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第11話 それぞれの道
110、プロポーズ⑤
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「ぜひお越しくださいませ!!」
トルメキアの男たちは声をりんと声を張り上げた。
「お待ちください!レグラン王!峡谷を渡りトルメキアにいかれるのならその前に、俺たちリャオ族からも雪の女神のごとき美しいユーディア殿をリャオ族の里に招待したい!子供たちは山の女神、狐の女神、雪の姫さま、など勝手にあなたを敬愛している!あれから、穏やかな日が続く。季節は刻々と春に向かっている。むしろ俺はあなたは春を呼ぶ女神、豊穣の女神に違いないと思う!だから、ぜひ我が里へ。あなたはモルガン族の族長の娘だというのなら、俺はリャオ族の族長の息子である。共に、誇りを持ち大地に根を張るもの同士、語り合おう」
レグラン王に呼び掛けながら、銀狼の言葉は途中からユーディアひとりに向けられていた。
銀狼の言葉を裏付けするかのように、彼の後ろに控えた男たちと、首根っこをおさえられた白狐の男の子は、熱い目でユーディアを見つめる。
レグラン王もジプサムも、彼らの熱い視線の先、ユーディアを振り返ってみる。
これはなんて返事をすればいいのか。
心臓が弾みだす。
こんなに注目を集めたことなどユーディアはない。
なんと返事をしていいのかわからない。
「では、順番に……」
ユーディアが言いかけた言葉に重ねるようにして、レグラン王が笑いをかみ殺していう。
「トルメキアも人嫌いな森の民も、お前の小姓をなんと直截に求めることか。いくら奥手で未熟者の我が息子とはいえ、命の恩人であり、雪の姫と呼ばれるモルガンの娘に何かいうべきことはないのか」
ジプサムのこぶしが未熟者と呼ぶ父王に殴りかかるかのように握りしめられた。
だが正対したのはユーディア。
「ユーディア、あなたがトルメキアに行きたいのなら、リャオ族の里に行きたいのなら俺は力を尽くそう。だが、俺のプロポーズの返事を聞くまでは、どこにも行かせることはできそうにない。そして、俺の望む返事が聞けるまで、俺の目の届かない範囲へ、手を伸ばして届かないところへ行かせることはない。結婚をしてその後のことで思い悩むことがあるのなら、あなたの美しいきらめく夜空のような瞳が涙にぬれないように、俺はあなたの憂いを払う。あなたにとって、俺はいつまでも木登りができないふとっちょの子供で、恥をかくことがわかっているから踊りの輪に入ろうとしない気取った子供で、野生馬に飛び乗れない意気地なしの……」
「だが、ディアを取り合って俺と殴り合いをするぐらいには、情熱をもっている。その後もそこの幼なじみのモルガンの男とやり合ったそうではないか。未熟ということは、悪いことではない。まだ完成していないからこそ、成長できる伸びしろがある。俺のように世を憂いたり達観したりすることもなく、王座に過大な夢を持ち、世界を変えることができると思えるところが、未熟のいいところ。お前の若さを羨んだ気持ちの現れなんだ。だから、こんな未熟ものだけど、ユーディアも大きな気持ちで……」
レグラン王が諭すようにいうのをユーディアは待てなかった。
「もちろん諾よ!」
「なんだって!?」
レグラン王とジプサムの言葉が重なる。
ユーディアは両腕を広げた。
「わたしはジプサムと雪崩に飲まれて、ジプサムと溶け合って、輝く星がわたしたちから生まれる夢を見た!星読みの婆さまだったらきっと……。でもそんなこと関係なく、プロポーズを受けるわ!」
その胸に吸い込まれるようにしてジプサムはユーディアを抱きしめ、その髪に肩に顔をうずめた。
その背中をユーディアは抱く。
ジプサムは肩を震わせ声を殺して泣いていた。
あっけにとられたトルメキア兵もリャオ族も、状況を把握し、若い二人のプロポーズの成功に笑顔で拍手を送る。
レグラン王が小さなため息をつき、二人の肩を叩く。
見習い騎士たちがトルメキア兵を牽制する役目も忘れ、王子の喜びを感じ、もらい泣きをして鼻をすすった。
ジプサムはユーディアにささやき続けた。
「愛している、俺のディア!ブルースよりも、父よりも、トルメキア兵よりもリャオ族の子供よりも、誰よりもあなたを深く愛している!あなたの豊な黒髪が白くなっても、俺はあなたを愛し続ける。だから、どんな時でも俺のそばにいてくれ。俺のやることが間違っていたらただしてくれ。俺が足りないところがあれば諭してくれ。父のいう通り俺は、人としても愛することに関しても、未熟ものなのだから……。それでもあなたがいてくれるのなら胸を張って、自分が正しいと思える道を突き進めるように思える……」
離れなれようとしない二人を引き離しにかかったのはサニジン。
「もういいですか?そうと決まれば、時間がありません。ユーディアさまにはすることが山ほどありますから、そろそろユーディアさまを解放してくださいませんか?王子妃教育を今日から始めないとなりませんので。いままでは小姓教育で十分でしたが、今度はまず、女性としてから始めないといけないのですから。想像すればめまいさえ感じるぐらい遠い先に、王子妃があるのです。龍都にもどれば適切な教育者を付けなければなりません。そして教育と共に清い体を保たねばなりませんから。だから、お分かりですか、早くご一緒になるために、ジプサムさま、ユーディアさまをお放しください」
「わかった、サニジン。だけど、これは清い抱擁だから、今だけ許してくれ。この場にいるみんなが婚約締結の証人なのだから」
