死にたがりの双子を引き取りました。

双子と過去

　双子の両親は殺された。
　小さな工場を経営していた。
　父親が社長で母親がその補佐。
　そしてもう一人、両親の高校からの親友も補佐として信用されていた。
　その男は結婚していなかったが、双子のことをとても可愛がってくれた。
　誕生日には贈り物を贈り、工場に顔を出した時には笑顔で出迎えてくれた。
　しかし、当時その男は結婚詐欺師に引っ掛かり借金があった。
　詐欺にあった心の傷や目に見えて分かる借金で男は段々と狂っていった。
　そしてその日、男は夜に工場社長室に忍び込み、金を盗んだ。
　そのまま逃げるつもりだった。
　逃げてもう二度とこの工場には来ないつもりだった。
　唯一の誤算は双子がその場に居合わせた事だった。
　双子は両親から些細なことでお説教を受け、それが嫌になり逃げ出した。
　逃げた先が工場社長室だった。
　男は見られてことにパニックになり、護身用に持ってきていたナイフを振り回した。
　双子は悲鳴を上げて逃げた。
　逃げた先に両親がいた。
　双子を心配し、両親は工場に探しに来ていた。
　悲鳴を逃げる子どもたち。
　それを追いかけるナイフを振り回すフードを被った男。
　この状況を見た両親は子どもたちを守ろうとした。
　守ろうと男の前に出た。
　次の瞬間、赤い鮮血が飛び散った。
　男はその赤い血を見て、完全に放心した。
　双子は赤い血に濡れていく両親の体をただ黙って見ていた。



　「どれだけ信用していた大事な人だって裏切るんだ！」

　陽人が大きな声を上げた。それは心の底からの絶望だった。この小さな体で体験した辛く悲しい過去。その経験が心の芯まで巻き付いてる。

「信用するだけ、裏切られたときにショックが大きいんです。だから、最初から信頼なんてしたくない。大事な人なんて作りたくない。」

月人は陽人とは対照的に冷静に淡々としゃべっていた。でもその声は、口調は、陽人と同じ、絶望や悲しみに溢れたものだった。
この二人がこれから生きていくには生きたいと思える理由が必要だ。でも俺には与えられる理由なんてない。俺には、俺自身しか与えられるものがない。だから、

「分かった。」

俺はこの二人を言葉で説得することをやめた。口に出しただけの言葉に何の意味もない。言葉なんてもの、思っていなくても、心の中では全く別のことを考えていても出せるものだ。そんなものにこの二人を変える力なんてない。

「じゃあ信じなくていい。俺のことも、いつか裏切るんだろうなって思いながら過ごせばいいさ。」

双子は俺の言葉を黙って聞いていた。

「ただ！俺はお前らの保護者の立場にある。どんなに俺のことを信じられなくても表面上だけは家族でいてくれ。じゃないと俺が社会的に死ぬ。」

俺はわざとおどけた口調で喋った。頼りない大人、どこか信じられない男、そんな雰囲気を感じられるような俺で喋った。そして案の定双子は呆れた様子で俺を見ていた。

「結局自分が一番ですか。」

「言ったろ？俺は俺のことが一番かわいい。」

「表面上でも家族ってどういう意味。」

「外出るときは死にたがらない。普通に仲の良い...なんだ、年の離れた兄弟みたいに過ごす。こんな感じ？」

双子は俺の顔をじっと見つめた後、ハアアッと大きなため息をついた。そして何かを諦めたような受け入れたような顔で

「「分かった／りました。」」

とつぶやいた。