龍神様の住む村

季節話

龍神様と万聖節

　「龍平、とりっくあおとりーとぉ。」

「は？」

十月三十一日。どこからかカボチャを調達してきた龍神様は龍平に向かって謎の呪文を唱えます。しかし龍平は意味が分からずポカンとしています。

「未来視でなぁ、未来ではこの日に『とりっくおあとりーと』と唱えるとお菓子が貰えるのだぁ。」

「はぁ。でもここは未来ではないので。」

「せっかくだから未来の行事を楽しもうと思ってなぁ。ちなみに『とりっくおあとりーと』は『お菓子をくれないと悪戯するぞ』という意味らしいぞぉ。お菓子がないなら悪戯を...」

「お菓子が欲しいんですか？ありますよ。」

「あるのか。」

龍平はとにかく意味は分かりませんが、龍神様がお菓子を欲していると解釈し、台所から先日モグラが持ってきた菓子を取り出しました。

「はいどうぞ。」

「う、うむ。こういうことではないのだがぁ...。」

龍神様は龍平の勘違いに、遺憾を覚えつつも訂正は出来ません。龍平が渡したお菓子をもぐもぐと食べます。

「では龍神様、『とりっくおあとりーと』です。」

「むぅ？」

「あ、あれ？龍神様がしたことをし返すのは違うのですか？」

「い、いや違わぬぞぉ。違わぬが...。」

龍神様は元々龍平がお菓子を持っていると思っていなかったので、悪戯をするつもりでした。そして、まさか龍平が同じようにやり返してくることは完全に考えていませんでした。そのため龍神様はお菓子を持っていないのです。

「すまぬ、菓子は持っておらぬ。」

「なら悪戯ですね。お菓子をくれないと悪戯するぞ、ですもんね。」

「そ、そうだなぁ。」

加えて龍神様は自分が悪戯をされる側になるとは思っていませんでした。龍平が何を考えているのか読めません。

「では失礼して...。」

「りゅ、龍平！？」

龍平はおもむろに寝転がると、龍神様のしっぽに頭を乗せました。

「龍神様のしっぽ、一度枕にしてみたかったんですよー。寝心地はあんまりよくないですね。あ、動かないでくださいよー俺がいいって言うまでで。悪戯ですからね。」

「そ、そうかぁ。悪戯なら仕方がないなぁ。」


龍平にとっては悪戯でも、龍神様にしてみればご褒美です。龍神様は未来の万聖節に感謝し、お菓子と悪戯の
どちらもしっかり楽しみました。