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ダグラス・マクスウェル
#5
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「ふ、ふざけるな……ッ!社会のゴミ塵の分際で何を偉そうに……」
拳銃が吹っ飛ぶぐらい強く蹴飛ばされても痛がらないあたり、かなり薬は効いているようだった。やはり持つべきは確かなパイプ、あの爺さんとは長い付き合いになりそうだ──そんな他愛もない事を考えつつダグラスを嘲笑う俺は、そのまま鳩尾に踵を振り下ろす。
「ぬぐ……ッ?!」
避けようと動くも体に力が入らない様子の彼は目をひん剥いて奇声を上げると、「何を……した……?」と上手く呂律の回らない舌で悪態を付いた。
「ミスター・ダグラスは、痺れ草というものをご存知でしょうか?ウチでよく取り扱ってる商品なんですが……正直に全てのお話をお聞きしたかったので、少し貴方の飲み物に混ぜさせて頂きました」
「な……ッ」
「ご心配には及びません。私にも良心はあるので、ちゃんとお話頂けば解毒剤を差し上げますよ?」
ソファに倒れこんだ彼の胸に膝をついて体重を傾けると、流石に息が苦しくなったのか、ダグラスは眉間に皺を寄せて暴れる。
「この痺れ草の効果は20分。それを過ぎれば、貴方は晴れてアリーシャの元へ行けるはずだ」
畳み掛けるような脅し文句に震え上がった獲物は、歯をガタガタと煩く鳴らしながら「わ、分らったから……らすけてくれ……」と懇願した。
「ご協力ありがとう御座います。では早速……何故『事件』を『事故』として処理したのですか?」
「取引らったんだ……わらひも、詳ひいことは……知らない」
「ほほう……取引。一体どんな?」
「……死因の改ざんを手伝えら……豊かな人生を、与えるって」
「相手は?」
「それも、詳しひくは知らない……」
「へぇ」
涙目で訴える彼は大きく咳き込んで丸くなると、ソファから転がり落ちて身悶えするように叫ぶ。
「本当なんら……ッ!!わたひは……わたひはただ……ッ」
「煩いな」
ドヒュン……ッ!!
耳障りな命乞いに呆れた俺は、腰に下げたホルダーから護身用のピストル──ベレッタ92FSを引き抜いて単細胞の右手を粛々と撃ち抜く。一瞬だけ散った火花と焦げ臭い匂いに続いて広がってゆく血溜まりに、俺は溜息を吐く。
「俺がいつそんな事を尋ねた?」
まだ熱い銃口を彼の喉に押し当てて笑った俺を真っ青な顔で見詰める彼は、もはや『警部』としての尊厳を忘れ去った弱者。恐怖に染まった瞳から雫を零し、その粒はゆっくりとカーペットに染みを作る。
「名前」
「へ……」
「そいつの名前は?って聞いてるんだ」
涙やら鼻水やらの体液でぐちゃぐちゃになった彼の頭を鷲掴みにして持ち上げた俺は、決して声を荒立てる事なく低く囁く。それに興醒めしたダグラスは体と一緒で締まりがないらしく、浅く呼吸を繰り返して恥ずかしげもなく失禁する。
「た、たひか……琳……え、榮榮」
「居場所」
「……死んら」
「何故言い切れる?」
「わらひが昇格しひた時、舌を切り取らへた生首が送られてひた……」
「なるほど」
──『喋るな』ってか。
わざわざメッセージを込めた死体を送りつけてくるあたり、犯人は同じ業界の連中だろう。暫く考えに耽った俺は漸くダグラスの頭を解放すると、ポケットから白い包み紙を取り出す。
「大体把握致しました……ご協力感謝致します」
一際目を細めて笑いかけた俺に縋り包み紙を受け取った阿呆は、手渡した薬を奪い取って勢いよく口に流し込む。
「うわぁ……ッ?!」
ソレを飲み込んだ直後、水に打ち上げられた魚みたく這いずりながら飛び跳ねる彼の目は焦点を見失う。そのまま数回嘔吐を繰り返した頓馬は、酷く痙攣した末にだんだんと動きを弱めてゆく。
「あぁ、しまった──どうやら包み紙を間違えたみたいだ」
