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第2話アデュラリア女王

10.春を告げる花スノードロップ

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「兄とアデュラリアとわたしは幼馴染で、この針葉樹の林や氷河の谷が遊び場でした」

ジュードはリリアスを自分の馬に乗せている。バードも一緒だ。

ムハンマドとバラーはアデュラリア女王に呼ばれている。
針葉樹の森は所々明るい日だまりがあり、凍てつく寒さのなかで、小さな動物たちの憩いの場になっていた。
針葉樹にもよくみると、何かが動いている。それを棲みかにしているリスのようだった。

「命を感じる、、」

ジュードはリリアスの呟きをきき、笑顔でうなずいた。

「冬の国でも、雪の下、雪の中、森の中、大小様々な命が息づいている。優しくあたたかく揺り起こされるのを待っている。
あなたにもわかるの?」

「うん」

リリアスは、なぜにわからなかったのだろうと思う。
ここは冬の国。
おんなじ形ではなく、違う形で命は風はある。
土も。水も。雪も水の形を変えたもの。
氷も水の変化の一つ。
なんにも本質に変わりはなかった。

精霊はデンドロンにも存在している。
ただリリアスが感じられなかっただけだ。
ジュードは氷河を指した。

「あそこから兄は滑落した」

リリアスは近くまで寄って欲しいと頼んだ。
リリアスは立つ。
氷河の崖の際に。
その下には海が白くきらめいていた。
真下にはアデュラリアの氷の城。
目の錯覚か、とても近くに見える。
彼はここから滑落した。アデュラリアの所へ。

身を乗り出して見ると、慌ててジュードはリリアスを押さえた。

「あなたも死にたいのですか!!」
リリアスは足元の氷の中に閉じ込められた白い小さいものを見つける。
これは?

「花ですか?」

ざわざわする。
花と崖の下の城。
ジュードは目を細めた。

「氷に閉じ込められていますね。これは、春を告げる花、スノードロップですね。
根がないので誰かが落として、そのまま氷付けになったのではないでしょうか?
わりとあるのですよ、何年も何百年も氷に閉じ込められて後に発見されるものが。
人であったりもします。何百年も前に閉じ込められたのに、まるで今亡くなったかのような、、、」

聞いている端から、ポロポロとリリアスの目から涙があふれでた。
ジュードはぎょっとする。


春を告げる花。
すぐそこにあるアデュラリアの城。
滑落した婚約者。
渡せない指輪。
溶けない氷、、、。


「バード、精霊は形や名前を変えているけど、風はただ風。水はただ水。空はただ空ね。
見えなくしたのは私たちの思い込みのせいだったのかも。
ムハンマドの胸の炎は消えていない」


リリアスは後ろに立つバードに顔を向けた。

彼はいつもそこにいてくれる。
リリアスの守護者。
何度も助けられた。
バードはリリアスが何をしたいのか理解する。

彼女は確認しようとしている。

精霊の力がちゃんとバラモンでも、遠い冬の国でも変わらずに自分たちにあることを。
何も言わないのに、吸い寄せられるように互いの唇が触れあった。

バードの手はさらにリリアスを求めて無意識に頭の後ろに回される。
唇は深く重なった。

ふわっと風の加護紋様が浮かび上がった。
リリアスのものとバードのものの二つの紋様が大きく重なり、別の複雑な紋様を作り出す。

紋様はジュードの見ている前で、リリアスの黒髪と共に北風に海へ流された。
加護を持つもの同士のキス。

バードは我に返る。
リリアスからの誘いに自制心を一瞬失った。

リリアスは親密なキスに驚いて、抵抗を忘れていた。


(リリー、ごめん、そんなつもりはなかったんだ、、)

バードは自分の秘めた想いをリリアスに伝えてしまったかと心配する。
彼女のそばで守るのに、何年もかけて育った自分の恋ごころは邪魔ものだった。



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