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第11話 それぞれの道
109、プロポーズ④
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フェルトの幕をくぐって部屋を出た時、そこにいるのはルーリク。
ブルースを険しい顔でにらみつけ、ブルースに続いて現れたユーディアを見てわずかに和らげたが、仏頂面を保持しながらいう。
ルーリクにはしかめ面は似合わない。
「急にどこかに行かれると困ります。ここには今、一時より少なくなったとはいえ他国者たちやリャオ族たちが入り乱れておりますので、御身になにかありましたら大変なことになります」
「あ、すみません……」
ユーディアはルーリクに謝るが、叱られたことになんだか納得がいかない。
ユーディアを叱るのはサニジンであり、どうしてジプサムの騎士に説教をされないといけないのか。筋が違うのではないか。
「これからどこにいかれますか?」
「ええ?……と、ジプサムさまはどこに?もしかして、探して待っていてくれたの?」
「臨時ではありますが護衛をするようにと正式に命じられましたから。少なくとも離宮にいる間は」
「ユーディアの護衛は俺がする」
ルーリクはブルースに正対する。
「あなたからも、誰からもユーディアさまは守られなければなりません」
「おい、喧嘩をうっているのか?俺がユーディアを傷つけるわけがないだろ」
ユーディアはいきなり剣が抜かれそうな気配に間に入る。
「一体、どういうことのなの?護衛って、今までも扉を守ってくれていたようだけど、正式にというのは。男小姓から女小姓になったからにしては、物騒な気がする」
「はあ?何を言うのですか!これからますます周囲に目を配らないといけなくなるのに、ユーディアが今までのように動き回ったら、護衛する側も追いかけていくことになりますから」
「だから、一体何が……」
「あ、すみません。ユーディアさまが、です。失礼いたしました」
ルーリクの言葉に要領を得ないところがある。なぜに自分の名前がさま付けなのか、ユーディアは理解できない。
二人を引き連れる形で庭に出る。
ルーリクは羽織ものを持っていてさりげなくユーディアの肩にかけてくれた。
先ほどは庭全体で取り組みがなされていたが、取り組みの数が減っている。
体術の勝ち抜き戦をしていたのか。
既に雪が溶けた上に、ぐちゃぐちゃに踏みつけられた悪場の中に転がったと思われる泥だらけの男たちが、彼らの輪の中で勝負をする、同じく泥だらけの者たちに声援を送っている。
ジプサムの姿を探した。
ジプサムは簡易な折りたたみイスに腰を掛け腕を組んで試合を見ていた。
ユーディアに気が付くとわずかに顔を緊張させ、立ち上がり、試合の歓声を送る者たちの背後を回ってユーディアのところへ行こうとする。
輪の中で上半身半裸となり筋肉を波打たせて戦う男の一人がジプサムの反応から視線の先を追い、振り返る。
そして、ユーディアを見た。
男はその隙を突かれて対戦相手に脚をすくわれ、あたりに雪と泥のまざったしぶきをまき散らし押し倒された。
手合わせを見守る男たちから大歓声が上がると同時に落胆の声もあがる。
勝負に負けたのはレグラン王だった。
すかさず丁重に手を差し出しレグラン王を起こすのは、顎髭の対戦相手の男。トルメキアのダラス隊長。
二人は固く握手を交わす。
レグラン王は王騎士が差し出したタオルで顔と体をさっとぬぐうと、大股でユーディアのところへ突っ切った。
「ユーディア!もう大丈夫なのか?」
「大丈夫です。十分休ませていただきました」
「リーンの服がよく似合っている!まるであなたのために用意していたかのようだ!」
「ありがとうございます」
満面の笑顔のレグラン王はユーディアの背後に視線をやる。
ルーリクとブルースは軽く頭を下げた。
「若手で一番の兵と、一番見どころのある騎士を二人も連れているとは、我が不肖の息子もようやく心を決めたのだな。おめでとうのキスをしていいか?」
レグラン王の手がユーディアの腰に伸びて引きよせようとした。
そこへすかさず止めに入ったのはジプサム。
横から先にユーディアの腰をつかんで己に引き寄せた。
「まだですから。レグラン王」
「まだ、おめでとうではないのか?」
信じられないものをきいたかのように、くっきりとした眉がよる。
「申し訳ありませんが、この者に気安く触れてもらっては困ります。ユーディアの服が泥と汗で汚れてしまいますので、もう少し離れていただけますか。背中からボタボタと泥が落ちていますよ」
