48 / 69
季節話
龍神様と女性
しおりを挟む
これはいつものように龍平が畑を耕している時のこと。あたりをキョロキョロと見回しながら歩く女性の姿が見えました。衣も身体も泥で汚れており、どうやらここへは迷い込んでしまったようでした。
「あ、あの!すみません、私山の中で迷ってしまって...。」
「それは大変だったでしょう。そこに屋敷がありますので休んでいかれますか?もちろんその後山のふもとまで案内します。」
「それはとても助かります!ありがとうございます!」
龍平は村に住む女性としか話したことがないため女性との会話に慣れていませんが、人助けと言うことなら別です。泥だらけで疲れ切っている女性の体を休ませることを第一に考えます。
「縁側にどうぞ座って休んでください。」
「ありがとうございます。あの...こちらにはお一人で?」
「あぁ、いえ、同居人がいます。」
「まぁ!お嫁さんですか?私それなら...。」
「あ、いいえ!嫁ではないですから大丈夫ですよ。それに、今は出掛けていますがそんなにボロボロな貴方を放っておくなんて同居人も許しませんよ。」
「そうですか。ではお言葉に甘えて。」
女性はそう言うとふーっと息を吐き、服の胸元を掴んでパタパタと風を送ります。衣服を引っ張ることでちらりと見える女性の胸元を見ないように、龍平は顔を赤くして逸らします。
「そ、それはそうとなぜこんな山の中に?」
「...実は私、望まない婚姻を結ばれそうになりまして。それが嫌で逃げ出したんです。」
「そうだったんですか...。」
「無我夢中で逃げていたので軽い遭難までしてしまって...。でも今は、逃げて良かったと思っています。」
「え?」
「だって、こんなに素敵な男性に会えましたから...。」
女性はそう言うと龍平の方を見て頬を染め、妖艶に笑みを浮かべます。龍平はそこまで鈍感ではありません。女性の言わんとすることもすぐに理解しました。理解をした上でどういう行動を取ったらいいのか分からず固まります。
「龍平さん...私、衣服が泥だらけでとても気持ち悪いんです...。脱がせて...もらえませんか?」
「え!?あの、ちょっと!」
「龍平さん...。」
女性は艶やかに龍平の名を呼びながらその手を龍平の首元に伸ばします。近づいてくる女性の柔らかな肌に困惑しながら、龍平は女性の手を掴みます。そして叫びました。
「き、君は誰ですか!?」
龍平のその叫び声に驚いた女性が一瞬手の力を緩めたその瞬間、龍平はパッと女性から離れました。
「あ、あの、龍平さん?」
「お、俺は女性とその、そう言う行為に及ぶと同居人に怒られるので、好いてない相手には何もしません!貴方とは出会ったばかりじゃないですか!」
「出会った時間なんて関係ないですよ。私は貴方を一目見て...。」
「いや!もう何が何だか良く分からないですが貴方誰なんですか!」
「誰って私は...。」
「何で名乗ってないのに俺の名前知ってるんですか!」
そう、この女性に龍平は名を名乗っていません。にもかかわらず女性は龍平さん、と呼びました。女性に言い寄られるという困惑の事態に龍平も深く考えませんでしたが、よく考えたらおかしいことに気づいていました。
「何かの目的があってきたというのであれば正直に言って下さい!」
「そうだぞぉ、兎ノ神。正直に言うのだぁ。」
「え!?龍神様!?え、と言うか兎ノ神様!?」
龍平が女性を前に困惑している間に、いつの間にか龍神様は背後に立っていました。そして龍平の予想していなかった事実を告げます。
「なんだ、バレちゃった。」
女性はそう言うとまばゆい光に包まれ、次の瞬間白髪の美青年、兎ノ神の姿になりました。
「兎ノ神様!?なぜ!?」
「なぜって...色仕掛け?龍平は普通の男だし、女性に言い寄られたら龍神なんて放っていい思いするかなーと思ったんだけど、僕の詰めが甘かったね。」
「なぜそんなことをするぅ、兎ノ神よ。」
「まあいいじゃない。僕のおかげで、龍平は女性に言い寄られても理性を保つ男だということが分かったよ。」
「ま、まあそれは感謝するがぁ...。」
「女性側からしたら渾身のお誘いを無下にされて、意気地の無い男だと思わざるを得ないけど。」
「え、なんで俺に飛び火するんですか。」
兎ノ神は悪戯な笑顔で笑いながら言います。龍神様も龍平が女性になびかないということを知れましたし、龍平も特に害があったわけではないので強く出られません。
「まあ、ちょっとは楽しめたかな。じゃまたね、龍平、龍神。」
「今度は普通に遊びに来い。」
龍平は最後まで事態を飲み込めず茫然としていましたが、仮にあの時誘いに乗っていたらどうなっていたのだろうと考えると、背筋がぞっとしたのでした。
