龍神様の住む村

世万江生紬

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季節話

龍神様と接吻

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 龍神様と暮らし始め、最初は龍神様に畏怖や遠慮、ためらいがあった龍平も今では何のためらいもなく龍神様を無下に扱うことが出来るほど打ち解けたこの頃、龍神様はある一つの願いを抱くようになりました。

「龍平、私と接吻してはくれないかぁ?」

そう、龍平との距離が縮まったと感じると、次に求めるのは愛する相手との触れ合い。龍神様は抑えきれない欲求をそのまま龍平に伝えました。が、

「拒否します。」

龍平はいつものように冷ややかな目で冷たく言い放ちます。

「うむ、分かっておる。断られるとは思っておったぁ。だが想定内だとしてもなお、願いを抱くことはやめられんのだぁ。頼む龍平。」

「断固拒否します。」

「口でなくともよいのだぁ。頬、いや、手で良い。指先で良いから。」

「嫌です。」

「なら私からするぞぉ。指先、いや許してくれるのならばどこでも良いから接吻させてくれ。」

「どこでも良いなら床としていればよいのではないですか?」

「さすがに無下に扱い過ぎじゃあないか?龍平よ。」

しつこく食い下がる龍神様に対し、冷たくあしらう龍平、二人は平行線を続けます。

「曲がりなりにも神だぞ、私は。神に向かって床と接吻しろなぞ...言ったのが龍平でなければ神の怒りをぶつけているところだぁ。」

「あ、対俺なら許してくれるのですね。自分でもちょっと言い過ぎたと思ってたのに、許されるんだ...。いやでも、神だぞと言うのであれば、人間の嫌がることを無理にしようとするのは神のやることなのですか?」

「お主、痛いところをつくのぉ...。」

正論をつくなら、龍平の方が一枚上手です。龍平はゆっくりと龍神様を言い負かしていきます。

「ぬぅ...分かった、分かったぁ。私も龍平が心から嫌がることはしたくない。接吻はもうしばらく先の未来にお預けする。だからその代わりに、抱擁だけは許してくれまいかぁ?」

「抱擁...はぁ、分かりました、分かりました。でも貴方龍ですから、いくら俺でも龍に抱きしめられると物理的に骨が折れます。だから俺からします。いいですね?」

「うむうむ、構わん。感謝するぞ龍平。」

こうして龍神様は接吻は出来ずとも、愛する者ともっと触れ合いたいという願いは叶えました。
 ところで、人にものを頼む時には、まず実現が難しいお願いをしてから、難易度を下げると聞いてもらえやすくなるのだとか。

 一見頼りなさそうに見えようと、誇り高く見えずとも、曲がりなりにも何年も生きている神。お願い事をするならば龍神様の方が一枚上手なことに、龍平は全く気が付いていないのでした。
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