龍神様の住む村

世万江生紬

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季節話

龍神様と引越し

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 これは夏の暑さもひと段落し、過ごしやすい気候になってきた頃。

「そろそろこの場所も変えるかぁ。」

「はい??」

長い時を生きる龍神様はいつだって突然です。龍神様と一緒に暮らしだして大分この生活に慣れてきた時のこの発言です。さすがの龍平も心の底から疑問符を浮かべました。

「私は村を守ってはいるが住む場所は定期的に変えているのだぁ。一から作り出すというのが長寿な私の楽しみ名なのだぁ。」

「は、はぁ...つまりこの屋敷から引っ越すと?」

「そうだなぁ。引っ越すというか、新しい家を作るのだが。」

「作る!?待ってください、一応聞きますけど、この屋敷もじゃあ一から作ったってことですよね?どれくらいの年月がかかったのですか?立派なお屋敷だと思うのですが。」

「ざっと五十年くらいかぁ?急ぐ必要もないからゆっくりと作っていたしなぁ。」

龍神様の話を聞いた龍平はたまったものではありません。元はと言えば龍神様の勘違いでこの屋敷に住みだしたもののそれでも少しずつこの屋敷に慣れていったのです。今となってはただいまと言える場所を変えることに躊躇はも凝ります。

「あ、あの龍神様、一応聞きますが、その新しく作る屋敷には俺も移るのですよね...?」

「そうだぁ。一緒に新たな新居で暮らそうぞぉ。一から何かを作るのは久々だぁ。楽しみだなぁ。」

もしかしたら住処を変えるのは龍神様だけかと思い質問してみますが、当然龍平も一緒のようでした。龍神様だけが移り住むのならともかく、一から屋敷を作る、それも五十年もかけて、となるとさすがの龍平も反対せずにはいられません。しかし、龍神様は本当に楽しみな様子でした。そもそも長命な神と人間では時の捉え方も違います。長命だからこそ見つけた自分だけの楽しみを奪ってしまうのも龍平には気が引けるのでした。

「どうしたぁ龍平よ。不満があるなら聞くぞぉ。」

「あー。えっと...。」

真向から反対派したくないものの、龍神様の心持は変えたい。そんな龍平が取れる手段は、龍平の思いつく限りは一つだけでした。

「龍神様、俺、龍神様と暮らしたこの屋敷がとても気に入っています。龍神様との思い出もいっぱいだし、ふとした時に思い出すのが嬉しいんです。だから...ずっとここにいたいです。」

「ぐはっ!」

この状況で龍平が取れた手段はかわいくおねだりすることでした。出来るだけ優しい声色で、上目遣いに、龍神様の手に手を重ねながらの龍平渾身のおねだりは、みごと龍神様の心に届いたのでした。

「ううん、そうだなぁ、ここには思い出がいっぱいだぁ。ずっとここで一緒に暮らそうぞぉ。」

「...良かった。」


 こうして引っ越し及び長年にわたる新居建設を阻止した龍平はほっと胸をなでおろしましたが、自分からこれからもずっと一緒にいるという約束をしたことには未だ気づいていないのでした。
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