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楊 飛龍
#3
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──奴隷市。
ジャックの言葉に唸った俺は、今まで父や幹部達の口から何度か聞いた覚えのあるイベントを思い出しながら熱々のコーヒーに口を付けた。
一概に『マフィア』といえど、金と力を得る方法はマチマチで、賭博関係で幅を利かせている我々にはあまり馴染みのない範疇に自然と俺の眉根が寄る。
「……なるほどね。それならターゲットも主催者として顔を出す必要があるだろうし、客を装って接触するのも夢じゃない」
感心した様子のマークが目を輝かせてジャックを見ると、ジャックは自慢げに「だろう?」としたり顔を決めて親指を突き出す。啜るコーヒーの湯気越しにその光景を眺める俺は、揺らめく蒸気を遮るように軽く息を吹きかけてテーブルに両肘を突いた。
「日付は?」
「4月30日……みんな大好き『ヴァルプルギスの夜』に、とある会場で開かれる」
周りを見渡してから一段と声を弱めたジャックは、シィ……ッと人差し指を口元に当てる。
「一度しか言わないから、ちゃんと聞くんだぞ?」
彼は低く微かなその言葉を吐きながら俺とマークを確かめるように視線を送り、静かにカップを置いた俺は軽く顎を引く程度に頷く。ほぼ同時に同じく頷いたマークは唇を湿らせるようにコーヒーを傾け、「勿論」と品良く口の端を持ち上げてみせた。
「よろしい──このイベントは大規模だが、政府が公認している訳じゃない。だからこそ、その会場に行くには少し手間がかかる」
浅煎りのコーヒーを飲み干したジャックは小さく咳払いをすると、深く息を吸ってから静かに目を瞑る。
「君達も知っている通り、ヴァルプルギスの夜は首都の大通りに出店が山ほど並ぶ。その中の一店に『マジックガーデン』という花屋が必ず現れる……その何の変哲も無い花屋は一見普通に営業しているが、赤いアネモネの花を6本注文した時だけ、とあるカードを寄越すんだ」
「花、ねぇ……。そんな洒落た仕掛けなんて、俺には考え付かないな」
よく言えばロマンチストな発想を鼻で笑った俺は、椅子の背もたれに身体を委ねて踏ん反り返ると、ジャックは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「どこまでが本当かは知らないが、商品の花を育ててるのも奴隷の仕事だとかなんとか……なかなか残酷な話だ」
はぁ……と溜息交じりに声を零した彼が眼鏡を外して服の端でレンズを磨くと、3月にしては珍しい粉雪が窓の外にちらつく。まるで俺らを見張るような残酷な雪を睨みつけた俺を他所に、マークはテーブルに広がる書類を纏め出す。
「ちなみに、そのカードを受け取った後はどうするんだい?」
最後の書類を手にとってトントン……ッとテーブルに立てた状態で整えた彼は、笑顔ひとつ崩す事なくジャックに尋ねる。
「会場の入り口に篝火が置かれていて、火の番をしている野郎にカード渡す。偽装や不正が無いかを確認したら、カードを炎に焚べて案内を待つ──まぁ、ざっとこんな流れだな」
レンズを拭き終えたジャックは眼鏡を掛け直して、コーヒーカップをソーサーごとテーブルの端に寄せた。そしてそのまま隣の席に置いた鞄から徐に紙束を取り出すと、上下左右がバラバラな資料を静かに並べてゆく。
「会場への行き方は以上だ。他に質問は?」
「……無い」
「僕も特には」
テーブルいっぱいに広がる資料に釣られて体勢を戻した俺は、糸目のチャイニーズ野郎の写真に目を細め、今回はどう料理してやろうかなどと考えながら舌で唇をなぞった。
ジャックの言葉に唸った俺は、今まで父や幹部達の口から何度か聞いた覚えのあるイベントを思い出しながら熱々のコーヒーに口を付けた。
一概に『マフィア』といえど、金と力を得る方法はマチマチで、賭博関係で幅を利かせている我々にはあまり馴染みのない範疇に自然と俺の眉根が寄る。
「……なるほどね。それならターゲットも主催者として顔を出す必要があるだろうし、客を装って接触するのも夢じゃない」
感心した様子のマークが目を輝かせてジャックを見ると、ジャックは自慢げに「だろう?」としたり顔を決めて親指を突き出す。啜るコーヒーの湯気越しにその光景を眺める俺は、揺らめく蒸気を遮るように軽く息を吹きかけてテーブルに両肘を突いた。
「日付は?」
「4月30日……みんな大好き『ヴァルプルギスの夜』に、とある会場で開かれる」
周りを見渡してから一段と声を弱めたジャックは、シィ……ッと人差し指を口元に当てる。
「一度しか言わないから、ちゃんと聞くんだぞ?」
彼は低く微かなその言葉を吐きながら俺とマークを確かめるように視線を送り、静かにカップを置いた俺は軽く顎を引く程度に頷く。ほぼ同時に同じく頷いたマークは唇を湿らせるようにコーヒーを傾け、「勿論」と品良く口の端を持ち上げてみせた。
「よろしい──このイベントは大規模だが、政府が公認している訳じゃない。だからこそ、その会場に行くには少し手間がかかる」
浅煎りのコーヒーを飲み干したジャックは小さく咳払いをすると、深く息を吸ってから静かに目を瞑る。
「君達も知っている通り、ヴァルプルギスの夜は首都の大通りに出店が山ほど並ぶ。その中の一店に『マジックガーデン』という花屋が必ず現れる……その何の変哲も無い花屋は一見普通に営業しているが、赤いアネモネの花を6本注文した時だけ、とあるカードを寄越すんだ」
「花、ねぇ……。そんな洒落た仕掛けなんて、俺には考え付かないな」
よく言えばロマンチストな発想を鼻で笑った俺は、椅子の背もたれに身体を委ねて踏ん反り返ると、ジャックは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「どこまでが本当かは知らないが、商品の花を育ててるのも奴隷の仕事だとかなんとか……なかなか残酷な話だ」
はぁ……と溜息交じりに声を零した彼が眼鏡を外して服の端でレンズを磨くと、3月にしては珍しい粉雪が窓の外にちらつく。まるで俺らを見張るような残酷な雪を睨みつけた俺を他所に、マークはテーブルに広がる書類を纏め出す。
「ちなみに、そのカードを受け取った後はどうするんだい?」
最後の書類を手にとってトントン……ッとテーブルに立てた状態で整えた彼は、笑顔ひとつ崩す事なくジャックに尋ねる。
「会場の入り口に篝火が置かれていて、火の番をしている野郎にカード渡す。偽装や不正が無いかを確認したら、カードを炎に焚べて案内を待つ──まぁ、ざっとこんな流れだな」
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「会場への行き方は以上だ。他に質問は?」
「……無い」
「僕も特には」
テーブルいっぱいに広がる資料に釣られて体勢を戻した俺は、糸目のチャイニーズ野郎の写真に目を細め、今回はどう料理してやろうかなどと考えながら舌で唇をなぞった。
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