プラの葬列

山田

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マーク・オースティン

#4

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  ポコポコポコ……ッとグラスを滑りながら背丈の3分の1程度まで注がれた赤ワインは、なんとも毒々しい色で俺に微笑む。赤く揺れる小さな水平線が時間とともに冷静さを取り繕うと、父はグラスの1つを俺に差し出す。

「実に香り高い……さぁ遠慮なく飲みなさい」

  注ぎ口から瓶の中を覗く彼の言葉にダグラスを片付けたあの日を思い出した俺は、「ありがとうございます」と含みのある笑顔でグラスを受け取った。ゆったりと回して酸素を行き渡らせた俺の顔が映る水面は酷く血濡れており、自室で寂しくスープを覗いたあの頃の自分には戻れない事を改めて自覚する。

「アラン……?」

  照明の関係か、少し瞳が潤んでいるようにも見えるマークが俺の考えを見透かしたように眉を下げた。

「どうした、飲まないのか?」

  なかなか飲もうとしない俺を催促する父の瞳に浮かぶ捕食者独特の色に「勿論頂きますよ」と答えた俺は、ほんの一口だけ舌先にその液体を当てる。葡萄のタンニンと甘さ、華々しさとスパイスのバランスが取れた芳醇な香りの奥に潜む緩やかな痛み──。

──コレには間違いなく、痺れ草が入っていやがる。

  一滴を喉に押し込んでからフ……ッと鼻を鳴らすと、怪訝そうな表情を湛えた2人がこちらに視線を向ける。その視線にどんな意味が込められているかなど気にもならない俺は、ただひたすらどこまでも考え方や行動がそっくりな父に苦笑いした。彼はきっと覚えてないのだ。俺をマフィアの一員として今まで育てた事や、自分自信がこの世界の流儀を俺に叩き込んだ事、そして──まんまと俺を丸め込んだあの晩から10年の月日が経った事も。

「流石はボスですね。味といい香りといい、とても上質なワインだ」

  あの少量ですら喉の奥がひりつくあたり、規定量を軽くオーバーしているであろうワインを片手に持ったまま上着のポケットを弄った俺は、白々しく「あぁしまった……」と青い包み紙を取り出す。

「今回は無茶をし過ぎたせいで、医者から飲み薬を処方されてました……普段薬とは無縁なので、すっかり忘れてて……」

  言い訳がましくその包みを開けた俺に「そうか……」と答えた父の表情を細めた視界で確認しつつ、病院など行っていない俺の隣で目を見開いているマークに向き直る。

「マーク、悪いが薬を飲む為の水を持ってきて欲しい……出来ればグラスに目一杯で」

  俺の言葉の意図を読んだのか、マークは顎に手を当てて瞬きを数回繰り返した後、父にバレないようにそっと溜息を吐く。

「仰せのままに」

  心にもない敬語を舌に乗せて会釈した彼は、今にも震えそうな声を残して書斎を後にした。
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