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双子と四月の入学式
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桜が咲いて上を見るとピンクのカーテンがかかっている、そんな四月。今日は双子の中学の入学式。俺と双子はそろって玄関を出る。
「うーん、やっぱりこの制服大きくて動きづらいー。」
「これから成長するだろうから仕方ないのも分かりますが、不快なものは不快です...。」
双子がぶちぶちと文句を言いながら歩き出す。でも俺はそんな文句もちょっとした照れ隠しの様に思えた。そんな双子の様子に意味もなく嬉しくなった俺は数歩先を並んで歩く双子に「お前ら揃って服に着られてるなー」なんて軽口を叩くと、すかさず陽人の「うるさい!」という反論が入る。こんな下らない言い争いに俺はちょっとした幸せを感じる。
こんな言い争いをしながら三十分ばかり歩くと、中学校が見えた。大きな校門が特徴で、春には門の周りの桜が満開に咲いて一面がピンクに染まる。校庭は放課後は解放されていて、地元の子どもたちの遊び場になるこのあたりじゃ知らない人間はいない公立中学校だ。
「着きましたね。」
月人が歴史を感じる立派な校門を見上げながらつぶやく。余談だが双子は元々家族と暮らしていた家から俺の家に越してきたわけだが、実は区域的には変わっていない。だから通う中学校も特に変えず小学校からの知り合いたちも多い。双子は校門をくぐり、知った顔を見つけたのか「おはよー!」と挨拶なんかしている。笑顔で小学校からの友人に挨拶をする双子の様子を見て、俺は疑問に思ったことを聞いてみる。
「なあ、お前ら親が亡くなったこと友達は知ってんのか?」
「知らないと思いますよ。両親が死んだのは春休みに入ってからですから。」
「そうそう。ボクたち特に誰にも言ってないし。」
ならこれから親関連の学校行事なんかでは嫌な思いをするんじゃないか、なんて思ったけど思ったところでどうにもならない。親が死んだなんて友達に大々的に言いたいものじゃないし。俺は話題を変えてもう一つ気になったことを聞く。
「お前ら、友達に対してはすごい友好的だけど、さすがに友達に死にたいとか言わねぇよな?中学で死にたがりとか...。」
これが少し気がかりだった。誰だって死にたいほど辛い思いをすれば誰かに漏らしたくなるものだ。生んでくれた、言ったら絶対にマジになって止めに来る親に対しては言えないだろうから言うなら何でも相談できるほど仲の良い友達になるだろう。この場合、友達に死にたがりを吐露してもおかしくないんだけど、それは保護者としても辞めてほしかった。加えて中学で死にたがりが発動したら俺に止める術はない。中学校で自殺されることだけは絶対に避けたい。
「はぁ?言わないよ。友達は親死んだこと知らないって言ってんじゃん。それに、死にたいって言われるのとか、学校内で自殺されるのとか、どんだけ迷惑かかると思ってんの。」
「生きていたいとも思えませんけど、少なくとも中学は世間一般の中学生らしく普通に通いますよ。外でだけでいから普通の家族でいてほしいって言ったのは零でしょう?その約束は守ります。」
俺に迷惑かけるのはいいのか、と思いつつ『外では普通の家族として過ごす』っていう約束は守ってくれるみたいで安心した。引き取ってすぐに比べると双子はだいぶ丸くなったと思う。元々の性格に戻っていってるって方が正しいか。このまま時間経過や中学生活の中で楽しい思い出作って生きる希望見つけて死にたがりも収まってくれたらいいんだけど。
「中学生活、楽しめよ。体育会とか、文化祭とか、楽しいことは盛りだくさんだからな。」
俺は入学式の会場に向かう二人の背中を押しながら言う。心からの本心だった。中学生活を楽しんでほしい。部活とか入っていろんな人と繋がってほしい。テストとか辛いって言いながら頑張ってほしい。学校行事に参加して笑顔の思い出を作って欲しい。親がいなくても楽しい思い出は作れることを知ってほしい。
俺は出来なかったから。
「生きていたいって思えればいいんだけどね。」
陽人が少し悲しそうな顔でつぶやく。俺はその言葉を聞いて、陽人は生きる希望を見つけようとしてるんじゃないかと思った。生きていたいと思えるように、何かすがれるものを探しているんじゃないかと。
「「行ってきます。」」
陽人の言葉に何も返せずいると、双子は会場に向かってしまった。俺は双子の背中を見ながらこれから始まる生活に淡い期待を抱いていた。
入学式、説明レクリエーションも終わり、今日はもう帰るだけになった。先に教室を出て昇降口で双子を待っていると、生徒がワラワラと降りてきた。一年生だけにしては人数が多いから二三年生だろうか。今日は二三年も登校してたのか、すぐに帰るとかちょっとかわいそうだなー、なんてボーっと考えていると双子が降りてきた。
「お待たせー。」
陽人が元気に手を振る。俺は「おー、じゃあ帰るか」と軽く声をかけ、校門に向かって歩き出したところで背後から声が聞こえた。
「陽人と月人...だよな?」
振り向くとそこにいたのは多分三年生だろう男子生徒二人組だった。双子を見て驚いた顔をしていたが、やがて嬉しいような悔しいような顔になり、その目には少し涙がにじんでいるようにも見えた。中学生にしてはやたら顔が整っていて、モテそうだなーって言うのが正直な感想だけど、この二人、どこか顔立ちが似てるような気もした。
