プラの葬列

山田

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ダグラス・マクスウェル

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  唐突にジャックを呼び出した俺は、行きつけのレストランで約束の12時を待つ。

  『行きつけ』といえど、別に食に対して強い拘りがある訳ではない。拘りがあるとするならば、それは此処の防犯設備であろう。

  旧知の仲であるジャックならば、基本的に重要な話は自宅に呼んで話す事も多い。しかし、家では話しづらい事、特に父であるボスの悪口を叩きたい時なんかは、盗聴器バグの心配が無いこの店を選ぶ。

「この日に僕を呼び出すから、てっきり八つ当たりかと思えば……アリーシャの死亡処理が知りたいなんて、一体どんな風の吹き回しだ?」

  10年経っても様相を変えない彼は、ご自慢の眼鏡を真っ白に曇らせながらフランス語で皮肉を宣う。

「久しいなジャック。まだその舌が体にくっ付いたままご健在なようで、なによりだよ」

  同じくフランス語で軽口を叩いた俺が口の端を釣り上げて答えると、ジャックは「酷い言い草だ」と呆れたように肩を上げる。

「冗談さ……いつもアンタの正確な情報には感謝しかない」

  にこやかに答えた俺は片手を差し出すと、その手を取った彼は鼻高々と言ったご様子で眼鏡の位置を直す。

「いいかい、この世は不思議な回り方をしている。金は必ず金を持つ者へ、女は女の屯ろする方へ……そして、情報はソレに詳しい輩へ集まってくるんだよ」

  自慢にも近いその言葉を悠々と吐いた彼は、「だいぶ遅れてしまったが……アラン、メリークリスマス」と椅子に腰を下ろしながら目を細めた。

  俺とジャックがフランス語で会話をするのは、悪友である俺らだけの特殊なルール。

  俺らが安心してこの店を利用するように、この店に信頼を寄せる同業の連中は少なくない。もしうっかり喋った事が他のファミリーの耳を引いて広まってしまったら、それこそ2人纏めて魚の餌にでもなるだろう。

  まぁ、そんな悪知恵を俺に吹き込んだのは、今、目の前でチンピラ眼鏡を大事そうにハンカチで擦っている彼なのだが。

「あぁ、メリークリスマス。本当に今日は幸福な日だ」

  ジャックを待つ間にウェートレスが運んできた水を一口傾けながらそう答えた俺は、水面に映る自分の顔を眺める。

  あの日のあの晩、自室で覗いたスープを彷彿させる光景に、芋の蔓を引っ張るような感覚で思い出す記憶へと堕落しそうな俺の口から零れたのは、過去の悪夢を否定するような言葉だった。

「えっ……今、なんて……?」

  驚きのあまり腰を椅子から浮かせたジャックは一瞬考え込むような仕草でゆっくり座り直した後、「新手のジョークか?」と目を剥いて俺の顔をマジマジと見据える。

「いや、本心で言ってる」

  もう一度グラスを傾けて水を飲み干した俺は豆鉄砲を食らった鳩みたいな彼を指先で呼ぶと、空になったグラスをコトリ……とおいて微笑む。その笑顔に籠もった全てに嘘偽りはひとつもなく、俺の心は雷雨の後の晴天を見るように清々しい。

「アリーシャは……俺の天使はまだ死んじゃいない」
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