プラの葬列

山田

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楊 飛龍

#4

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「……僕も手伝うよ。僕に出来ることならななんでも、ね」

  笑うというには痛々しく、泣くというには優しすぎるその表情の名前を、きっと俺は知らない。マークの仕草にどこがむず痒い思いをした俺は、「勝手にしろ」と心にもない暴言を吐いてビルに向き直る。錆が回って赤みを帯びた鉄の扉にくっ付いたドアノブに俺が手を掛けると、キィ……ッと耳障りな悲鳴を上げてドアが軋んだ。

  薄暗い屋内に目を凝らした俺は慎重に足を進めると、上と下へ続く両極の階段が俺らをご丁寧に出迎える。上に向かう階段には比較的新しそうな鎖と南京錠が掛けられ、横に並んだマークが「下のようだね」と呟く。

「あぁ」

  手摺からなにまで錆に蝕まれた階段は、踏み出すたびにカタン……ッと高い音を立てる。早くも息が詰まりそうな閉鎖的空間に口を結んだ俺は、段々と近付く賑やかな声に目を細めて腕時計を見た。

  18時04分。

  時間としては上々、入場してから中を見て回るぐらいの余裕を持たせた計画に満足すると、篝火が轟々と輝く階段下の踊り場へ降り立つ。

「此処は関係者以外立ち入り禁止だ」

  踊り場を曲がった先に立ち塞がるのは、身長174㎝の俺が見上げるほどの大男だった。いかにも用心棒といった雰囲気を纏うスキンヘッドの彼は姦しい扉の前に陣取ると、風貌にお似合いのサングラスとスーツで俺らを見据える。

「おやおや、面白い人だ。俺らはちゃんと関係者ですよ?」

  威圧的な男を鼻で笑った俺は静かに花屋で貰ったタロットカードを取り出すと、彼の鼻先でヒラヒラと挑発するように見せつけた。

「フンッ……生意気な小僧め」

  余程俺の仕草が鬱陶しかったのか、勢いよくカードをひったくった男は舌打ち混じりにそのカードを捻り潰して篝火に放る。彼の怒りを映したようなその炎が一瞬爆ぜるように揺れ動き、美麗なアネモネはジワジワと闇に飲まれてゆく。

「奴隷市へようこそ……せいぜい摘み出されないように気を付けるんだな」

  親切な御忠告を早速頂戴した俺はマークに振り返って口の端を釣り上げると、深く溜息をついて肩を竦めた彼は俺の代わりに大男へ会釈する。

「ご心配頂き、ありがとう御座います」

  心にもない礼を述べて扉へと進んだ俺の心臓が、はち切れんばかりに動く。ドクン……ッドクン……ッと脈打つソレは、緊張などというちっぽけなものではなく、燃え盛るような期待を押し上げる高揚感。

「──It's a show time」

  押し開かれた扉の先は、欲望がうねりを上げる魔物の巣窟。腰のホルダーに携えたベレッタ92FSピストルが興味深そうに自身の存在を誇示し、勇み足の俺は会場に蔓延る毒っぽい熱気をこれでもかと言うほど深く吸い込んだ。
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