二人の顔を見て双子はその名前を口にした。
「日向?」「千影?」
「うーん、やっぱりこの制服大きくて動きづらいー。」
「これから成長するだろうから仕方ないのも分かりますが、不快なものは不快です...。」
双子がぶちぶちと文句を言いながら歩き出す。でも俺はそんな文句もちょっとした照れ隠しの様に思えた。そんな双子の様子に意味もなく嬉しくなった俺は数歩先を並んで歩く双子に「お前ら揃って服に着られてるなー」なんて軽口を叩くと、すかさず陽人の「うるさい!」という反論が入る。こんな下らない言い争いに俺はちょっとした幸せを感じる。
こんな言い争いをしながら三十分ばかり歩くと、中学校が見えた。大きな校門が特徴で、春には門の周りの桜が満開に咲いて一面がピンクに染まる。校庭は放課後は解放されていて、地元の子どもたちの遊び場になるこのあたりじゃ知らない人間はいない公立中学校だ。
「着きましたね。」
月人が歴史を感じる立派な校門を見上げながらつぶやく。余談だが双子は元々家族と暮らしていた家から俺の家に越してきたわけだが、実は区域的には変わっていない。だから通う中学校も特に変えず小学校からの知り合いたちも多い。双子は校門をくぐり、知った顔を見つけたのか「おはよー!」と挨拶なんかしている。笑顔で小学校からの友人に挨拶をする双子の様子を見て、俺は疑問に思ったことを聞いてみる。
「なあ、お前ら親が亡くなったこと友達は知ってんのか?」
「知らないと思いますよ。両親が死んだのは春休みに入ってからですから。」
「そうそう。ボクたち特に誰にも言ってないし。」
ならこれから親関連の学校行事なんかでは嫌な思いをするんじゃないか、なんて思ったけど思ったところでどうにもならない。親が死んだなんて友達に大々的に言いたいものじゃないし。俺は話題を変えてもう一つ気になったことを聞く。
「お前ら、友達に対してはすごい友好的だけど、さすがに友達に死にたいとか言わねぇよな?中学で死にたがりとか...。」
これが少し気がかりだった。誰だって死にたいほど辛い思いをすれば誰かに漏らしたくなるものだ。生んでくれた、言ったら絶対にマジになって止めに来る親に対しては言えないだろうから言うなら何でも相談できるほど仲の良い友達になるだろう。この場合、友達に死にたがりを吐露してもおかしくないんだけど、それは保護者としても辞めてほしかった。加えて中学で死にたがりが発動したら俺に止める術はない。中学校で自殺されることだけは絶対に避けたい。
「はぁ?言わないよ。友達は親死んだこと知らないって言ってんじゃん。それに、死にたいって言われるのとか、学校内で自殺されるのとか、どんだけ迷惑かかると思ってんの。」
「生きていたいとも思えませんけど、少なくとも中学は世間一般の中学生らしく普通に通いますよ。外でだけでいから普通の家族でいてほしいって言ったのは零でしょう?その約束は守ります。」
俺に迷惑かけるのはいいのか、と思いつつ『外では普通の家族として過ごす』っていう約束は守ってくれるみたいで安心した。引き取ってすぐに比べると双子はだいぶ丸くなったと思う。元々の性格に戻っていってるって方が正しいか。このまま時間経過や中学生活の中で楽しい思い出作って生きる希望見つけて死にたがりも収まってくれたらいいんだけど。
「中学生活、楽しめよ。体育会とか、文化祭とか、楽しいことは盛りだくさんだからな。」
俺は入学式の会場に向かう二人の背中を押しながら言う。心からの本心だった。中学生活を楽しんでほしい。部活とか入っていろんな人と繋がってほしい。テストとか辛いって言いながら頑張ってほしい。学校行事に参加して笑顔の思い出を作って欲しい。親がいなくても楽しい思い出は作れることを知ってほしい。
俺は出来なかったから。
「生きていたいって思えればいいんだけどね。」
陽人が少し悲しそうな顔でつぶやく。俺はその言葉を聞いて、陽人は生きる希望を見つけようとしてるんじゃないかと思った。生きていたいと思えるように、何かすがれるものを探しているんじゃないかと。
「「行ってきます。」」
陽人の言葉に何も返せずいると、双子は会場に向かってしまった。俺は双子の背中を見ながらこれから始まる生活に淡い期待を抱いていた。
入学式、説明レクリエーションも終わり、今日はもう帰るだけになった。先に教室を出て昇降口で双子を待っていると、生徒がワラワラと降りてきた。一年生だけにしては人数が多いから二三年生だろうか。今日は二三年も登校してたのか、すぐに帰るとかちょっとかわいそうだなー、なんてボーっと考えていると双子が降りてきた。
「お待たせー。」
陽人が元気に手を振る。俺は「おー、じゃあ帰るか」と軽く声をかけ、校門に向かって歩き出したところで背後から声が聞こえた。
「陽人と月人...だよな?」
振り向くとそこにいたのは多分三年生だろう男子生徒二人組だった。双子を見て驚いた顔をしていたが、やがて嬉しいような悔しいような顔になり、その目には少し涙がにじんでいるようにも見えた。中学生にしてはやたら顔が整っていて、モテそうだなーって言うのが正直な感想だけど、この二人、どこか顔立ちが似てるような気もした。
二人の顔を見て双子はその名前を口にした。
「日向?」「千影?」
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