プラの葬列

山田

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楊 飛龍

──4──#1

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  4月30日、17時25分。

  ガヤガヤと賑わう色とりどりの街中を歩く俺は、流麗なストレートの金髪を目印にして人の波を掻き分ける。

「流石はヴァルプルギス・ナイト……人の賑わいも尋常じゃないね」

  薄手のシャツとジャケットに身を包むマークは、キザな中折れ帽を軽く持ち上げて挨拶がわりに合図を寄越す。

「本当、煩わしいな」

  過ごしやすい気温になればなるほど、地上に這い出てくるのは虫ケラだけじゃない。浮かれた凡人に紛れた寄生虫どもは、善人の皮を被ってこの世界を跋扈ばっこする。

「全く……こうも面白みのない性格では、限りある人生を楽しめないよ。たまにはアランも肩の力を抜けばいいのに」

  ベストの襟を直しながら文句をつけるマークをひと睨みした俺は、「何の為に此処へ来たのかを忘れたか?」と呑気な彼に冷たく言い放つ。しかし、マークは意に介した様子もなく、新緑の瞳で笑いながら小首を傾げるだけだった。

「……行くぞ」

  霞を捕らえるように掴みどころのない彼に呆れた俺が踵を返すと、「はいはい」と戯けた彼は軽やかな足取りで俺の後に続く。

「アラン、なんか楽しそうだね。良い事でもあった?」
「別に」
「そうかなぁ?」

  口元を緩めて揶揄うマークをうざったく払い無視を決め込んだものの、テレパスと悪名高い金髪は「アリーシャに会えたんだね」と俺の内情に土足で踏み込んでくる。

「で、どうだった?何か手掛かりになるような話を聞き出せた?」
「……まぁな」
「水臭いなぁ……僕達の仲に秘密は無しだろう?」

  すれ違う人々は皆一様に喜びの色を顔に浮かべ、肩や腕がぶつかるのも厭わずに日の暮れた街を飽きもせずに往来してゆく。その人混みに紛れて歩く俺らは、少なくとも魔女の祭りにうつつを抜かせる程お気楽ではない。

「……影武者ダミーの名前は『プラ』というらしい。アリーシャが5歳の時にやってきた子供で、名前に関してはプラの『恩人』が名付けた、とか……まぁどれを取っても素性を洗う証拠には少し物足りない」
「『プラ』ねぇ……」

  うーん……と顎に手を置いた彼は先程の喧しさが嘘のように黙ると、瞼を小刻みに3、4回ほど上下させた。この仕草はマークが昔からやっている一種の癖で、記憶の奥底に落ちた何かを探す時は必ずこうやって考え込む。

「何か心当たりでも?」
「いや……なんだか聞いた事のあるような名前だけれど、今は思い出せないや」

  口惜しそうに眉根を寄せた彼は残念そうに苦笑いしてから俺を見据えると、「他は?」と言葉の先を催促した。

「アリーシャが森で隠れて暮らしていた理由、だな。プラが身代わりになった事で自分を足手纏いと思い、父に『捨てて欲しい』と進言したらしい。この件についてゆくゆくは父に尋ねるつもりだが、当時の俺に対する様子からして、多分間違いはないと思う」
「でもさ、子供1人が森の中で生き延びられるものかな?」
「森にある小屋はプラと見つけた場所らしい。衣食住についても、薬を含めて父が支援していたようだ」

  全てアリーシャの受け売りではあるが、今は一番矛盾なく納得できるその言葉を信じるのが妥当だろう──少々弟に甘いところを差し引いても、これなら大体の黒幕も見当がつく。

「……なるほどね。確かにそれなら分からなくもない話だ」

  マークも俺の意見と同意なようで、すっかり分析モードの沈黙をしまい込んで微笑ましそうに俺の肩に手を乗せた。鬱陶しい絡みを完全にスルーしてシャツの左袖をたくし上げた俺は、白金でできたお気に入りの腕時計で時間を確認する。

  17時41分。

  一段と喧騒が飛び交う熱量に押されてピタリと足を止めた2人は、陰謀と欲望を売り捌くお目当ての花屋が軒を連ねる大通りへ躍り出た。
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