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第2節 バラモンの第二王子バーライト

11、別れ

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イーサンはムラを取り囲むバラモン警察兵団の存在の報告を受け、ただ事ならない状況を理解した。

族長のところへ行くと、ムラの30名が続々と血相を変えて集まってきていた。

「はぐれもの3名の引き渡しを要求しているのだ。
昼までに引き渡さないと、このムラごと討伐するという」

ハント族長は言った。
女性陣は震え上がっていた。
イーサンは唇をかむ。

「こんな脅しをかけられたら、従うしかないだろ?」

「ようやく、ここに捉えたと噂を流したのに食いついたのが、バラモン第二王子だとはな」

そのとき、イーサンはばあやの姿をとらえた。
先程から探す姿がないのが気になり始めていた。その不安が増す。

「ばあや!リリーは!」

「なんというタイミングかな。リリーは昨晩出ていったよ」

「なんだって、、、」
イーサンは絶句する。

ムラを囲むバラモン警備兵団に、漏れはない。

「リリーはとらえられている、、」

イーサンは全ての血が体から失せたような気がした。

「彼女はもともとバラモン国の赤い鷹のもの。このまま行かせておやり」

ばあさまの声はイーサンには届かない。

「族長よ、はぐれものを差し出すならわたしが行く。ソーマ、ビル、、」

五名の若者と、岩場に閉じ込めていたはぐれもののを連れて、西のジャンバラヤ族の代表はバラモン警備兵団の野営地に赴いた。
朝方のことだった。


西のジャンバラヤ族の一行は警備兵団にすぐさま囲まれる。
馬を降りるように促され、降りると腰の武器と強弓を奪われる。


ぐるぐるに巻かれたひげもじゃのはぐれものの3人を彼らは差し出した。

「バラモン国の傲慢な王子よ!望みどおり、我らが捕まえた無法者を引き渡そう!煮るなり焼くなり好きにせよ!!
それから、我らに属する者を返してもらう!」

イーサンはリリーを得るまでは帰らない。
膝をつき、陣のまえに居座る。
ソーマ、ビル、後の三人も同様に膝をついた。



「なんだ、騒がしいな」

現れたのは白い衣装のバラモン第二王子。
バラモン国の次期王に目されている。
冷たい赤茶の目で、イーサンらを眺める。

「とらえたといっても3名だけだろう?
大きな顔をするな。
部族内の反乱者分子を野放しにしているから、善良なバラモン住民が多大な被害を被っている。」

「彼らは既にジャンバラヤ族のものではない。我らも同様の被害を被っている。
尻尾を掴ませなかったはぐれを捕まえたのは、我々だ。
感謝されこそすれ、非難をされるいわれはない」

