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双子と零

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 まだ冬の寒さが抜けない3月の初め、俺は死にたがりの双子を引き取った。

 親戚の葬式、そこに双子はいた。両親の死を目の当たりにして暗い顔をしていた。涙は流してなかったけど、目は真っ赤に腫れてたから葬式の前に泣いてたんだろう。まだ小学校高学年か中学生くらいのガキだ、親が死んで悲しくないわけがない。そんな子どもの前で大人は残酷だ。誰がこの双子を引き取るのか話合っている、と見せかけて押し付けあってる。一人なら何とか、二人同時だと金がかかるとかなんとか、結局金か。
 この時俺は双子を助けてあげたいとかいう正義感でもなければ俺が何とかしなきゃとかいう使命感からでもなく、ただ何となく、何となくそうしようかなという気持ちだけだった。そんな気まぐれのような気持ちで、

「俺が、この双子引き取りますよ。」

そう親戚に言い放った。



 俺の名前は神楽木零。26歳独身。まだ若いけど親の遺産でマンション経営やってて金は結構ある。だから双子を引き取った、育てられないことは無いと思った。が、双子が我が家にやってきてすぐに誤算だったと思った。

「えっと、俺の名前、零な。気軽に零って呼んでくれ。で、お前らは陽人と月人だよな。兄が陽人で弟が月人。今年から中学生になる。それにしても一卵性の双子って聞いてたけどマジでそっくりなんだな、見分けがつかねぇレベルだわ。...でどっちがどっちだ?」

「「...。」」

この双子、親が死んで傷心中なこともあって本当に喋らない。俺も両親死んでるから気持ちは分かるんだが、せめてどっちがどっちなのかくらいは教えてもらわないと名前すら呼べない。引き取った初日から前途多難だな、ったく。

「あー、俺らちょっと遠いけど親戚だから何年か前に集まりとかでちょいちょい会ってはいるんだぜ。だからお前らのことはちょっとは知ってる。いっつも笑顔でその辺走り回ってたのが陽人で、その後ろを控えめにでも楽しそうについて回ってたのが月人だよな。お前ら本当に仲良さそうだった。」

「「...。」」

昔話で緊張でもほぐせるかなと思ったけど無理っぽいな。これはもう時間に任せるしかなさそうだ。

「よし、じゃあとりあえず今日は荷ほどきだ。お前らの部屋案内するから、荷物しまえ。おっけ?」

双子は下を向いたまま小さくコクッと頷いた。話さないだけで俺の声はちゃんと聴いてるらしい。良かった、とりあえず意思疎通は出来そう。



「とりあえず片付いたなー。」

双子の荷物は思っていた何倍も少なかった。服とか文具とか、それじゃ絶対足りねえだろってくらい少ない。また買いに行かなきゃだな。

「じゃあ飯にするか。今日はとりあえず昨日作ってたカレーがあるからそれな。今準備する。」

俺はそういってお皿に二人分のカレーを注ぎ、座っている二人の前にコトンと置く。「どうぞ」と言ってはみるけど思った通り食べようとすらしない。警戒を解くために先に俺が食べてみるけど、双子の表情は変わらず無表情で下を向いている。無理に食べさせるのもどうかと思うし、かといって食べさせないのも成長期のこいつらには健康に悪い。ここに来たのは今日の昼頃だけど、多分昼も食べてないだろう。どうしたもんかなーと考えてると、双子の内片方が口を開いた。

「食べたくない。」

ここに来て初めて聞いた声は、声変わり前で高く子どもらしさがも残っているのに、か細く今にも消え入りそうなほど弱弱しかった。

「食べないと体に悪いぞ。」

「体に悪くていい。健康なんていらない。もう、何もいらない。」

小学校を卒業したばかりの子どもの言葉だとは思えなかった。この世のすべてを諦め、憎み、疲れ、絶望してる、そんな感じがした。そしてそんな感じを、俺は知ってる。

「もう、何もいらない。」

もう片方も同じ言葉を繰り返した。双子なだけあって全く同じ声、そして含まれた感情も全く同じに感じた。全く同じ声で、感情で、二人は確定的な言葉を口にした。

「「死にたい。」」
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