舞姫の君

藤雪花(ふじゆきはな)

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第11話 それぞれの道

107、プロポーズ②

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 また、寝入ってしまったようだった。
 ゆっくりと体を起こした。
 誰もいない部屋に、ベッドサイドのテーブルに湯気が立つ粥が置いてある。
 それをみると急におなかがすいていることに気が付いた。
 ドライナッツにドライフルーツがゴロゴロ入ったヨーグルト、特大のチーズも置いてあった。
 ユーディアは卵のおとされたおかゆを口の中にかき込んだ。
 三日、寝続けていたとジプサムは言っていたのもわかる。
 待ち構えた消化器官が薄くなった腹の中で踊るように動き出す。


 ひとまずおなかを落ち着かせると、ユーディアはベッドをおりてリーンの服を選ぶ。
 ドレス以外は、たいていがシルクの素材の裾の膨らみ足首で縛る、モルガンの衣装。
 こんな手触りの良い服を着ていたらすぐに裂けてしまう。
 手早く着つけ、髪を束ねた。
 扉外にはルーリクがいる。

「おはようございます。っといってももう昼ですが。ジプサムさまたちは外で勝負をしていますよ」
「勝負?」
「そう。トルメキアの兵の一部が滞在しているのです。実力を知るにはまずは手合わせでしょう。俺とあなたもしましたね!勝負といえども鍛錬の意味合いが強い、平和なものです。見学しますか?」

 ルーリクの口調が丁寧である。
 表情から斜めに構えたところが消えている。 
 寝ている3日の間に、何か心境の変化があったのか。

「ブルースは?」
「ブルースも参加していると思いますが……」

 ユーディアは廊下を行く。
 ルーリクが付いてくるのがわかる。
 階段に差し掛かると、普段よりもずっと空気が騒がしい。
 庭の雪はかき寄せられ地面が見えていた。そこで赤毛の髪や、ショウと同じハシバミ色の髪の男たちとベルゼラの騎士たちが手合わせをしていた。
 中には毛皮を脱いだリャオ族もいる。
 体から湯気が立ち上る。彼らの熱気で、近づけば体感として3度は違いそうである。
 ユーディアの姿に気がついた者たちが顔をユーディアに向けた。
 同時に手を止め足を止めたので、軒並み相手にやられている。
 ブルースはいない。

 ブルースが行きそうなところが一つ思い当たった。
 ルーリクがついてきていだが、声をかけられて視線を外した隙に、ユーディアは走り出した。
 ルーリクが慌てる声が聞こえるが振り返らない。
 そして振り切った。

 静かで誰にも邪魔されないところ。
 草原の匂いが濃厚に凝縮されたリーンの隠れ場所、ゴメスの作業場所。
 
 
 フェルトの幕を押し上げ、中を覗く。
 ブルースは中にいた。
 胡坐で座り、矢羽根を巻き直していた。

「ブルース、やっぱりここにいたのね!ここが一番落ち着ける」
 ユーディアはブルースの座る横に腰を落とした。
「ゴメスは?」
「ゴメスはいない」
「勝手に入っていいの?」
「自由に出入りしていいと許可は得ている」
「いつの間にゴメスと仲が良くなったの?」
「それは、伝書鳩を俺の鷹が食ってから?それより俺に話があるのだろう?」

 ユーディアはブルースの横に腰を落とした。
 その瞬間に左足のももの裏に痛みが走る。
 ユーディアは眉を寄せ、脚を立て足首で縛っていた紐をほどき始めた。

「どうした?」
「腿の後ろが痛い。座ろうとして引きつった感じがあったの」
「見せてみろ」
 ブルースは矢を置き、ユーディアの向かいに座ると脚の付け根までパンツの裾を引き上げた。
 柔らかなシルクはブルースの手の中に納まっていた。

「傷があったんだな。膿んでる」
 ブルースの顔がみるみる険しくなっていく。
「怪我がないか調べてもらわなかったのか?夜はジプサムが付いていたのに、あいつはあなたの脚の怪我に気が付かなかったのか?」
「小さな傷だったから見落としたのかも。すごく痛い。白くなって膨らんでる?」
「かなりでかいな。俺が搾りだしてやる。脚を肩にのせろ」
 ユーディアはブルースの肩に乗せた。
「一気に絞りだして」
「痛むぞ。目をつむれ」

 ユーディアは言われるままに顔の中心に口元を寄せるようにして眉をよせ目をつむり、痛みの衝撃に備えた。
 当然ブルースが指で押し出すものだと思っていた。
 肩よりも高く脚が上げられ押さえられ、ユーディアは弾みであおむけに倒れた。
 熱い何かが押し付けられた。
 ブルースが口で膿を吸い取るつもりなのだと悟ったときには、鋭い痛みが襲う。
 鋭く吸い上げられ、ユーディアは呻いた。
 振り払えない。動けないように体重が掛けられていた。
 ユーディアはなされるがまま。
 膿を吸いきるとあふれでる血をブルースは吸う。
 痛みが引いていく。
 柔らかな舌が傷口を舐めた。
 敏感になっている肌に快感が走る。

「……痛かったか?」
 ブルースは顔を上げた。
 髪がユーディアのふくらはぎをくすぐる。


 
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