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第2話:療養生活開始と親友へのお見舞い2

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 平日なので山北君の奥さんは看護婦さんとして他の医院で勤務しており
、お会いできなかった。病院の受付で病室を聞き、その階のナース
ステーションで面会ノートに記入しての部屋へと入っていった。
 やつれてはいたが,それ程、変わらない姿だった山北は、うれしそうに
遠い所、悪いな村下と言ってくれた。

 今日は何か具合が良いんだと山北は言い、それから村下と昔話に花が
咲き一時間以上も面会する事になった。さすがに村下も身体に触るから
と言い山北君に、お別の挨拶をした。すると山北君が今日調子良いから
と玄関まで送るというのだ。遠慮したが、どうしてもと言うので一緒
にエレベータに乗り一階へ歩いて玄関まで来てくれた。別れ際の、
なんとも言えない、人なつっこい笑顔が今でも脳裏に残っている。

 その日は天気も良く、豊平川を眺めながら、札幌市街地へ歩く事にした。
 山北君に会いに、もう既に四回も札幌に来ているが、いつも感じるのは
 豊平川に、かすかな潮の香りがする事だった。本州では海からこれだけ
離れていて、海の香りがする川なんてないと思うが、豊平川では薫るのだ。

 これで鮭が川を上がってくるのは、このせいかも知れないと思いを巡らす
村下だった。十五分歩いたであろうか、少し喉が渇き疲れたので、風情の
ある喫茶店に入り休む事にした。入ってみると、まるで昭和四十年代に
タイムスリップしたかの様な錯覚を起こしそうな懐かしい造りの喫茶店。
 ウェイトレスが注文を取りに来たので珈琲好きの村下はウインナー珈琲を
頼んだ濃いめの珈琲にたっぷりの生クリームが目を引き大きめのカップに
入って出てきた。口に入れた時、芳醇な生クリームを感じ続いて苦み
ばしった濃いめの珈琲が、また旨い。

 村下は奥さんと山北君の話や雑談を三十分位して店を後にし市電に乗り
終点の停車場から数分の今晩泊まる、すすき野のホテルにチェックインした。
翌日は北海道神宮や円山公園を散歩して札幌を後にした。そして横浜の自宅
に戻った。

 四日後の朝早く村下家の電話が鳴り響いた。村下の奥さんが最初に電話
に出て、かなり大きな声で話して山北さんが危篤ですってと言った。
 つい先日、元気な姿を見たばかりなので信じられない気持ちで村下に電話
をかわった。山北君の奥さんが先週のお見舞いに来た後、夕方から病状が
急変して集中治療室に移ったと言った。そして今朝、危篤状態になった様だ。

 もし、また何かあったら連絡して下さいと告げて電話を切った。村下は
病院で亡くなる前に一度、急に元気になり、その反動の様に容態が悪くなり
死亡した例を数多く見ているので先日のお見舞いの時の山北君の異様な目の光
が思い出されて気が重くなってしまった。
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