プラの葬列

山田

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楊 飛龍

#3

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「さっきの子、なかなか美人だったね」

  カードを懐に閉まった俺を冷やかすマークは、帽子の下で輝くペリドットを片方だけ閉じて目配せする。

「気にしてない」

  肘鉄では物足りないのか、口を慎む気などさらさら無い彼を横目で流した俺は、会場の入り口となる路地裏のアーケードを目指す。

「そういえば、ちょっとメアリーさんに似てたかも……アランのお母様は、アリーシャに似ててお綺麗だったなぁ」
「それは俺が似てないことをディスってるのか?」
「『似てない』とまでは言ってないだろ?ただ、アリーシャの方が似てたってだけの話」

  これだからアランは……と文句を垂れるマークは俺の顔をマジマジと値踏みして笑うと、「アランは断然ボスに似てる。まぁ、強いて言うなら鼻筋の通り方はメアリーさんかな?」と望んでも無い分析を続けた。

「はいはい、そうですか……そりゃどうも」

  話の通じない彼の相手に飽きた俺は適当な返事でマークを遇らうと、大通りから4本先の路地を曲がり、薄暗い裏通りに足を踏み入れる。今にも落っこちそうな寂れた看板が立ち並び、落書きだらけのシャッターが軒を連ねる社会の底には、人生を転がり堕ちた破綻者達が蛆虫のように這い蹲っていた。

「少し表通りが綺麗になったと思ったらこのザマなんて。本当、警察諸君は何をやっているんだか……全く掃除が行き届きてない」

  弔うように帽子を軽く上げて不平を零す彼の横顔を笑った俺は、「ゴミになるまで金を搾りあげたのは誰だったかな」と意地の悪い言葉を向ける。

「……アランはこの生業に不満があるのかい?」
「いや、不満なんてないさ……ただ、誇れるものもないがな」

  カツン……カツン……と響く2人の足音に肩をビクつかせる生ゴミを一瞥して俺が答えると、マークはまた何かを考えるように黙り込む。

「俺らの商売は、露店のジュース屋みたいなもんだ。良質な野菜も腐りかけの果物もひとつ残らず撹拌して、一滴残らず搾り取る。そうやって出来た甘い汁を啜りつつ、ソレを売って新しい材料を手に入れる──違うか?」

  壁の全体が黒ずんだビルの前で足を止めて振り返った俺は、後ろを付いてきているかも分からないほど静かな彼に向き直る。珍しく饒舌になった俺に微笑んだマークは、見開いていた目をゆっくり閉じて「そう……だね」とだけ返す。

「なぁマーク……俺はこの仕事に不満も誇りもない。あるとすれば、天使を葬った罪人に『復讐』という天誅を下す──だだそれだけなんだ」

──『僕は、もう1人の僕を殺した奴らに復讐がしたい。でも、僕1人では何も出来ない……だから、お兄ちゃん……お兄ちゃんだけはいつまでも僕の味方でいてくれる……?』

  耳の奥で反芻するアリーシャの悲痛な願いが、冷淡な北風のように俺の耳を掠める。

  そう、これは『復讐』であって『償い』。

  あの日、まともに助けてあげられなかった俺が、やっとアリーシャにしてやれる唯一の償いだった。
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