龍神様の住む村

世万江生紬

文字の大きさ
上 下
31 / 69
季節話

龍神様と蚊

しおりを挟む
  夏の暑い日、龍平がいつものように庭先の畑を耕していると一匹の蚊が龍平の首に止まりました。

「うわっ!もうっ!」

すぐに気づいた龍平は俊敏な反射神経と鍛え抜かれた手の筋肉でペチンと首を叩くと、1発で蚊を仕留めました。

「うわ~血、吸われてる。痒くなりそうだな。」

「龍平、何があったぁ?」

「大したことはないですよ。」

龍平の驚いた声が聞こえた龍神様は、すぐさま庭に出て龍平の元へ駆け寄りました。

「龍平の驚いた声が聞こえたからすっ飛んできたんだがぁ。」

「あ~...蚊に血を吸われただけですよ。痒くなるから嫌だなと思っただけです。」

「なるほど、そういうことかぁ。どれ、見せてみろぉ。」

「え?はい。」

龍平は龍神様の言葉に素直に従うと、蚊が止まってた腕を龍神様に見せました。

「どれ...。」

龍神様はそう言うと、左手で龍平の腕をガシッと持ち、蚊に血を吸われて少し赤くなって膨れた部分に右手を軽く手をかざしました。

「えーっと、龍神様?何を?」

「なあに、蚊の唾液を取り除いただけだぁ。」

「は?え、唾液?」

「蚊に血を吸われて痒くなるのは蚊の唾液のせいだからなぁ。取り除いてやれば痒くはないだろう。」

「へぇ、そうなんですね。ありがとうございます。かゆみは無くなって気がします。」

「くはは、そうだろうそうだろう。もっと褒めても良いのだぞぉ。」

「あー...。」

龍平は図に乗った龍神様の言葉に、いつものように冷たくあしらおうと思いましたが龍神様のおかげで助かったのも事実。迷った挙句、龍神様の望み通り褒めてあげることにしました。

「龍神様は本当に頼りになりますね。」

「くはは、そうだろうそうだろう。」

「龍神様のおかげで毎日不自由なく過ごせています。」

「くはは、愛の力だなぁ。」

「あ、そうですか。えー、蚊に吸われた痒みでさえ龍神様なら何とかしてくれるとは思いませんでした。」

「くはは、まぁ私としても、私以外の者の体液が龍平の体の中に入るなど嫌だからなぁ。」

「うわ...。」

龍平は龍神様の言葉に何も隠すことなく顔を引きつらせました。そしてそのまま後ずさると、屋敷の中に戻っていきました。

「龍平ぃ?おい龍平よ、もう私を褒めてくれぬのかぁ?」

「もう終わりです!」


 龍神様のことは尊敬し、感謝している龍平ですが、未だに時折見られる偏った愛の伝え方には戸惑い及び不快感は隠しきれないのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

陛下の失われしイチモツをみつけた者を妃とする!………え、ヤバいどうしよう!?

ミクリ21
BL
主人公がヤバいことしてしまいました。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話

天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。 レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。 ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。 リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

使命を全うするために俺は死にます。

あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。 とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。 だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。 それが、みなに忘れられても_

処理中です...