龍神様の住む村

季節話

龍神様と遠距離恋愛

　冬の寒さも深まってきた頃、この日は珍しく龍平が屋敷に一人で過ごしておりました。

「龍神様が帰ってくるのは明日の昼かぁ...。」

龍神様が神様の会合とかで丸一日留守にするのでした。この屋敷に来てから、龍平は、村に帰るなど屋敷を開ける日はありましたが、龍神様が屋敷を開ける日はありませんでした。今日、初めて龍平が一人で屋敷で過ごすのです。

「さて...じゃあそろそろ飯でも作るか。」

龍平はそう言うと厨房に向かいました。厨房に来た龍平は台の上に文が置いてあることに気づきました。

「文...？なんだ？」

龍平は不思議に思いながら文を開きます。そこには龍神様の筆跡で、

『龍平よ、寂しくはないか？今のように愛する者同士が離れた場所で愛し合うことを未来では遠距離恋愛というらしいぞ』

と書かれていました。龍平はふっと口元を緩ませると、文を仕舞いに自室に来ました。すると、自室の床の上にも文が置いてあることに気づきました。この文も、龍神様の筆跡で書かれています。

『龍平よ、一人は寂しいだろう。私の自室に私の爪を一つ置いてある。寂しくなったらそれを私と思うのだぞ。』

「いや爪て。」

龍平は思わずつっこみましたが、好奇心には勝てず、龍神様の自室に向かいます。そこには本当に龍神様の爪が置かれていました。爪に触れるつもりは毛頭ありませんが、その隣に置いてあった文は手に取ります。

『龍平よ。寂しくなったか？お主のことだからこの爪に触れることはないのだろうな。私は龍平がこの文を見ている頃には寂しくて仕方がなくなっているぞ。龍平に会いたいのぉ』

龍平はこの文を読み、ほんの少し龍神様の未来視に反抗してみたくなりました。ゆっくり手を伸ばすと、龍神様の爪にほんの少し指先で触れます。少し触れた後すぐに離れると、厨房に戻って飯を作り始めました。

　その後も、龍神様が帰ってくるまでの間、屋敷の色々な場所で龍神様からの文が見つかりました。その文にはどれも「寂しいか？」と書かれていましたが、文を何度も見つけては、寂しさなど感じることもない龍平なのでした。