再び歓声があがる。
そうして、ベルゼラ国懸案の、ジプサムの結婚相手が決まったのである。
トルメキアの男たちは声をりんと声を張り上げた。
「お待ちください!レグラン王!峡谷を渡りトルメキアにいかれるのならその前に、俺たちリャオ族からも雪の女神のごとき美しいユーディア殿をリャオ族の里に招待したい!子供たちは山の女神、狐の女神、雪の姫さま、など勝手にあなたを敬愛している!あれから、穏やかな日が続く。季節は刻々と春に向かっている。むしろ俺はあなたは春を呼ぶ女神、豊穣の女神に違いないと思う!だから、ぜひ我が里へ。あなたはモルガン族の族長の娘だというのなら、俺はリャオ族の族長の息子である。共に、誇りを持ち大地に根を張るもの同士、語り合おう」
レグラン王に呼び掛けながら、銀狼の言葉は途中からユーディアひとりに向けられていた。
銀狼の言葉を裏付けするかのように、彼の後ろに控えた男たちと、首根っこをおさえられた白狐の男の子は、熱い目でユーディアを見つめる。
レグラン王もジプサムも、彼らの熱い視線の先、ユーディアを振り返ってみる。
これはなんて返事をすればいいのか。
心臓が弾みだす。
こんなに注目を集めたことなどユーディアはない。
なんと返事をしていいのかわからない。
「では、順番に……」
ユーディアが言いかけた言葉に重ねるようにして、レグラン王が笑いをかみ殺していう。
「トルメキアも人嫌いな森の民も、お前の小姓をなんと直截に求めることか。いくら奥手で未熟者の我が息子とはいえ、命の恩人であり、雪の姫と呼ばれるモルガンの娘に何かいうべきことはないのか」
ジプサムのこぶしが未熟者と呼ぶ父王に殴りかかるかのように握りしめられた。
だが正対したのはユーディア。
「ユーディア、あなたがトルメキアに行きたいのなら、リャオ族の里に行きたいのなら俺は力を尽くそう。だが、俺のプロポーズの返事を聞くまでは、どこにも行かせることはできそうにない。そして、俺の望む返事が聞けるまで、俺の目の届かない範囲へ、手を伸ばして届かないところへ行かせることはない。結婚をしてその後のことで思い悩むことがあるのなら、あなたの美しいきらめく夜空のような瞳が涙にぬれないように、俺はあなたの憂いを払う。あなたにとって、俺はいつまでも木登りができないふとっちょの子供で、恥をかくことがわかっているから踊りの輪に入ろうとしない気取った子供で、野生馬に飛び乗れない意気地なしの……」
「だが、ディアを取り合って俺と殴り合いをするぐらいには、情熱をもっている。その後もそこの幼なじみのモルガンの男とやり合ったそうではないか。未熟ということは、悪いことではない。まだ完成していないからこそ、成長できる伸びしろがある。俺のように世を憂いたり達観したりすることもなく、王座に過大な夢を持ち、世界を変えることができると思えるところが、未熟のいいところ。お前の若さを羨んだ気持ちの現れなんだ。だから、こんな未熟ものだけど、ユーディアも大きな気持ちで……」
レグラン王が諭すようにいうのをユーディアは待てなかった。
「もちろん諾よ!」
「なんだって!?」
レグラン王とジプサムの言葉が重なる。
ユーディアは両腕を広げた。
「わたしはジプサムと雪崩に飲まれて、ジプサムと溶け合って、輝く星がわたしたちから生まれる夢を見た!星読みの婆さまだったらきっと……。でもそんなこと関係なく、プロポーズを受けるわ!」
その胸に吸い込まれるようにしてジプサムはユーディアを抱きしめ、その髪に肩に顔をうずめた。
その背中をユーディアは抱く。
ジプサムは肩を震わせ声を殺して泣いていた。
あっけにとられたトルメキア兵もリャオ族も、状況を把握し、若い二人のプロポーズの成功に笑顔で拍手を送る。
レグラン王が小さなため息をつき、二人の肩を叩く。
見習い騎士たちがトルメキア兵を牽制する役目も忘れ、王子の喜びを感じ、もらい泣きをして鼻をすすった。
ジプサムはユーディアにささやき続けた。
「愛している、俺のディア!ブルースよりも、父よりも、トルメキア兵よりもリャオ族の子供よりも、誰よりもあなたを深く愛している!あなたの豊な黒髪が白くなっても、俺はあなたを愛し続ける。だから、どんな時でも俺のそばにいてくれ。俺のやることが間違っていたらただしてくれ。俺が足りないところがあれば諭してくれ。父のいう通り俺は、人としても愛することに関しても、未熟ものなのだから……。それでもあなたがいてくれるのなら胸を張って、自分が正しいと思える道を突き進めるように思える……」
離れなれようとしない二人を引き離しにかかったのはサニジン。
「もういいですか?そうと決まれば、時間がありません。ユーディアさまにはすることが山ほどありますから、そろそろユーディアさまを解放してくださいませんか?王子妃教育を今日から始めないとなりませんので。いままでは小姓教育で十分でしたが、今度はまず、女性としてから始めないといけないのですから。想像すればめまいさえ感じるぐらい遠い先に、王子妃があるのです。龍都にもどれば適切な教育者を付けなければなりません。そして教育と共に清い体を保たねばなりませんから。だから、お分かりですか、早くご一緒になるために、ジプサムさま、ユーディアさまをお放しください」
「わかった、サニジン。だけど、これは清い抱擁だから、今だけ許してくれ。この場にいるみんなが婚約締結の証人なのだから」
再び歓声があがる。
そうして、ベルゼラ国懸案の、ジプサムの結婚相手が決まったのである。
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