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Christmas・eve
──2──/#1
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放心状態で部屋に運ばれた俺がリビングに呼ばれたのは、時計の針が1度目の11時を指し示す頃だった。
結局朝食も喉を通らなかった俺は、地に足が付いているかも疑わしいフワフワとした足取りで壁伝いに廊下を進む。膝が笑うたびに躓く俺を嘲笑うのか、踏み心地の良い絨毯は不安定な柔らかさで何度も俺の足を掬う。
「……遅くなりました」
やっとの思いで辿り着いたリビングの大きな暖炉が室内を温め、その向かいに置かれた大理石のテーブルを挟んで置かれたソファに沈む父と母が静かに顔を上げる。
「わざわざ呼び出してすまない」
父はそっと髪を整えるように自分の頭に手をやりながら立ち上がると、暖炉の端に置かれた薪を弱まり出した炎に焚べた。勢いに任せて揺れる火は押し付けられた薪に手を掛けて飲み込むも、凍て付いた部屋の空気が暖まる事はない。
「いえ……」
促された訳ではないものの、両親の意図を察して空席のソファに腰を下ろす。俺が着席したのを見計らって両膝に肘をついた父は、指を組みながら「見たのか?」と話を切り出した。
「何をですか?」
「……今朝の、門扉を」
母や俺に気を使って直接的な表現を避けた父に嫌悪を抱いた俺は眉を顰めると、「門扉……アリーシャの事ですか?」とわざわざ瘡蓋を穿り返すように詰る。
「……あぁ」
大きく咳払いしてから瞳を閉じ、組んだ指に額を寄せて答えた彼の声は冷たく、まるで核心を突いた俺を責め立てるような雰囲気すら纏っていた。
その反応に怒りが込み上げた俺はギリっと唇を噛んで彼を睨むと、父にもたれ掛かるように座る焦点の合わない母は、俺と目が合った瞬間に首をゆるゆると振りながらひっそりと涙を流す。
「えぇ……見ました」
母の動作ひとつで心臓の奥がチクリと痛み、父に対する苛立ちを押し殺してそう答えた俺は、彼の行動の全てから目を離さないよう瞼に力を入れる。なんとなく、ただなんとなく俺の本能が、1秒たりとも彼から目を離してはいけないと喚く。
「どこまで話を知っているんだ?」
──『これは君のパパから箝口令が敷かれている情報でね……本来、アランに言ってしまったら僕の立場が悪くなる』
父の冷徹な声に射抜かれて冷静になった俺の頭に、ジャックの言葉が反芻する。ここで下手な事を言ってしまえば、いくら仲が良いとはいえ彼もタダじゃ済まないだろう──。言葉に焦りが出ないよう慎重に息を吸った俺は、父の手元一点に視線を置いて唇を湿らす。
「……朝起きたら見た事ないほど雪が降り積もってて、楠の靴下を取りに外へ行ったら、アリーシャが……」
「なるほど。……ちなみに、昨日は何故パパの書斎へ来たんだ?何かを誰かから聞いたりしたのか?」
煮えくり返った感情を抑えた唸りにも近いその言葉に、背筋がビクリと伸びる。緊張のせいかすぐに乾いてしまった唇をもう一度舌でなぞった俺は、捻り出すように「違います」と小さく呟いた。
「いつも一緒に食べてる夕食もバラバラだったし、ずっとアリーシャを見なかったから心配になったんです……ねぇ本当だよ、パパ」
縋り付く俺の声に顔を上げた父が、空気を抉るように俺を睨む。それでも目を逸らさずに見据える俺に呆れたのか、彼はスーツの上着から葉巻とライターを取り出す。
「分かった、アランを信じるよ」
結局朝食も喉を通らなかった俺は、地に足が付いているかも疑わしいフワフワとした足取りで壁伝いに廊下を進む。膝が笑うたびに躓く俺を嘲笑うのか、踏み心地の良い絨毯は不安定な柔らかさで何度も俺の足を掬う。
「……遅くなりました」
やっとの思いで辿り着いたリビングの大きな暖炉が室内を温め、その向かいに置かれた大理石のテーブルを挟んで置かれたソファに沈む父と母が静かに顔を上げる。
「わざわざ呼び出してすまない」
父はそっと髪を整えるように自分の頭に手をやりながら立ち上がると、暖炉の端に置かれた薪を弱まり出した炎に焚べた。勢いに任せて揺れる火は押し付けられた薪に手を掛けて飲み込むも、凍て付いた部屋の空気が暖まる事はない。
「いえ……」
促された訳ではないものの、両親の意図を察して空席のソファに腰を下ろす。俺が着席したのを見計らって両膝に肘をついた父は、指を組みながら「見たのか?」と話を切り出した。
「何をですか?」
「……今朝の、門扉を」
母や俺に気を使って直接的な表現を避けた父に嫌悪を抱いた俺は眉を顰めると、「門扉……アリーシャの事ですか?」とわざわざ瘡蓋を穿り返すように詰る。
「……あぁ」
大きく咳払いしてから瞳を閉じ、組んだ指に額を寄せて答えた彼の声は冷たく、まるで核心を突いた俺を責め立てるような雰囲気すら纏っていた。
その反応に怒りが込み上げた俺はギリっと唇を噛んで彼を睨むと、父にもたれ掛かるように座る焦点の合わない母は、俺と目が合った瞬間に首をゆるゆると振りながらひっそりと涙を流す。
「えぇ……見ました」
母の動作ひとつで心臓の奥がチクリと痛み、父に対する苛立ちを押し殺してそう答えた俺は、彼の行動の全てから目を離さないよう瞼に力を入れる。なんとなく、ただなんとなく俺の本能が、1秒たりとも彼から目を離してはいけないと喚く。
「どこまで話を知っているんだ?」
──『これは君のパパから箝口令が敷かれている情報でね……本来、アランに言ってしまったら僕の立場が悪くなる』
父の冷徹な声に射抜かれて冷静になった俺の頭に、ジャックの言葉が反芻する。ここで下手な事を言ってしまえば、いくら仲が良いとはいえ彼もタダじゃ済まないだろう──。言葉に焦りが出ないよう慎重に息を吸った俺は、父の手元一点に視線を置いて唇を湿らす。
「……朝起きたら見た事ないほど雪が降り積もってて、楠の靴下を取りに外へ行ったら、アリーシャが……」
「なるほど。……ちなみに、昨日は何故パパの書斎へ来たんだ?何かを誰かから聞いたりしたのか?」
煮えくり返った感情を抑えた唸りにも近いその言葉に、背筋がビクリと伸びる。緊張のせいかすぐに乾いてしまった唇をもう一度舌でなぞった俺は、捻り出すように「違います」と小さく呟いた。
「いつも一緒に食べてる夕食もバラバラだったし、ずっとアリーシャを見なかったから心配になったんです……ねぇ本当だよ、パパ」
縋り付く俺の声に顔を上げた父が、空気を抉るように俺を睨む。それでも目を逸らさずに見据える俺に呆れたのか、彼はスーツの上着から葉巻とライターを取り出す。
「分かった、アランを信じるよ」
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