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第2話アデュラリア女王
8.宣戦布告
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体を暖めるウサギのスープをメインにした夕食をリリアスはバード、バラー、ノアールで頂く。
ムハンマドは別室で用意されているようだった。
バラーは明らかに不満である。
彼はムハンマドの護衛なので、主人の場所が把握できないのはあってはならなかった。
食事もそこそこでふたたび掛け合いにいく。
騎士とやりあっていたが、騎士側が折れ、すぐさま、ムハンマドの安全確認にむかう。
しんみりとした食事の後は、リリアスは部屋に戻った。
精霊を感じられないせいか、この地の拒絶する感じのためかわからないが、心も冷たくなってくる気がする。
「、、、リリアスさま、アデュラリアさまがお呼びですが、大丈夫でしょうか?」
ジュードが扉の外から声をかける。
「アデュラリア、、」
女王のアデュラリアは黒髪のマッサージ師を所望したのだった。
アデュラリアは薄手の夜着姿でリリアスを迎えた。
色味の極端に押さえられた部屋は外の切り立つ氷河の続きを連想させた。
ここは氷河を壁に作られた城。
暖炉が燃えてはいるが、どこか寒い。
「あなたがリリアス。ムハンマド王弟の腕を治し、ジュードの怪我を治した治療師ね」
ジュードの無礼と治療のお礼を改めて伝える。
アデュラリアは間近でみると、アイスブルーの瞳が宝石のように美しい。
人間離れした、精霊そのもののような美しさがあった。
一通りの挨拶の後、リリアスはマッサージを始める。
固い足指はぎゅっと閉じあわされ、冷たい冷気が血のようだった。
緊張のとれない体を丁寧に解きほぐしていく。
一時間もすると、ようやく体も温まり、腕の緊張も取れてきた。
リリアスはアデュラリアに集中する。
アデュラリアの奥深くには、固く閉じ合わされた扉があった。
優しく開けるも、扉の向こうにはまた扉がある。
開いても開いても冷たい扉が続く。
リリアスは夢中で開け始めた。
段々と扉と空間は小さくなっていく。
その奥にはアデュラリアの核が仕舞われているような気がした。
あまり流れていなかった、アデュラリアのエネルギーが動き出す。
体が解れていく。
体に熱が戻ってくる。
「ああ~」
とアデュラリアは息を吐いた。
「なんだか、久々に呼吸をしたような気持ちだわ」
アイスブルーの目がぱっちりとリリアスを捕らえた。
「あなたは不思議ね。北風がざわめくわけだわ。体が軽く心も軽くなった気がする。二年ぶりかも、、」
アデュラリアはサイドテーブルの小さな寄木細工の宝箱をみた。
リリアスには、その宝箱はアデュラリアの意識の奥に仕舞われていたもののような気がした。
「あなたにマッサージを毎晩してもらったら、春を呼べるかもしれない。
でもあまり猶予はないの。町をみたでしょう?」
蓄えが底を尽きかけた飢えの予感。
「あなたが、本当に春を呼ぶのですか?」
思わず訊ねた。
「この国の女王のわたくしは、この国自身。そういうものでしょう?
王が病めば国も病む。代替りの時期よ。
でもわたくしの後はまだ育ってないの。
わたくしの心が溶けないと、春は閉じ込められたまま。デンドロン国は終わる」
アデュラリアは腕を伸ばして小箱をつかむ。体も起こした。
いたずらっ子の目をしている気がした。
「春はこの箱の中よ。これが開けられれば春になる。でもわたくしには開けられない」
リリアスに手渡す。
小箱は手のひらに収まり、冷たかった。
「もしくは、心を、あの砂漠の炎の男で溶かすか。
さぞや暖かい胸なのでしょうね」
「彼はわたしのです!」
リリアスは強く拒絶した。
ムハンマドが誰かを抱いていることを想像するだけで、胸が痛んだ。
「あなたは男でしょう?男は女のものだわ。それとも、あなたは男ではないというの?」
アデュラリアは眉を寄せ、じっとリリアスをうかがった。
マッサージの後で距離が近い。
後に体をひこうとしたとき、アデュラリアの端麗な唇がリリアスの唇を奪った。
一瞬の出来事だった。
振り払おうと思っても、さらに両肩を引き寄せられる。
不意打ちであり、相手が女性ということで、振り払うにもリリアスは対応が遅れた。
その間に、女王の唇はリリアスの唇を促し、アデュラリアの纏う花の香りにリリアスは我を忘れた。
気がつくと、キスは終わり、リリアスのそれをアデュラリアは撫で上げていた。
「ほら、あなたは男。ムハンマドには相応しくないと思わない?あなたは相応しい女性を見つけるべきよ」
リリアスは真っ赤になって突き放すようにして離れた。
いつになく、激しい感情が渦巻いていた。
中途半端な状態を、もう少しの猶予が欲しいと放置していたことを、責められているような気がした。
「アデュラリア女王、ムハンマドは渡しません。わたしが春を呼びおこします!!