「あ、あの!すみません、私山の中で迷ってしまって...。」
「それは大変だったでしょう。そこに屋敷がありますので休んでいかれますか?もちろんその後山のふもとまで案内します。」
「それはとても助かります!ありがとうございます!」
龍平は村に住む女性としか話したことがないため女性との会話に慣れていませんが、人助けと言うことなら別です。泥だらけで疲れ切っている女性の体を休ませることを第一に考えます。
「縁側にどうぞ座って休んでください。」
「ありがとうございます。あの...こちらにはお一人で?」
「あぁ、いえ、同居人がいます。」
「まぁ!お嫁さんですか?私それなら...。」
「あ、いいえ!嫁ではないですから大丈夫ですよ。それに、今は出掛けていますがそんなにボロボロな貴方を放っておくなんて同居人も許しませんよ。」
「そうですか。ではお言葉に甘えて。」
女性はそう言うとふーっと息を吐き、服の胸元を掴んでパタパタと風を送ります。衣服を引っ張ることでちらりと見える女性の胸元を見ないように、龍平は顔を赤くして逸らします。
「そ、それはそうとなぜこんな山の中に?」
「...実は私、望まない婚姻を結ばれそうになりまして。それが嫌で逃げ出したんです。」
「そうだったんですか...。」
「無我夢中で逃げていたので軽い遭難までしてしまって...。でも今は、逃げて良かったと思っています。」
「え?」
「だって、こんなに素敵な男性に会えましたから...。」
女性はそう言うと龍平の方を見て頬を染め、妖艶に笑みを浮かべます。龍平はそこまで鈍感ではありません。女性の言わんとすることもすぐに理解しました。理解をした上でどういう行動を取ったらいいのか分からず固まります。
「龍平さん...私、衣服が泥だらけでとても気持ち悪いんです...。脱がせて...もらえませんか?」
「え!?あの、ちょっと!」
「龍平さん...。」
女性は艶やかに龍平の名を呼びながらその手を龍平の首元に伸ばします。近づいてくる女性の柔らかな肌に困惑しながら、龍平は女性の手を掴みます。そして叫びました。
「き、君は誰ですか!?」
龍平のその叫び声に驚いた女性が一瞬手の力を緩めたその瞬間、龍平はパッと女性から離れました。
「あ、あの、龍平さん?」
「お、俺は女性とその、そう言う行為に及ぶと同居人に怒られるので、好いてない相手には何もしません!貴方とは出会ったばかりじゃないですか!」
「出会った時間なんて関係ないですよ。私は貴方を一目見て...。」
「いや!もう何が何だか良く分からないですが貴方誰なんですか!」
「誰って私は...。」
「何で名乗ってないのに俺の名前知ってるんですか!」
そう、この女性に龍平は名を名乗っていません。にもかかわらず女性は龍平さん、と呼びました。女性に言い寄られるという困惑の事態に龍平も深く考えませんでしたが、よく考えたらおかしいことに気づいていました。
「何かの目的があってきたというのであれば正直に言って下さい!」
「そうだぞぉ、兎ノ神。正直に言うのだぁ。」
「え!?龍神様!?え、と言うか兎ノ神様!?」
龍平が女性を前に困惑している間に、いつの間にか龍神様は背後に立っていました。そして龍平の予想していなかった事実を告げます。
「なんだ、バレちゃった。」
女性はそう言うとまばゆい光に包まれ、次の瞬間白髪の美青年、兎ノ神の姿になりました。
「兎ノ神様!?なぜ!?」
「なぜって...色仕掛け?龍平は普通の男だし、女性に言い寄られたら龍神なんて放っていい思いするかなーと思ったんだけど、僕の詰めが甘かったね。」
「なぜそんなことをするぅ、兎ノ神よ。」
「まあいいじゃない。僕のおかげで、龍平は女性に言い寄られても理性を保つ男だということが分かったよ。」
「ま、まあそれは感謝するがぁ...。」
「女性側からしたら渾身のお誘いを無下にされて、意気地の無い男だと思わざるを得ないけど。」
「え、なんで俺に飛び火するんですか。」
兎ノ神は悪戯な笑顔で笑いながら言います。龍神様も龍平が女性になびかないということを知れましたし、龍平も特に害があったわけではないので強く出られません。
「まあ、ちょっとは楽しめたかな。じゃまたね、龍平、龍神。」
「今度は普通に遊びに来い。」
龍平は最後まで事態を飲み込めず茫然としていましたが、仮にあの時誘いに乗っていたらどうなっていたのだろうと考えると、背筋がぞっとしたのでした。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる