プラの葬列

山田

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マーク・オースティン

#6

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  朧と堕ちた夢の中、俺は暗闇の森を歩く。

  辺りを照らすのはえらく機嫌の悪そうな月明かりだけで、その世界は酷く無音だった。どこに向かうかも分からないまま勝手に進んでゆく足に運ばれた先には、粗雑なログハウスがお目見えする。

「ここは……」

  時間帯は違えども、この場所には見覚えがあった。夢というものは人間の記憶整理の一環、つまり俺が体験した『何か』を引っ張り出していているのだろう。

  ギィ……ッ

  掠れた蝶番の呻き声と共に開いた扉の先には、綺麗に切り揃えられた銀髪の少年が俯きながら姿を現わす。

「アリーシャ……?」

  いつもの朗らかさが消え去った10年前の天使は、顔全体にモザイクのようなモヤが掛かって表情が全く読み取れない。それでも俺は様子のおかしい彼に駆け寄って肩を掴むと、ぼやけた顔が一段と黒く塗り潰される。

「なんで助けてくれないの」

  何人もの人間が同時に喋るような重音声。ノイズ混じりなその声に眉を顰めた俺は、強く唇を噛む。

「お前はまだ何も分かってない」

  耳から体内に忍び込んで脳内を蝕むその声は、不協和音を立てて俺の心情に深く傷を残してゆく。

「そう……だな。本当にすまないと思ってる……なぁ、教えてくれ……俺は、俺はどうすればいい?」

  何もしてやれないもどかしさで泣き出しそうな俺は、縋るように彼を見つめる。一瞬考え込むように動きを止めた天使は、美しい銀髪を揺らしながら小首を傾げて俺を見下す。

「お前は掌で踊るだけ……失いたくないのなら、もう進んではいけない」

  一瞬にしてノイズの消え去った彼の顔と声は雲間に覗く満月のように輪郭を整え、震え上がるほど冷たいその動作の全てに俺の知るアリーシャはいない。

「お前は……プラ、なのか?」

  訥々と言葉を捻り出した俺に微笑んだ天使は、「さぁ?」と小さな両手で静かに俺の喉笛に手を掛けた。

「僕はアリーシャであってアリーシャではない。そして、アリーシャも僕であって僕ではない──全てを捨てた先なら、きっと本当の僕らに会えるよ」

  あの頃のアリーシャとは思えない表情で俺の首を絞める彼の手は、氷漬けにでもなっていたかと思うほど白い。

「勿論、『全てを捨てられれば』、の話だけどね」

  混乱で呼吸が浅くなった俺が必死に歯をくいしばると、ギリリ……ッと痛々しい音が奥歯から鼓膜に響く。その音に眉を下げた彼は俺の首から両手を離して嗤うと、父の胸元に突き刺したワインボトルの上半身を持ち出して大きく俺に振りかぶった。
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