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季節話
龍神様と女性
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これはいつものように龍平が畑を耕している時のこと。あたりをキョロキョロと見回しながら歩く女性の姿が見えました。衣も身体も泥で汚れており、どうやらここへは迷い込んでしまったようでした。
「あ、あの!すみません、私山の中で迷ってしまって...。」
「それは大変だったでしょう。そこに屋敷がありますので休んでいかれますか?もちろんその後山のふもとまで案内します。」
「それはとても助かります!ありがとうございます!」
龍平は村に住む女性としか話したことがないため女性との会話に慣れていませんが、人助けと言うことなら別です。泥だらけで疲れ切っている女性の体を休ませることを第一に考えます。
「縁側にどうぞ座って休んでください。」
「ありがとうございます。あの...こちらにはお一人で?」
「あぁ、いえ、同居人がいます。」
「まぁ!お嫁さんですか?私それなら...。」
「あ、いいえ!嫁ではないですから大丈夫ですよ。それに、今は出掛けていますがそんなにボロボロな貴方を放っておくなんて同居人も許しませんよ。」
「そうですか。ではお言葉に甘えて。」
女性はそう言うとふーっと息を吐き、服の胸元を掴んでパタパタと風を送ります。衣服を引っ張ることでちらりと見える女性の胸元を見ないように、龍平は顔を赤くして逸らします。
「そ、それはそうとなぜこんな山の中に?」
「...実は私、望まない婚姻を結ばれそうになりまして。それが嫌で逃げ出したんです。」
「そうだったんですか...。」
「無我夢中で逃げていたので軽い遭難までしてしまって...。でも今は、逃げて良かったと思っています。」
「え?」
「だって、こんなに素敵な男性に会えましたから...。」
女性はそう言うと龍平の方を見て頬を染め、妖艶に笑みを浮かべます。龍平はそこまで鈍感ではありません。女性の言わんとすることもすぐに理解しました。理解をした上でどういう行動を取ったらいいのか分からず固まります。
「龍平さん...私、衣服が泥だらけでとても気持ち悪いんです...。脱がせて...もらえませんか?」
「え!?あの、ちょっと!」
「龍平さん...。」
女性は艶やかに龍平の名を呼びながらその手を龍平の首元に伸ばします。近づいてくる女性の柔らかな肌に困惑しながら、龍平は女性の手を掴みます。そして叫びました。
「き、君は誰ですか!?」
龍平のその叫び声に驚いた女性が一瞬手の力を緩めたその瞬間、龍平はパッと女性から離れました。
「あ、あの、龍平さん?」
「お、俺は女性とその、そう言う行為に及ぶと同居人に怒られるので、好いてない相手には何もしません!貴方とは出会ったばかりじゃないですか!」
「出会った時間なんて関係ないですよ。私は貴方を一目見て...。」
「いや!もう何が何だか良く分からないですが貴方誰なんですか!」
「誰って私は...。」
「何で名乗ってないのに俺の名前知ってるんですか!」
そう、この女性に龍平は名を名乗っていません。にもかかわらず女性は龍平さん、と呼びました。女性に言い寄られるという困惑の事態に龍平も深く考えませんでしたが、よく考えたらおかしいことに気づいていました。
「何かの目的があってきたというのであれば正直に言って下さい!」
「そうだぞぉ、兎ノ神。正直に言うのだぁ。」
「え!?龍神様!?え、と言うか兎ノ神様!?」
龍平が女性を前に困惑している間に、いつの間にか龍神様は背後に立っていました。そして龍平の予想していなかった事実を告げます。
「なんだ、バレちゃった。」
女性はそう言うとまばゆい光に包まれ、次の瞬間白髪の美青年、兎ノ神の姿になりました。
「兎ノ神様!?なぜ!?」
「なぜって...色仕掛け?龍平は普通の男だし、女性に言い寄られたら龍神なんて放っていい思いするかなーと思ったんだけど、僕の詰めが甘かったね。」
「なぜそんなことをするぅ、兎ノ神よ。」
「まあいいじゃない。僕のおかげで、龍平は女性に言い寄られても理性を保つ男だということが分かったよ。」
「ま、まあそれは感謝するがぁ...。」
「女性側からしたら渾身のお誘いを無下にされて、意気地の無い男だと思わざるを得ないけど。」
「え、なんで俺に飛び火するんですか。」
兎ノ神は悪戯な笑顔で笑いながら言います。龍神様も龍平が女性になびかないということを知れましたし、龍平も特に害があったわけではないので強く出られません。
「まあ、ちょっとは楽しめたかな。じゃまたね、龍平、龍神。」
「今度は普通に遊びに来い。」