バーライトは28歳。

広大な砂漠を統べるバラモン国の第二王子。警察兵団の権力を握り、中央政治での力も強い。

片や、イーサンは18歳。

砂漠の遊牧を主体とする西のジャンバラヤ族の族長の息子。
今は5名の若者を連れるのみ。

バーライトがムラの殲滅を決めたら、ひとたまりもないのはわかっていた。

今ムラには30名。
戦えない女子供も半分はいる。
バラモン国の警察兵団にこのまま速やかに帰っていただくというのが、ムラにとっての望みだった。

警察兵団といっても、虐殺も粛正も場合によっては行える権限をもつ。
理由はなんとでも仕立てあげられる。
関わらないのが西のジャンバラヤ族の方針だった。

だが、イーサンの望みは少し違う。
ムラの安全とリリーを取り戻すこと。

「我らに属する娘を返してもらおう」

赤茶の目の王子は眉を上げた。

「娘とは、、?」

しらをきるつもりか!とかっとなった時、野営地の白いテントの間からきれいに着飾った娘が必死の形相で飛び出してきた。

「イーサン!!」

一瞬の間の後、理解した。
バラモンの裾の長い衣装をまとった、砂漠で助けた娘。

「リリー!!」

彼女はバーライトの横をすり抜けようとして腕をとられた。
きりっとつかまれ、痛さに顔を歪めた。
イーサンはリリーの顔に残る赤いアザをみて、血が沸騰する。

「おまえら、リリーに何をしたっ」

必死にソーマとビルがイーサンを抑える。

「彼女は、お前のムラから出ようとして砂漠をさ迷っていたところ、我々が保護した。そなたらのルールでいうと、砂漠で拾ったものは拾った者のもの、だったか?」

イーサンはぎりっと噛みしめた。
リリーの胸も傷む。

自分がイーサンの元から抜け出したのは事実だからだ。彼の元には戻れない。

「イーサン、ごめんなさい、、」

イーサンは顔を歪めた。
彼女はいずれ飛び立つ蝶だった。
少し疲れた羽を休ませただけ。
イーサンの胸で、あたたまり、愛を得て、そして飛びたつのだ。

「あ、、」

イーサンは理解した。彼女は戻ってこない。

「バーライト、彼らを助けて。兵を引いて、、」

リリーはイーサンの悲しみがひしひしと伝わった。
リリーは留まるべきではなかったのだ。
砂漠で命を落としていた方が、彼を苦しめず、自分もこんなに悲しくならなかった。

(精霊たちよ。去るためには、出会わないといけないというのは悲しすぎるのではないか?)

バーライトは二人の間の心のつながりをみて、不快に感じる。

「無法者三人を捉えて差し出してくれたことに礼をいうつもりであったが、それでは足りない。
残りのそちらのいうはぐれ全員をあと1ヶ月の間に捕まえてもらおう。
我々よりも先にだ。
砂漠での追跡や襲撃は、ジャンバラヤの得意とするところだろう?
それまでに、あいつらが襲ったり、強盗を働いたりするならば、お前のムラから相当の品をいただくことにしよう。
羊、馬、武器、なければ人もいただく。働けるものは奴隷にいただく」

リリーは息を飲んだ。

「我々ははぐれとは関係がないといっている!全力を上げて捕まえるが、その要求は飲めない!」

「お前たちは真剣さが足りないのだ。
バラモンから仮りそめの独立を得て、寝ぼけているのではないか?我々はいつでも、お前たちの自由を奪うことができるのを忘れるな」

「バーライトさま、少し言い過ぎでは、、」
部下のシンは少し諌める。

バーライトが王になるにあたって、砂漠の民との間に軋轢を残しておくのは得策ではなかった。

バーライトも冷静になる。

「一ヶ月以内にはぐれをつかまえよ。遺体でもかわまない。
この命令をジャンバラヤ族で重く受け止めよ!」

イーサンはもうリリーを見ない。

イーサンと一緒に穏やかに過ごす人生を思ってリリーは泣いた。

「イーサンにお別れを、、、」

バーライトはこれ以上、リリーをイーサンと触れあわすつもりは全くなかったが、気がつかないうちに許していた。

リリーは駆け寄る。
イーサンの顔を挟み、おでこ、まぶた、ほほ、手の甲、そして軽く唇にキスをする。
お別れのあいさつだった。

「イーサン、助けてくれて本当にありがとう。あなたの進む道が、愛に満たされていますように」

イーサンは声もなく泣いていた。
涙で最後に焼き付けるバラモンの娘の顔が歪む。

「リリー、私はまだ18で弱い。
でも強くなる!
族をまとめあげ、あなたが望むなら、いついかなる時でも西のジャンバラヤ族はあなたの味方に駆けつける!あなたから求められるような強い男になる!
それまで、お別れだ、リリー。
あなたの道があふれんばかりの愛に満たされていますように、、。
愛を教えてくれてありがとう、、」




西のジャンバラヤ族は、小族から数人ずつ精鋭をだし、小さなオアシスをいくつも拠点にしていたはぐれをあぶり出し、皮をはがし切り刻んだ遺体をバラモンの警察兵団に送りつける。

一度に複数体の時もあり、数えるのに苦労するときもあった。
 2週間の間に全部で18体。

西のバラけていたジャンバラヤ族は、新たに強く、若き族長イーサンの元で急激にまとまり強くなる。



西のジャンバラヤ族は砂漠の安全を守ってくれていると、砂漠に近いオアシスの街や旅の商人は、ひたすら感謝をするのだった。
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