あと二三日、お時間をください。わたしのムハンマドにはお手出し不要!」
リリアスは寄木細工の小箱を握りしめたまま、呆気に取られるアデュラリアに啖呵を切り宣言したのだった。
ムハンマドは別室で用意されているようだった。
バラーは明らかに不満である。
彼はムハンマドの護衛なので、主人の場所が把握できないのはあってはならなかった。
食事もそこそこでふたたび掛け合いにいく。
騎士とやりあっていたが、騎士側が折れ、すぐさま、ムハンマドの安全確認にむかう。
しんみりとした食事の後は、リリアスは部屋に戻った。
精霊を感じられないせいか、この地の拒絶する感じのためかわからないが、心も冷たくなってくる気がする。
「、、、リリアスさま、アデュラリアさまがお呼びですが、大丈夫でしょうか?」
ジュードが扉の外から声をかける。
「アデュラリア、、」
女王のアデュラリアは黒髪のマッサージ師を所望したのだった。
アデュラリアは薄手の夜着姿でリリアスを迎えた。
色味の極端に押さえられた部屋は外の切り立つ氷河の続きを連想させた。
ここは氷河を壁に作られた城。
暖炉が燃えてはいるが、どこか寒い。
「あなたがリリアス。ムハンマド王弟の腕を治し、ジュードの怪我を治した治療師ね」
ジュードの無礼と治療のお礼を改めて伝える。
アデュラリアは間近でみると、アイスブルーの瞳が宝石のように美しい。
人間離れした、精霊そのもののような美しさがあった。
一通りの挨拶の後、リリアスはマッサージを始める。
固い足指はぎゅっと閉じあわされ、冷たい冷気が血のようだった。
緊張のとれない体を丁寧に解きほぐしていく。
一時間もすると、ようやく体も温まり、腕の緊張も取れてきた。
リリアスはアデュラリアに集中する。
アデュラリアの奥深くには、固く閉じ合わされた扉があった。
優しく開けるも、扉の向こうにはまた扉がある。
開いても開いても冷たい扉が続く。
リリアスは夢中で開け始めた。
段々と扉と空間は小さくなっていく。
その奥にはアデュラリアの核が仕舞われているような気がした。
あまり流れていなかった、アデュラリアのエネルギーが動き出す。
体が解れていく。
体に熱が戻ってくる。
「ああ~」
とアデュラリアは息を吐いた。
「なんだか、久々に呼吸をしたような気持ちだわ」
アイスブルーの目がぱっちりとリリアスを捕らえた。
「あなたは不思議ね。北風がざわめくわけだわ。体が軽く心も軽くなった気がする。二年ぶりかも、、」
アデュラリアはサイドテーブルの小さな寄木細工の宝箱をみた。
リリアスには、その宝箱はアデュラリアの意識の奥に仕舞われていたもののような気がした。
「あなたにマッサージを毎晩してもらったら、春を呼べるかもしれない。
でもあまり猶予はないの。町をみたでしょう?」
蓄えが底を尽きかけた飢えの予感。
「あなたが、本当に春を呼ぶのですか?」
思わず訊ねた。
「この国の女王のわたくしは、この国自身。そういうものでしょう?
王が病めば国も病む。代替りの時期よ。
でもわたくしの後はまだ育ってないの。
わたくしの心が溶けないと、春は閉じ込められたまま。デンドロン国は終わる」
アデュラリアは腕を伸ばして小箱をつかむ。体も起こした。
いたずらっ子の目をしている気がした。
「春はこの箱の中よ。これが開けられれば春になる。でもわたくしには開けられない」
リリアスに手渡す。
小箱は手のひらに収まり、冷たかった。
「もしくは、心を、あの砂漠の炎の男で溶かすか。
さぞや暖かい胸なのでしょうね」
「彼はわたしのです!」
リリアスは強く拒絶した。
ムハンマドが誰かを抱いていることを想像するだけで、胸が痛んだ。
「あなたは男でしょう?男は女のものだわ。それとも、あなたは男ではないというの?」
アデュラリアは眉を寄せ、じっとリリアスをうかがった。
マッサージの後で距離が近い。
後に体をひこうとしたとき、アデュラリアの端麗な唇がリリアスの唇を奪った。
一瞬の出来事だった。
振り払おうと思っても、さらに両肩を引き寄せられる。
不意打ちであり、相手が女性ということで、振り払うにもリリアスは対応が遅れた。
その間に、女王の唇はリリアスの唇を促し、アデュラリアの纏う花の香りにリリアスは我を忘れた。
気がつくと、キスは終わり、リリアスのそれをアデュラリアは撫で上げていた。
「ほら、あなたは男。ムハンマドには相応しくないと思わない?あなたは相応しい女性を見つけるべきよ」
リリアスは真っ赤になって突き放すようにして離れた。
いつになく、激しい感情が渦巻いていた。
中途半端な状態を、もう少しの猶予が欲しいと放置していたことを、責められているような気がした。
「アデュラリア女王、ムハンマドは渡しません。わたしが春を呼びおこします!!
あと二三日、お時間をください。わたしのムハンマドにはお手出し不要!」
リリアスは寄木細工の小箱を握りしめたまま、呆気に取られるアデュラリアに啖呵を切り宣言したのだった。
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