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第11話 それぞれの道
109-2、プロポーズ④
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「ユーディアは女たちに埋もれてしまうような女ではございませんし、父の妻でもございませんから、距離を取っていただけると嬉しいのですが」
笑顔を崩さずやんわりとジプサムはいう。
以前同じような状況で、殴りかかったことがあったのだった。
その結果、ジプサムは父王に殴られ熱に浮かされることになり、この蟄居に至る。
ジプサムは同じ轍を踏むつもりはない。
父王に対して礼節を守りつつ、ユーディアを渡すつもりはない。
レグラン王は片眉を上げて何か言いたげにジプサムを見たが、ジプサムは無視した。
「もう動いて大丈夫なのか?」
「動かないとかえっておかしくなりそうだったから」
「そうだな。それがあなただった」
作られた笑顔が本物の笑顔に変わっていくのを見て、ユーディアは勇気づけられた。
「ジプサム、話があるの、ここじゃないどこかへ、二人だけで話したいのだけれど」
「ああ、わかった」
瞬時にジプサムの眸に期待と不安が入り混じる。
「レグラン王、そのお嬢さまをご紹介いただけないでしょうか」
そこへ声をかけたのは先ほどまでレグラン王と手合わせをしていた顎髭の男。
トルメキアの隊長、ダラス。
腰に落としていた服を引き上げきちりと胸を合わせている。
武人らしく礼儀正しい。
レグラン王よりも10は年上なのに、肉体も頭脳も衰えた様子は全くなかった。
いつの間にか、全員の手合わせの手が止まり、全ての顔がユーディアたちに向けられていた。
ダラスの背後には、急いで袖を通しながらほうぼうからトルメキア兵が駆けつける。
彼らは武器を帯びず、厚手の合わせの服と織の腰ひも一つである。
中には腕や頭に包帯を巻く者たちもいる。
トルメキア兵が動いたので、彼等と手合わせをしていた王騎士や見習い騎士たちに緊張が走った。
彼らも武器をもっていない。武器を持っているのは、隻眼のベッカムとユーディアを護衛をしているルーリクとブルースだけ。
トルメキア兵の大半は一泊したのち帰国した。
現在、離宮にとどまるのは10名のダラスの直属の精鋭部隊。
彼らが本気になれば、武器を持っていなくても命がけの戦いとなるだろう。
もともと彼らはレグラン王の守りが手薄な時を狙い、奇襲をかけてきたのだった。
再び王の命を狙うこともあり得ることも受け入れる側として織り込み済みである。
だがしかし、レグラン王は懐に抜き身の刃を取り込むことも、まったく気にしていなかった。
この三日間、毎晩酒を酌み交わし語り合い、体をぶつけ合うことで、国は違えど自国を大事に思う気持ちは変わりがないことを互いに知った。
今の今まで、かれらが一斉にレグラン王に向かうことはなかったが、ずっとそうだとは限らないのだ。
ジプサムはユーディアを背中にかばった。
背後に控えていたルーリクとブルースも前に出た。
その中で平然としているのはレグラン王。
その横にはさりげなくベッカム、タオルを持つ王騎士の一人が付いた。
ダラスとその部下たちを囲うように、王騎士と見習い騎士たちは広がっている。
そしてリャオ族の10人の男たちも集まっていた。
「トルメキアのダラス殿、ご紹介いたしましょう。この娘は不肖の息子が世話をしているもので、わたしの一番目の妻の親戚、モルガン族の族長の娘、ユーディア」
「レグラン王のご親戚でありますか!彼女が警告してくださり、我々は助けられました」
トルメキアの隊長と兵士、そしてリャオ族の男たちの視線が一斉にユーディアに向く。
その異様に熱を帯びた彼らの目に、食い入るように見つめられ、ユーディアはたじろいだ。
「彼女は銀の狐の女神さまだ!雪崩を知らせ、殺し合いを鎮めた。おれたちの狐の姫さまだ!」
リャオ族の男に紛れていた一人の子供が叫んだ。
彼の声は大きく響く。
大きな目を輝かせ、頬を上気させた白狐だった。
ユーディアは慌てた。
ユーディアに向かって走り出そうとした子供を押さえた銀狼に助けを求めた。銀狼はリャオ族の先頭に立つ。
「確かに知らせたのだけど……」
銀狼は首を振る。
わざと起こしたのは黙っておけということなのか。
実際には雪庇を落として雪崩を起こしたのは銀狼なのだが。
そしてその後起こったことにユーディアは言葉を失う。
トルメキアの隊長ダラスは泥の中に片膝をつき、片腕を膝に置き、左手の指先は泥の中につく。
そして顔を上げ、ユーディアを見た。
隊長は厳かにその目は感謝を伝える。
背後の精鋭たちも同じ。
「モルガン族の族長の娘、ユーディアさま。あなたは命の恩人です。我々がひとりも失わずに雪崩から生還できたのは、そのか弱き御身の危険を省みずにその危険を告げてくださったユーディアさまのお蔭でございます!