龍平は最後まで事態を飲み込めず茫然としていましたが、仮にあの時誘いに乗っていたらどうなっていたのだろうと考えると、背筋がぞっとしたのでした。
「あ、あの!すみません、私山の中で迷ってしまって...。」
「それは大変だったでしょう。そこに屋敷がありますので休んでいかれますか?もちろんその後山のふもとまで案内します。」
「それはとても助かります!ありがとうございます!」
龍平は村に住む女性としか話したことがないため女性との会話に慣れていませんが、人助けと言うことなら別です。泥だらけで疲れ切っている女性の体を休ませることを第一に考えます。
「縁側にどうぞ座って休んでください。」
「ありがとうございます。あの...こちらにはお一人で?」
「あぁ、いえ、同居人がいます。」
「まぁ!お嫁さんですか?私それなら...。」
「あ、いいえ!嫁ではないですから大丈夫ですよ。それに、今は出掛けていますがそんなにボロボロな貴方を放っておくなんて同居人も許しませんよ。」
「そうですか。ではお言葉に甘えて。」
女性はそう言うとふーっと息を吐き、服の胸元を掴んでパタパタと風を送ります。衣服を引っ張ることでちらりと見える女性の胸元を見ないように、龍平は顔を赤くして逸らします。
「そ、それはそうとなぜこんな山の中に?」
「...実は私、望まない婚姻を結ばれそうになりまして。それが嫌で逃げ出したんです。」
「そうだったんですか...。」
「無我夢中で逃げていたので軽い遭難までしてしまって...。でも今は、逃げて良かったと思っています。」
「え?」
「だって、こんなに素敵な男性に会えましたから...。」
女性はそう言うと龍平の方を見て頬を染め、妖艶に笑みを浮かべます。龍平はそこまで鈍感ではありません。女性の言わんとすることもすぐに理解しました。理解をした上でどういう行動を取ったらいいのか分からず固まります。
「龍平さん...私、衣服が泥だらけでとても気持ち悪いんです...。脱がせて...もらえませんか?」
「え!?あの、ちょっと!」
「龍平さん...。」
女性は艶やかに龍平の名を呼びながらその手を龍平の首元に伸ばします。近づいてくる女性の柔らかな肌に困惑しながら、龍平は女性の手を掴みます。そして叫びました。
「き、君は誰ですか!?」
龍平のその叫び声に驚いた女性が一瞬手の力を緩めたその瞬間、龍平はパッと女性から離れました。
「あ、あの、龍平さん?」
「お、俺は女性とその、そう言う行為に及ぶと同居人に怒られるので、好いてない相手には何もしません!貴方とは出会ったばかりじゃないですか!」
「出会った時間なんて関係ないですよ。私は貴方を一目見て...。」
「いや!もう何が何だか良く分からないですが貴方誰なんですか!」
「誰って私は...。」
「何で名乗ってないのに俺の名前知ってるんですか!」
そう、この女性に龍平は名を名乗っていません。にもかかわらず女性は龍平さん、と呼びました。女性に言い寄られるという困惑の事態に龍平も深く考えませんでしたが、よく考えたらおかしいことに気づいていました。
「何かの目的があってきたというのであれば正直に言って下さい!」
「そうだぞぉ、兎ノ神。正直に言うのだぁ。」
「え!?龍神様!?え、と言うか兎ノ神様!?」
龍平が女性を前に困惑している間に、いつの間にか龍神様は背後に立っていました。そして龍平の予想していなかった事実を告げます。
「なんだ、バレちゃった。」
女性はそう言うとまばゆい光に包まれ、次の瞬間白髪の美青年、兎ノ神の姿になりました。
「兎ノ神様!?なぜ!?」
「なぜって...色仕掛け?龍平は普通の男だし、女性に言い寄られたら龍神なんて放っていい思いするかなーと思ったんだけど、僕の詰めが甘かったね。」
「なぜそんなことをするぅ、兎ノ神よ。」
「まあいいじゃない。僕のおかげで、龍平は女性に言い寄られても理性を保つ男だということが分かったよ。」
「ま、まあそれは感謝するがぁ...。」
「女性側からしたら渾身のお誘いを無下にされて、意気地の無い男だと思わざるを得ないけど。」
「え、なんで俺に飛び火するんですか。」
兎ノ神は悪戯な笑顔で笑いながら言います。龍神様も龍平が女性になびかないということを知れましたし、龍平も特に害があったわけではないので強く出られません。
「まあ、ちょっとは楽しめたかな。じゃまたね、龍平、龍神。」
「今度は普通に遊びに来い。」
龍平は最後まで事態を飲み込めず茫然としていましたが、仮にあの時誘いに乗っていたらどうなっていたのだろうと考えると、背筋がぞっとしたのでした。
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