プラの葬列

山田

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ダグラス・マクスウェル

──2──/#1

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  12月30日、10時36分。

  未だ見ぬ来年に湧き上がる町の愚民をチラリと見た俺は、薄暗い路地裏に足を踏み入れる。悪友がターゲットと接触できるよう取り付けた約束の時間よりも1時間程早く家を出た俺の目的は、我々コーザノストラ麻薬ジャンクを卸している密売人に会うことだった。

「あんちゃん久しぶりだねぇ……年の瀬に麻薬ジャンクが御入用とは、人間の欲望は底なしだなぁ」

  薄汚い長髪の老人、ペネロペは海藻のように垂れ下がった前髪を掻き分けて目玉を覗かせて笑う。

「お会いするのは以前ボスと価格交渉した時でしたね……お久しぶりです、ミスター・ペネロペ」

  柄にもなく恭しい言葉を吐いた俺は浅く被っていたキャスケットを軽く上げて微笑むと、釣られたように老人は歯の溶けた口を大きく開けて「そう固くなりなさんな」と答える。

「急に呼び出すから何かと思えば、痺れ草をご注文だなんて……何か楽しいお祭りでも?」
「まぁそんなところです。……あくまでこれは自分が単独で動くことなので、ミスター・ペネロペにはくれぐれもご内密にして頂きたい」

  しっ……と人差し指を唇の前で立てた俺を見て察した彼は、「ほう」と意地の悪い笑みを浮かべたままポケットを弄って包み紙を2つ差し出した。

「ご注文通り強めの痺れ草を用意したが、規定量を越えれば命に関わる……ほら、この白い袋が痺れ草、青い袋が解毒剤だ」
「ありがとうございます」

  仕事用の黒い手袋を付けたまま薬を受け取った俺は、反対の手で用意していた金貨を1枚手渡す。

「おいおい……あんちゃん、流石にこのチップは弾みすぎだよ」
「これは自分の気持ちなので。これからもお付き合いのあることですし、未来への投資と思えば腹も痛みません」

  顔に貼り付けた笑顔で口止め料を仄めかしつつ「では」と俺が話を切り上げると、老人はふぉっふぉっふぉっ……と奇妙な笑い声を上げた。

「大きなトコは金回りからして違うなぁ……儂の飲み代の為にも、末長く達者に頼むよ」
「えぇこちらこそ」

  他人の人生を踏み躙る商売で呑む酒にどれほどの価値があるのか──。

  ペネロペを眺めながらふとそんな言葉が脳裏によぎった俺は、他所の事を言えない自らの生業なりわい諸共に自嘲する。きっとその価値なんてザルで掬い上げるドブ水程度、気が付いたら何も残っちゃいない。

  そう、俺が今やっている事も、終わって仕舞えばきっと何も残らない。
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