龍神様の住む村

世万江生紬

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季節話

龍神様と頭髪

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 これは何気ないいつものある日のことでした。いつものように何気ない日常を送るはずだったその日の朝、龍神様と龍平の住む屋敷から断末魔のような悲鳴が上がりました。

「りゅ、りゅうへい...お主...!!」

断末魔のような悲鳴の主は龍神様でした。龍神様は龍平の変わり果てた姿を見て、震えが止まりません。

「そ、そんなぁ...龍平ぃぃぃぃぃぃ!!」

「大げさすぎでは?」

そんな龍神様を冷めた目で見るのが、少し伸びた髪を自分で切り若干長さにばらつきはあるものの爽やかな印象が深くなった龍平です。そう、龍平はふと髪が伸びたな、と感じ自分で髪を切ったのですが、それを見た龍神様がそれはもう騒いでいたのでした。

「何を言うのだぁ!お主!髪を自分で切るだと!私に言ってくれればいいものをぉ...。」

「そんなに落ち込まなくても...。」

龍神様のあまりの様子に、悪いことをしたわけでは一切ないのになぜか罪悪感に苛まれる龍平です。とはいえ切ってしまったものはどうしようもありません。何か機嫌を取らないといけないだろうかと考え始めた時、龍神様が急に庭に向かいました。

「龍神様?どこかに行かれるんですか?」

「うむ...。どうしても諦めきれんのでな...。時に龍平、お主、私に髪を切られるのが嫌なわけではないのだよなぁ?」

「え?はい。今回は何も考えてなかったから自分で切っただけですよ。」

「ならば良い...。龍平、少し待っていてくれ。」

「あ、はい分かりました...。」

龍神様はそう言うとふっとどこかへ消えてしまいました。龍平はどうしたものかと思いましたが、龍神様に待って色と言われた手前そのままここで待っていることにしました。そしてしばらく待っていると龍神様が帰ってきました。一人の客人を連れて。

「も~急に連れて来られるから何かと思ったよ~。やっほー、久しぶりだね、龍平。」

「え!もぐらくん!?久しぶりだね。」

龍神様が連れてきたのはもぐら、真の名を土公神という神様です。龍神様の友達でものの大きさを自由に変えることのできる力を持っています。たまにふらっと現れては悪戯をしていく子どものような風貌の子ですが今日は龍神様に巻き込まれたようです。

「焦った様子で急に来るから何の用かと思ったら、龍平の髪を伸ばしてくれって。意味わかんないよ~。」

「先ほど説明したであろう。龍平が伸びた髪を自分で切ってしまったからもう一度伸ばしてほしいのだぁ。」

「だからそれが何でって。まあ聞かなくても想像はつくんだけど。」

「愛する者の体の一部を合法的に切ることが出来るのだぞぉ!絶対に私が切りたいのだぁ!」

「そっか~、はいはい分かったよ。」

もぐらはもう面倒くさいとでもいうかのように適当に返事をするとひょいっと龍平の髪を伸ばしました。龍神様の言葉にただただ引いていた龍平は元の少し伸びた髪よりももう少し伸びた髪の長さになりました。

「元の長さが分からないからこれくらいにしといたよ!まあ切るのが目的だから長さはどれくらいでもいいよね。」

「おぉ!もぐらよ、ありがとうなぁ。」

「もぐらくん、どうでもいいことに付き合わせてしまってすみません。ありがとうございました。」

龍平も思わずもぐらに礼を言います。礼というより詫びに近いものでしたが。しかしそんな龍平の言い回しに違和感を覚えるのが龍神様です。

「どうでもいいとは何だぁ!」

「どうでもいいでしょう!少なくとも、また伸びた時は龍神様が切ればよかった話じゃないですか!」

「あーあー、いいよいいよ!僕も暇してたし、暇つぶしになったし!夫婦喧嘩なんて聞きたくないからやめてよ~。」

「夫婦じゃないです!」

「あはは!じゃ、僕は帰るね。ばいばーい。」

もぐらはそう言うと本当に髪を伸ばしただけで帰っていきました。

「さて、じゃあもぐらくんにもお手間を取らせたわけですし。龍神様、そんなに俺の髪が切りたかったんですね。はい、どうぞ切ってください。」

「おぉ...!感慨深い...!」

こうして、無事龍神様は龍平の髪に触れ、龍神の髪を切ることが出来ました。それはそうとして、龍平の髪の仕上がりはそれは乱雑なもので龍平は次に髪が伸びた時の対応に頭を悩ませることになりました。
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