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第11話 それぞれの道
111-2、それぞれの道
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長らく空席だった王子の婚約者となる娘かもしれないと、人々はささやきあった。
「ジプサム王子さま!花を受け取ってください!」
王子の一行に、沿道の際を守る治安部隊の隙をつき、精一杯におめかしをした若い娘が駆け寄ろうとする。
その娘はすぐも腕をつかまれ引き戻されるが、必死の形相で馬上の王子に青いリボンで束ねた花束を差し出した。
「娘、前にでるな!戻れ!」
治安部隊兵の男に遮られ、花束を取り落としてしまう。
小さな騒動を王子は無視するかと思われたが、ひょいと身を乗り出したのはなんと王子の前に座る娘。
落ちそうなほど身を乗り出して、腕をしならせ地面に落ちるまえに花束をすくい取った。
馬上の娘が落馬してしまうのではないかと息を飲んだ群衆は、何事もなく王子の腕の中に納まった娘の素晴らしい運動神経に感嘆する。
白金の娘は崩れた花束の中から見事な花枝のひとつをジプサムの胸に挿しこんだ。
同じ花を自分の髪に添える。
そして再び身を乗り出して地面に膝をついてあっけにとられている娘と治安部隊の男にありがとうと手を振ると、娘は感極まり顔を真っ赤にして涙を流し、大音声の大歓声をあげた群衆は、興奮に任せ、手にしていた花を騎士たちの上に投げかけ始めた。
あっという間に空には花と花びらが舞い、あたりは春の花の濃厚な香りと歓声の渦となる。
「彼女は誰なんだ!誰か知っている人はいないのか?」
「誰かはわからいけど、恋人であることは確かでしょう!今、頭にキスされたわ!」
「王子さま万歳!騎士さま万歳!王子のかわいい恋人の姫さまに万歳!!」
人々は口々に声援を送る。
沿道の人々が娘の顔をよく見ようと目を凝らすと、娘が自分に目を合わせて笑いかけてくれるかのような不思議な感じを覚えたものも多かった。
勘違いだとしても気恥ずかしくうれしいものがあった。
後にジプサム王子の唯一の王子妃となるこのモルガン族の娘を、ベルゼラ国の民は気に入ったのだった。
※
「すごいな、ジプサムと騎士たちの人気は」
ユーディアは行きと帰りでは全く王都の人たちの熱狂度が違うことに驚いていた。
声を張り上げないとこんなに近くにいてもジプサムに自分の声が届かない。
「俺のユーディアを早く皆に紹介したくてたまらない!」
ジプサムも負けずに声を張り上げた。
「ちょうどユーディアがベルゼラに来て1年。星の宮の者たちも、小姓が婚約者として戻ってきたことを知ったらみんな驚くだろう」
ジプサムは頭に偶然を装った体裁でキスをするだけでは足りず、とうとう前にかがんで顔を寄せユーディアの頬にキスをした。
目撃した沿道の娘たちから悲鳴のような歓声が上がる。
だが、キスとは別のところで衝撃を受けたのはユーディアだった。
「ちょうど一年だって!?」
「そうだよ。昨年の今日、その時にはまさかこうしてあなたを婚約者として腕に抱き、俺の騎士を引き連れて帰還するとは思わなかった」
ベルゼラに来て今日でちょうど一年。
ユーディアは重要なことを失念していたことに気が付いたのである。
ユーディアは背後にいるブルースを探した。
「危ないから前を向いていて。王城はもうすぐだから」
正面には大きく開け放たれた城門が見える。
青瓦の星の宮も見えた。
ブルースは背後の騎士たちの列の、最後尾だった。
※
王子と騎士の前後は、トニー隊のオレンジ部隊の精鋭が守っている。
王子の斜め後ろの両側には、騎士隊長のサラードと副隊長のルーリク。
そしてその後ろに二列になって騎士たちが続く。
ベルゼラ国内であるからといって、新米騎士たちもトニー隊の兵士たちも油断はしてはならない。
騎士たちはまっすぐ正面を見ながらも、視界を広く保ち、異常な動きがないか気を配っていた。
ブルースは、将来的にルーリクと同様に王子妃となるユーディアの騎士になるつもりであった。
今の身分はトニー隊の兵士の一人にすぎない。
蟄居を共に過ごした護衛兵士として、今日の晴れの行進に新米騎士たちの最後尾につく。いずれジプサムの騎士になり、それからユーディアの騎士へ異動することになるだろう。
だがその前に、トニー隊長に所属替えの希望を言わねばならなかった。
ブルースの身分は奴隷であり、主人はトニー隊長である。
奴隷の身分とはいえ、兵士の給与は支払われている。
トニーはブルースの給与からいくらも取っていなかった。
蟄居する王子の護衛兵士に選抜され特別手当を払われているが、トニーが支払った自分の競売購入代金には足りていない。
奴隷は普通は自分を購入した金額と同等の金額を購入者に支払い購入者が了解すれば、自由になれる。
トニーはブルースを兵士にしたが、奴隷のまま、ジプサムの騎士になりたいとかけあえば、トニーに許してもらえるかどうか逡巡する。
