龍神様の住む村

世万江生紬

文字の大きさ
上 下
52 / 68
季節話

龍神様と空

しおりを挟む
 これは夏の暑さも和らぎ、秋を感じ始めた頃。

「うわー、畑に蜻蛉がすごいことに…。」

龍平がいつものように畑を耕そうと庭に出ると、畑の周りを大量の蜻蛉が飛んでいました。

「これはすごい数だのぉ。」

「少し走ったら顔に蜻蛉が直撃してしまいますよ。」

「む、そうなったら龍平の愛い顔に傷がついてしまうかもしれんな。どれ、追い払うか。」

龍神様はそういうとおもむろにに右手を掲げました。そしてしばらくすると蜻蛉はまるでとこからか集合の合図を聞き取ったかのように畑から離れていきました。

「おお、こんなことも出来るんですね、龍神様。」

「くはは。惚れたか?」

「いえ全く。」

「愛いやつめ。」

「話噛み合ってます?」

龍平は龍神様を軽く小突きながらふと、思ったことを口に出しました。

「そういえば龍神様は空が飛べるんですか?」

「むぅ?そりゃあ飛べるが?どうかしたのか?」

「あぁ、いえ。蜻蛉が自由に空を飛んでいたもので。俺もあんな風に飛べたらな、と思いまして。龍神様が飛べるなら、こう、俺を抱えて一緒に飛ぶとか出来るんですか?」

「くはは。もちろんだ、どれ!」

「わっ!」

言うが早いか龍神様は龍平をお姫様抱っこするとフワッとそのまま上空に浮き上がりました。

「わっ!高っ!屋敷があんな下に!」

「くはは、怖いか?」

「少し…というか、抱き抱え方はこれしか無かったんですか?」

「私に身を預けろ、龍平ぃ。」

「うわ、何か屈辱を感じます。」

「何でだぁ!」

龍神様は腕の中にいる龍平の顔を見ていると、ふと魔が差しました。ニヤリと笑って龍平に向かって口を開きます。

「龍平…ここで私がこの手を離したら、お主はどうなるだろうな?」

「?そりゃ落ちるでしょう。」

「いくらお主でも耐えられないか。」

「当たり前でしょう。こんなに高いんですから落ちたら死にます。」

「む、むぅ。」

龍神様は龍平の思っていたものとは違う反応に少し困惑します。この状況でこのような意地悪を言えば多少は狼狽えたり混乱したりするものですが、龍平はケロッとしてただ質問に応答するだけなのです。

「りゅ、龍平よ。私は今意地の悪いことを言った自覚はあるのだがなぜお主はそんなに平静でいられる。仮に私が言った通りにこの手を離したり…」

「しないでしょう?」

龍平は「何を言っているのだろう?」とでも言いたいような顔で龍神様を見ます。その顔に龍神様は思わず口元が緩みます。

「くはは。そうだなぁ。絶対にせんわそのような事。龍平よ、ただ真上に浮き上がるだけではつまらないだろう。少し空を散歩でもするか。」

「おぉ!いいですね!」


 そして2人は夕日によって赤くなった空をしばらくの間散歩していたのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...