殺人鬼と僕。

横トルネード

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D区とE区の境界近くに男の住処があり、そこに戻って来た僕らではあるが、僕は先程の騒ぎが気になって仕方がない。男を見つめても、男は何やら雑誌のようなものを見ているため、僕が見ている事など御構い無しだった。

むすっとして僕は家の中を探索する事にする。最初に目覚めた部屋と廊下、玄関しか知らなかったからだ。部屋を抜けて最初に見つけたドアを開け、中を確認する。そこはバスルームのようで、近くて便利だとドアを閉めた。そして振り向くと、いつのまにか男が立っていた。

「びっくりした」

僕がそういうと、男が僕を睨んで言った。

「俺だってそうだ」

そうして、男は僕を担ぎあげて、元いた部屋に戻る事になった。男の機嫌は分からないが、僕の機嫌は斜めに向かっている。男は何も話さないし、僕だって勇気がなくて問いかけることができない。

意を決して僕は口を開ける。

「あなたはだれ?」

男は眉毛をピクッと動かしたが、それだけだった。


「どうして僕はここにいるの?」

男は黙ったまま僕を見つめる。

「あなたはB区に行っていたの?」

そうして沈黙が続いた。
僕は諦めてため息をついた。

「もういい」

僕はこの部屋のベッドを占領する事にした。







朝を告げる鳥の鳴き声がする。
僕は寝返りを打とうと体を動かす。が、どうしてか全く動かない。僕は目を開けると目の前は亜麻色。
僕はびっくりして全力でベッドからでようとするが、男は僕をがっちりホールドしており、ビクともしない。
今度は男をべシベシと殴る。が、男は眠ったまま起きる気配はなく、僕の体力がなくなっただけだった。

大人しくしていよう。

そうして太陽がかなり登った時間になるまでこの状態だったのだ。


ようやく男が目を覚ました。僕は最早半泣き状態で男を睨みつけた。男はびっくりしたように目を開いたと思ったらいつも通りの顔になった。男が腕を解くと、僕は飛び起きた。気付くと僕は寝間着姿だった。恐らく男が着替えさせたのだろう。それしか考えられなかった。
ブワっと顔が熱くなる感じがした。僕は耐えられず布団にくるまった。
追い討ちをかけるように男が布団を剥ぎ取る。

「もう起きるぞ」

誰のせいでこんな事になったのかと叫びたかった。


男が朝ごはんを持ってきて、一緒に食べる。今日はトーストだった。
極貧層のD区に住んでいるはずなのに、普通の人のような食事や生活ができるのが不思議でならなかった。


殺人鬼というか強盗紛いの事をしてるとか。

僕はそんな予想を立てると、男が僕に言った。

「行くところがある」

ついてこい、と。
逆らうことはできないと僕は知っているので頷く。
朝食を食べた後、昨日買った服を身につけて、家を出た。
また男に抱きあげられる事になったが。


行くところ、とはC区の路地の奥にあるBarの事で、未成年の僕が行っていいのか少し不安になったが、男は構わず入る。

「あらいらっしゃ…なんだジョンか」

あれ、サムじゃなくてジョン?
僕は首を傾げた。

「報酬を受け取りに」

男は短く説明をした。

「アイツなら店の奥にいるわよ。それよりそのかわいこちゃんと話がしたいわ」

店の人はすごく美人だと感じる人で体のラインが分かるドレスは似合っている。黒髪のセミロングで真っ赤な口紅も魅力的だ。

男はあからさまなため息をついて、僕をカウンターの席に座らせると、店の奥に入っていった。
僕は男が入っていった方を見ていると店の人が話しかける。

「私ジェシカ。あなたは?」

僕はジェシカと名乗った人を見た。大人な女性という雰囲気で、僕はしばし見惚れた。
僕が一向に名乗らないので、店の人はニコッと笑って言った。

「じゃあ勝手にチェリーちゃんって呼ぶわ。チェリーちゃんっていくつ?」

「16です…多分」

僕が言うと女の人はびっくりしたように言う。

「ジョンってば未成年に手を出して」

手は出されてない…と思うが、朝の件を思い出してしまい、少し頰が熱くなった。それを見た女の人はニヤッとして確信したように言う。

「やっぱり」

丁度そこへ、店の奥から男が出てきた。

「ねぇジョン。未成年相手は犯罪よ」

「いいんだよそいつはE区のやつだ」

男がそう言うと女はびっくりしたように目を見開く。僕は軽蔑の目で見られるのだろうと思ったが、女は僕を見てごめんなさいねと目を伏せた。
僕は首を傾げた。なぜ謝るのだろうかと。

そして女はバッと顔を上げ、男の方へ向けた。

「この子の名前は!?」

「ない」

「じゃあ名前をつけてあげましょう!!」

女は乗り気なようで、僕を見てニコッと笑った。大人な雰囲気のはずなのに少女のように微笑む姿は数多くの男を魅了するだろうと思った。

男は僕の背後に回るとそっと耳打ちした。
「当分帰れそうにない」
僕は女に弱い男がおかしかった。

僕は微笑んで「いいよ」と言った。

女はBarらしく男と僕に飲み物を振舞って、悩んでいる様子で腕を組む。僕はもらった飲み物をちびちびと飲みながら渋々隣に座った男を見た。

「アリスとかどう??」

「却下だ」

女が言うと、男は即否定した。女は少しシュンとした様子だったが、再び考える。

決定権は男なのね…。
僕ではなく。

男は僕をじぃっとみる。僕は視線を外し、ジュースに意識を集中させる。

「ノラ?」

男がボソっと言うと、女は「いいじゃない!!」と絶賛した。

「ノラちゃんよろしくね!」

女が僕の頭を撫でた。
どうやら僕の名前が決まったらしい。






「ふぅ」
ジェシカはジョンとノラちゃんが帰って行って片付けをしてため息をついた。

ジョンは全くもってまともな人間じゃないと思っていた矢先、あの子をここに連れて来るなんて思っても見なかった。

ノラはびっくりするくらいに可愛かった。恐らく今まで見たことが無いくらいに。
金髪と言えどもジョンとは違うプラチナブロンドの髪に大きなエメラルドの瞳。整った顔。
王族だと言われれば納得するような美少女だとジェシカは思ったが、王族だったらこんな裏の人間の溜まり場に来るはずがない。


まぁE区の生まれと聞いて驚いたのも事実だが。
名前を名乗ってくれなかったのも合点が行く。

とは言え。

「ノラちゃんってば随分な男に拾われたものね」

ジェシカはそっと呟いた。

ジョンの性癖を知っているが故に、ノラちゃんの未来を案じる。

あんなに可愛い子だったらきっと成人した後も可愛いだろう。見れないかもしれないと思うと悲しくなった。

男は一週間に一人は殺さないと情緒が安定しないのだ。
変わっているとジェシカは思ったが、これを利用しようと言う裏の人間どもが、人殺しを代わりにしてくれと依頼して来るようになった。
この店が受付のようなもので、勿論、男は報酬として金を受け取ることができ、そして情緒も安定するということで一石二鳥だ。

そうこうしていると、店のドアが開きドアの上に設置したベルが鳴る。

ジェシカは振り向いて声をかけた。

依頼だった。

人探しのようで、ジェシカはここは便利屋じゃないと言いたかったが受け付ける事にした。

その探してる人の特徴を聞いてジェシカは驚いた。
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