トニー隊長は一行に参加していなかった。
レグラン王のそばにいる。
王城で警護に当たっている。
鷹のしつけ方など教えてほしいとトニー隊長から言われていたのだった。
「ジプサム王子さま!花を受け取ってください!」
王子の一行に、沿道の際を守る治安部隊の隙をつき、精一杯におめかしをした若い娘が駆け寄ろうとする。
その娘はすぐも腕をつかまれ引き戻されるが、必死の形相で馬上の王子に青いリボンで束ねた花束を差し出した。
「娘、前にでるな!戻れ!」
治安部隊兵の男に遮られ、花束を取り落としてしまう。
小さな騒動を王子は無視するかと思われたが、ひょいと身を乗り出したのはなんと王子の前に座る娘。
落ちそうなほど身を乗り出して、腕をしならせ地面に落ちるまえに花束をすくい取った。
馬上の娘が落馬してしまうのではないかと息を飲んだ群衆は、何事もなく王子の腕の中に納まった娘の素晴らしい運動神経に感嘆する。
白金の娘は崩れた花束の中から見事な花枝のひとつをジプサムの胸に挿しこんだ。
同じ花を自分の髪に添える。
そして再び身を乗り出して地面に膝をついてあっけにとられている娘と治安部隊の男にありがとうと手を振ると、娘は感極まり顔を真っ赤にして涙を流し、大音声の大歓声をあげた群衆は、興奮に任せ、手にしていた花を騎士たちの上に投げかけ始めた。
あっという間に空には花と花びらが舞い、あたりは春の花の濃厚な香りと歓声の渦となる。
「彼女は誰なんだ!誰か知っている人はいないのか?」
「誰かはわからいけど、恋人であることは確かでしょう!今、頭にキスされたわ!」
「王子さま万歳!騎士さま万歳!王子のかわいい恋人の姫さまに万歳!!」
人々は口々に声援を送る。
沿道の人々が娘の顔をよく見ようと目を凝らすと、娘が自分に目を合わせて笑いかけてくれるかのような不思議な感じを覚えたものも多かった。
勘違いだとしても気恥ずかしくうれしいものがあった。
後にジプサム王子の唯一の王子妃となるこのモルガン族の娘を、ベルゼラ国の民は気に入ったのだった。
※
「すごいな、ジプサムと騎士たちの人気は」
ユーディアは行きと帰りでは全く王都の人たちの熱狂度が違うことに驚いていた。
声を張り上げないとこんなに近くにいてもジプサムに自分の声が届かない。
「俺のユーディアを早く皆に紹介したくてたまらない!」
ジプサムも負けずに声を張り上げた。
「ちょうどユーディアがベルゼラに来て1年。星の宮の者たちも、小姓が婚約者として戻ってきたことを知ったらみんな驚くだろう」
ジプサムは頭に偶然を装った体裁でキスをするだけでは足りず、とうとう前にかがんで顔を寄せユーディアの頬にキスをした。
目撃した沿道の娘たちから悲鳴のような歓声が上がる。
だが、キスとは別のところで衝撃を受けたのはユーディアだった。
「ちょうど一年だって!?」
「そうだよ。昨年の今日、その時にはまさかこうしてあなたを婚約者として腕に抱き、俺の騎士を引き連れて帰還するとは思わなかった」
ベルゼラに来て今日でちょうど一年。
ユーディアは重要なことを失念していたことに気が付いたのである。
ユーディアは背後にいるブルースを探した。
「危ないから前を向いていて。王城はもうすぐだから」
正面には大きく開け放たれた城門が見える。
青瓦の星の宮も見えた。
ブルースは背後の騎士たちの列の、最後尾だった。
※
王子と騎士の前後は、トニー隊のオレンジ部隊の精鋭が守っている。
王子の斜め後ろの両側には、騎士隊長のサラードと副隊長のルーリク。
そしてその後ろに二列になって騎士たちが続く。
ベルゼラ国内であるからといって、新米騎士たちもトニー隊の兵士たちも油断はしてはならない。
騎士たちはまっすぐ正面を見ながらも、視界を広く保ち、異常な動きがないか気を配っていた。
ブルースは、将来的にルーリクと同様に王子妃となるユーディアの騎士になるつもりであった。
今の身分はトニー隊の兵士の一人にすぎない。
蟄居を共に過ごした護衛兵士として、今日の晴れの行進に新米騎士たちの最後尾につく。いずれジプサムの騎士になり、それからユーディアの騎士へ異動することになるだろう。
だがその前に、トニー隊長に所属替えの希望を言わねばならなかった。
ブルースの身分は奴隷であり、主人はトニー隊長である。
奴隷の身分とはいえ、兵士の給与は支払われている。
トニーはブルースの給与からいくらも取っていなかった。
蟄居する王子の護衛兵士に選抜され特別手当を払われているが、トニーが支払った自分の競売購入代金には足りていない。
奴隷は普通は自分を購入した金額と同等の金額を購入者に支払い購入者が了解すれば、自由になれる。
トニーはブルースを兵士にしたが、奴隷のまま、ジプサムの騎士になりたいとかけあえば、トニーに許してもらえるかどうか逡巡する。
トニー隊長は一行に参加していなかった。
レグラン王のそばにいる。
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