九死に一生を得たわが兵や、そして彼らの背後に控えるその何倍もいる家族の恩は、この場で言い尽くせるものではございません!この不肖ダラス、この御恩、一生忘れることはございません!あなたが何か危機に陥ることがあるようなことがあれば、火の中でも飛び込んで助けましょう!そして、ささやかなお礼の場を、ぜひトルメキアで設けさせて頂きたいのです」
笑顔を崩さずやんわりとジプサムはいう。
以前同じような状況で、殴りかかったことがあったのだった。
その結果、ジプサムは父王に殴られ熱に浮かされることになり、この蟄居に至る。
ジプサムは同じ轍を踏むつもりはない。
父王に対して礼節を守りつつ、ユーディアを渡すつもりはない。
レグラン王は片眉を上げて何か言いたげにジプサムを見たが、ジプサムは無視した。
「もう動いて大丈夫なのか?」
「動かないとかえっておかしくなりそうだったから」
「そうだな。それがあなただった」
作られた笑顔が本物の笑顔に変わっていくのを見て、ユーディアは勇気づけられた。
「ジプサム、話があるの、ここじゃないどこかへ、二人だけで話したいのだけれど」
「ああ、わかった」
瞬時にジプサムの眸に期待と不安が入り混じる。
「レグラン王、そのお嬢さまをご紹介いただけないでしょうか」
そこへ声をかけたのは先ほどまでレグラン王と手合わせをしていた顎髭の男。
トルメキアの隊長、ダラス。
腰に落としていた服を引き上げきちりと胸を合わせている。
武人らしく礼儀正しい。
レグラン王よりも10は年上なのに、肉体も頭脳も衰えた様子は全くなかった。
いつの間にか、全員の手合わせの手が止まり、全ての顔がユーディアたちに向けられていた。
ダラスの背後には、急いで袖を通しながらほうぼうからトルメキア兵が駆けつける。
彼らは武器を帯びず、厚手の合わせの服と織の腰ひも一つである。
中には腕や頭に包帯を巻く者たちもいる。
トルメキア兵が動いたので、彼等と手合わせをしていた王騎士や見習い騎士たちに緊張が走った。
彼らも武器をもっていない。武器を持っているのは、隻眼のベッカムとユーディアを護衛をしているルーリクとブルースだけ。
トルメキア兵の大半は一泊したのち帰国した。
現在、離宮にとどまるのは10名のダラスの直属の精鋭部隊。
彼らが本気になれば、武器を持っていなくても命がけの戦いとなるだろう。
もともと彼らはレグラン王の守りが手薄な時を狙い、奇襲をかけてきたのだった。
再び王の命を狙うこともあり得ることも受け入れる側として織り込み済みである。
だがしかし、レグラン王は懐に抜き身の刃を取り込むことも、まったく気にしていなかった。
この三日間、毎晩酒を酌み交わし語り合い、体をぶつけ合うことで、国は違えど自国を大事に思う気持ちは変わりがないことを互いに知った。
今の今まで、かれらが一斉にレグラン王に向かうことはなかったが、ずっとそうだとは限らないのだ。
ジプサムはユーディアを背中にかばった。
背後に控えていたルーリクとブルースも前に出た。
その中で平然としているのはレグラン王。
その横にはさりげなくベッカム、タオルを持つ王騎士の一人が付いた。
ダラスとその部下たちを囲うように、王騎士と見習い騎士たちは広がっている。
そしてリャオ族の10人の男たちも集まっていた。
「トルメキアのダラス殿、ご紹介いたしましょう。この娘は不肖の息子が世話をしているもので、わたしの一番目の妻の親戚、モルガン族の族長の娘、ユーディア」
「レグラン王のご親戚でありますか!彼女が警告してくださり、我々は助けられました」
トルメキアの隊長と兵士、そしてリャオ族の男たちの視線が一斉にユーディアに向く。
その異様に熱を帯びた彼らの目に、食い入るように見つめられ、ユーディアはたじろいだ。
「彼女は銀の狐の女神さまだ!雪崩を知らせ、殺し合いを鎮めた。おれたちの狐の姫さまだ!」
リャオ族の男に紛れていた一人の子供が叫んだ。
彼の声は大きく響く。
大きな目を輝かせ、頬を上気させた白狐だった。
ユーディアは慌てた。
ユーディアに向かって走り出そうとした子供を押さえた銀狼に助けを求めた。銀狼はリャオ族の先頭に立つ。
「確かに知らせたのだけど……」
銀狼は首を振る。
わざと起こしたのは黙っておけということなのか。
実際には雪庇を落として雪崩を起こしたのは銀狼なのだが。
そしてその後起こったことにユーディアは言葉を失う。
トルメキアの隊長ダラスは泥の中に片膝をつき、片腕を膝に置き、左手の指先は泥の中につく。
そして顔を上げ、ユーディアを見た。
隊長は厳かにその目は感謝を伝える。
背後の精鋭たちも同じ。
「モルガン族の族長の娘、ユーディアさま。あなたは命の恩人です。我々がひとりも失わずに雪崩から生還できたのは、そのか弱き御身の危険を省みずにその危険を告げてくださったユーディアさまのお蔭でございます!
九死に一生を得たわが兵や、そして彼らの背後に控えるその何倍もいる家族の恩は、この場で言い尽くせるものではございません!この不肖ダラス、この御恩、一生忘れることはございません!あなたが何か危機に陥ることがあるようなことがあれば、火の中でも飛び込んで助けましょう!そして、ささやかなお礼の場を、ぜひトルメキアで設けさせて頂きたいのです」
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