が発明したものとは現代でいうリップクリームでした。乾燥によりカサカサになっていた龍平の唇を治してやろうと考えたのでしたが、それを龍平に言うと接吻するためなのではと勘繰られそうだったので黙っていたのでした。

「まあ、そんな下心がなかったわけではないのがまた複雑なのだが。」


こうして、龍平はきづかないうちに唇の荒れは治り、とても艶々な唇になりました。そんな艶やかな唇を見て龍神様が接吻を欲しては龍平に拒否されるのを繰り返すのはまた別のお話。
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