そういうジプサムも既に泥だらけなのだが自分のことは完全に棚にあげている。
「それは、申し訳なかった。この衣装を着ているとつい我が妻の一人のように愛情を覚えてしまってな」
ブルースを険しい顔でにらみつけ、ブルースに続いて現れたユーディアを見てわずかに和らげたが、仏頂面を保持しながらいう。
ルーリクにはしかめ面は似合わない。
「急にどこかに行かれると困ります。ここには今、一時より少なくなったとはいえ他国者たちやリャオ族たちが入り乱れておりますので、御身になにかありましたら大変なことになります」
「あ、すみません……」
ユーディアはルーリクに謝るが、叱られたことになんだか納得がいかない。
ユーディアを叱るのはサニジンであり、どうしてジプサムの騎士に説教をされないといけないのか。筋が違うのではないか。
「これからどこにいかれますか?」
「ええ?……と、ジプサムさまはどこに?もしかして、探して待っていてくれたの?」
「臨時ではありますが護衛をするようにと正式に命じられましたから。少なくとも離宮にいる間は」
「ユーディアの護衛は俺がする」
ルーリクはブルースに正対する。
「あなたからも、誰からもユーディアさまは守られなければなりません」
「おい、喧嘩をうっているのか?俺がユーディアを傷つけるわけがないだろ」
ユーディアはいきなり剣が抜かれそうな気配に間に入る。
「一体、どういうことのなの?護衛って、今までも扉を守ってくれていたようだけど、正式にというのは。男小姓から女小姓になったからにしては、物騒な気がする」
「はあ?何を言うのですか!これからますます周囲に目を配らないといけなくなるのに、ユーディアが今までのように動き回ったら、護衛する側も追いかけていくことになりますから」
「だから、一体何が……」
「あ、すみません。ユーディアさまが、です。失礼いたしました」
ルーリクの言葉に要領を得ないところがある。なぜに自分の名前がさま付けなのか、ユーディアは理解できない。
二人を引き連れる形で庭に出る。
ルーリクは羽織ものを持っていてさりげなくユーディアの肩にかけてくれた。
先ほどは庭全体で取り組みがなされていたが、取り組みの数が減っている。
体術の勝ち抜き戦をしていたのか。
既に雪が溶けた上に、ぐちゃぐちゃに踏みつけられた悪場の中に転がったと思われる泥だらけの男たちが、彼らの輪の中で勝負をする、同じく泥だらけの者たちに声援を送っている。
ジプサムの姿を探した。
ジプサムは簡易な折りたたみイスに腰を掛け腕を組んで試合を見ていた。
ユーディアに気が付くとわずかに顔を緊張させ、立ち上がり、試合の歓声を送る者たちの背後を回ってユーディアのところへ行こうとする。
輪の中で上半身半裸となり筋肉を波打たせて戦う男の一人がジプサムの反応から視線の先を追い、振り返る。
そして、ユーディアを見た。
男はその隙を突かれて対戦相手に脚をすくわれ、あたりに雪と泥のまざったしぶきをまき散らし押し倒された。
手合わせを見守る男たちから大歓声が上がると同時に落胆の声もあがる。
勝負に負けたのはレグラン王だった。
すかさず丁重に手を差し出しレグラン王を起こすのは、顎髭の対戦相手の男。トルメキアのダラス隊長。
二人は固く握手を交わす。
レグラン王は王騎士が差し出したタオルで顔と体をさっとぬぐうと、大股でユーディアのところへ突っ切った。
「ユーディア!もう大丈夫なのか?」
「大丈夫です。十分休ませていただきました」
「リーンの服がよく似合っている!まるであなたのために用意していたかのようだ!」
「ありがとうございます」
満面の笑顔のレグラン王はユーディアの背後に視線をやる。
ルーリクとブルースは軽く頭を下げた。
「若手で一番の兵と、一番見どころのある騎士を二人も連れているとは、我が不肖の息子もようやく心を決めたのだな。おめでとうのキスをしていいか?」
レグラン王の手がユーディアの腰に伸びて引きよせようとした。
そこへすかさず止めに入ったのはジプサム。
横から先にユーディアの腰をつかんで己に引き寄せた。
「まだですから。レグラン王」
「まだ、おめでとうではないのか?」
信じられないものをきいたかのように、くっきりとした眉がよる。
「申し訳ありませんが、この者に気安く触れてもらっては困ります。ユーディアの服が泥と汗で汚れてしまいますので、もう少し離れていただけますか。背中からボタボタと泥が落ちていますよ」
そういうジプサムも既に泥だらけなのだが自分のことは完全に棚にあげている。
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