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しおりを挟む夜。そして雨。
行くあてなど何もない。
僕は路地裏で突っ伏した。雨に濡れた服が体温を奪っていく。
「こりゃあ死んじゃうな」
そう呟いて、今度は道の隅っこに寄って寝っ転がった。
「だれかみつけて」
懇願だった。しかし、これで諦めがつくだろうとも思っていたのだった。
結果から言えばこの願いは叶ってしまった。
街で話が絶えない連続殺人鬼と言う奴によって。
僕はこの人をよく知らない。
街の噂はあてにならないと思っていたが、特徴は噂と一緒だった。深くまでパーカーのフードを被った人だった。
「んだお前」
その声は男の者だった。
僕はまじまじとその人を見た。夜目が効いているとはいえ、フードの中は真っ暗だった。
こんな路地裏で会うなんて。
いや、こんな路地裏だからこそだろうか。
「あなたこそ誰?」
僕はその人の質問に答えず、同じように問うた。
その人は黙ったままだった。
黙ったまま雨の中寝っ転がる僕を見下ろしている。
僕も見つめた。目が合っているのかは分からないけど。
「死ぬのか」
その人は言った。ポツリと。細々としていた。
いや、僕が言ったのかもしれない。
だってその人の声とは違っていたから。
僕ってこんな声だったっけな。
「死にたいのか」
今度は低い、低い声だった。その人の声だった。
冷たかった体が、熱くなってきたような気がした。これはきっと殺人鬼によって命を絶えさせられるかもしれないという恐怖からだろうか。
僕には分からなかった。分かりたくも無かった。
考えたくもないやと思うが、その思考を停止させた。
そして今度は別のことを一考する。
どうなんだろう。
僕は死にたいのだろうか。
この謎めいた人は一向に僕から離れる気も無さそうだった。暫くその人の方を見つめていたが、その人はただ答えを待っているかのように動かなかった。
「死にたいって言ったらどうするの」
僕はこの人との会話が成り立っていない事に気付いた。
だが訂正する気も起きなかった。
ずっとこのままでいいと思った。
それでいてこの雨が気持ちいいとさえ思っていた。
今までは雨は鬱陶しいものと思っていたのに。
「そうだな、今すぐに──」
僕はその人の答えを待っていようとしたが、これで終わりのようだった。
仕方ないと言い聞かせる。
もう少し話していたかった気もする。
けど少し寒すぎた。
お腹も空いた。
喉も渇いて仕方がない。
大通りは多分きっと、こんな雨の夜でもキラキラして眩しいんだろう。僕を消すように。
「ちょっと眠い」
僕はその人の答えを聞かずにそう言って眠る事にした。
今まで我儘なんて言わなかったんだから、一度くらい我儘言っていいよね。知らない、全く知らない赤の他人だし。
あぁもう寝ちゃえ。
お休みだ。
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