大根役者でもしないような棒読みの台詞を冥土の土産に手向けた俺は、再びポケットを弄って青い包み紙を取り出すと、瞳孔の開き切った死体に見せびらかした。
拳銃が吹っ飛ぶぐらい強く蹴飛ばされても痛がらないあたり、かなり薬は効いているようだった。やはり持つべきは確かなパイプ、あの爺さんとは長い付き合いになりそうだ──そんな他愛もない事を考えつつダグラスを嘲笑う俺は、そのまま鳩尾に踵を振り下ろす。
「ぬぐ……ッ?!」
避けようと動くも体に力が入らない様子の彼は目をひん剥いて奇声を上げると、「何を……した……?」と上手く呂律の回らない舌で悪態を付いた。
「ミスター・ダグラスは、痺れ草というものをご存知でしょうか?ウチでよく取り扱ってる商品なんですが……正直に全てのお話をお聞きしたかったので、少し貴方の飲み物に混ぜさせて頂きました」
「な……ッ」
「ご心配には及びません。私にも良心はあるので、ちゃんとお話頂けば解毒剤を差し上げますよ?」
ソファに倒れこんだ彼の胸に膝をついて体重を傾けると、流石に息が苦しくなったのか、ダグラスは眉間に皺を寄せて暴れる。
「この痺れ草の効果は20分。それを過ぎれば、貴方は晴れてアリーシャの元へ行けるはずだ」
畳み掛けるような脅し文句に震え上がった獲物は、歯をガタガタと煩く鳴らしながら「わ、分らったから……らすけてくれ……」と懇願した。
「ご協力ありがとう御座います。では早速……何故『事件』を『事故』として処理したのですか?」
「取引らったんだ……わらひも、詳ひいことは……知らない」
「ほほう……取引。一体どんな?」
「……死因の改ざんを手伝えら……豊かな人生を、与えるって」
「相手は?」
「それも、詳しひくは知らない……」
「へぇ」
涙目で訴える彼は大きく咳き込んで丸くなると、ソファから転がり落ちて身悶えするように叫ぶ。
「本当なんら……ッ!!わたひは……わたひはただ……ッ」
「煩いな」
ドヒュン……ッ!!
耳障りな命乞いに呆れた俺は、腰に下げたホルダーから護身用のピストル──ベレッタ92FSを引き抜いて単細胞の右手を粛々と撃ち抜く。一瞬だけ散った火花と焦げ臭い匂いに続いて広がってゆく血溜まりに、俺は溜息を吐く。
「俺がいつそんな事を尋ねた?」
まだ熱い銃口を彼の喉に押し当てて笑った俺を真っ青な顔で見詰める彼は、もはや『警部』としての尊厳を忘れ去った弱者。恐怖に染まった瞳から雫を零し、その粒はゆっくりとカーペットに染みを作る。
「名前」
「へ……」
「そいつの名前は?って聞いてるんだ」
涙やら鼻水やらの体液でぐちゃぐちゃになった彼の頭を鷲掴みにして持ち上げた俺は、決して声を荒立てる事なく低く囁く。それに興醒めしたダグラスは体と一緒で締まりがないらしく、浅く呼吸を繰り返して恥ずかしげもなく失禁する。
「た、たひか……琳……え、榮榮」
「居場所」
「……死んら」
「何故言い切れる?」
「わらひが昇格しひた時、舌を切り取らへた生首が送られてひた……」
「なるほど」
──『喋るな』ってか。
わざわざメッセージを込めた死体を送りつけてくるあたり、犯人は同じ業界の連中だろう。暫く考えに耽った俺は漸くダグラスの頭を解放すると、ポケットから白い包み紙を取り出す。
「大体把握致しました……ご協力感謝致します」
一際目を細めて笑いかけた俺に縋り包み紙を受け取った阿呆は、手渡した薬を奪い取って勢いよく口に流し込む。
「うわぁ……ッ?!」
ソレを飲み込んだ直後、水に打ち上げられた魚みたく這いずりながら飛び跳ねる彼の目は焦点を見失う。そのまま数回嘔吐を繰り返した頓馬は、酷く痙攣した末にだんだんと動きを弱めてゆく。
「あぁ、しまった──どうやら包み紙を間違えたみたいだ」
大根役者でもしないような棒読みの台詞を冥土の土産に手向けた俺は、再びポケットを弄って青い包み紙を取り出すと、瞳孔の開き切った死体に見せびらかした。
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