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第10話 雪山離宮 襲撃
102-2、森林限界
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ベッカムはユーディアといるときと別人の厳しさを見せる。
ユーディアは兵士としてのブルースの厳しさを垣間見たのである。
それでも何とかブルースは隙を見つけてユーディアと話をしようとする。
「ブルース!こい。お前はレグラン王とジプサムさまの訓練に同行する」
すぐさま制止したのはベッカム。
厳しくもいいつつ、ユーディアと視線がぶつかると片目をウインクして見せた。
「ベルゼラのお偉いさんたち気合が入っているなあ。ユーディア殿は俺たちの組?気楽にいこうぜ」
そうユーディアに声をかけたのは、銀狼。
レグラン王たちは山間のスキートレーニングに出発し、後に残ったのはユーディアとリリーシャとショウ、そしてサンとドルシェ。
初心者組である。
かれらのリーダーはリャオ族の名代の銀狼。
「じゃあ、俺たちはまず登ってみようか。あの男と一緒でなくて正直ほっとするな」
あの男とはブルースである。
首をこきこきと鳴らし、首の調子をみた。
ブルースに首を絞められ殺されかけたのだ。
「なんでわたくしも行かなきゃいけないのよ」
不機嫌を隠し切れないのはリリーシャ。
「じっとしていたらおかしくなりそうだとレグラン王に訴えたからではないですか?」
「嘘つき女とも一緒にいたくないのだけど」
リリーシャだけは辛辣である。
「男のふりをしながら王も王子も手玉に取るなんて、なんて淫乱な……」
ユーディアはぐっとこらえた。
リリーシャはジプサム王子と結婚する未来が潰えて、八つ当たりしたい気持ちなのだと思う。
だからと言って売られた喧嘩を笑って流せるほどユーディアは大人ではない。
「リリーシャさま。白狐を誤射したお詫びをしていないのではないですか?銀狼からお詫びの気持ちを伝えてもらった方がいいのではないですか?曲がりなりにもトルメキアの姫であるリリーシャさまは、ここではトルメキアの代表であられます。その自覚はおありになりますか?」
リリーシャの頬が寒さだけのためではなく赤くなる。
「なんなのよ、あんた、ちょっとジプサムさまにもレグランさまにも目にかけてもらっているからといって、どうして野蛮な蛮族に……」
「五の姫」
ショウが静かに声をかけた。
銀狼がじっと様子をうかがっていた。
リリーシャは押し黙る。
ユーディアのいう通り、リリーシャはここではトルメキアの代表なのだ。
その言動で、あまり友好的ではないリャオ族と、さらに関係が悪化することもありえそうだった。
「雪の積もるときにはリャオ族は狩りはしないのですって?狩りをしたのは知らなかったから許して。そして間違って子供を射かけて申し訳なかったわ」
「謝罪は受け入れます。もう気になさらずに」
銀狼は途中、薄く氷を張る銀の泉やら、鍾乳洞の入口やら、やどり木やら説明をしてくれる。
登るにつれて木々はまばらになり、雪をかぶる岩がちになる。
そこから眼下を見下ろすと、森の途切れ目がくっきりとわかる。
「ここが森林限界。これ以上は木々が生えることはない」
足下には、幾筋も雪だけの道が裾広がりにずっとふもとまで続いている。
ユーディアは、滑落してレグラン王に助けられたところはどの筋か見定めようとした。
「白い木々の生えていない筋はすべて雪崩の痕?」
「そう。雪崩は些細な事から起こる」
「些細な事ってどんなこと?そんなに頻繁に起こるものなの?」
「あなたは好奇心が旺盛なんだな。だから、草原から出てベルゼラ国に入っているのか?」
そういいながらも銀狼は説明を始めた。
ユーディアは兵士としてのブルースの厳しさを垣間見たのである。
それでも何とかブルースは隙を見つけてユーディアと話をしようとする。
「ブルース!こい。お前はレグラン王とジプサムさまの訓練に同行する」
すぐさま制止したのはベッカム。
厳しくもいいつつ、ユーディアと視線がぶつかると片目をウインクして見せた。
「ベルゼラのお偉いさんたち気合が入っているなあ。ユーディア殿は俺たちの組?気楽にいこうぜ」
そうユーディアに声をかけたのは、銀狼。
レグラン王たちは山間のスキートレーニングに出発し、後に残ったのはユーディアとリリーシャとショウ、そしてサンとドルシェ。
初心者組である。
かれらのリーダーはリャオ族の名代の銀狼。
「じゃあ、俺たちはまず登ってみようか。あの男と一緒でなくて正直ほっとするな」
あの男とはブルースである。
首をこきこきと鳴らし、首の調子をみた。
ブルースに首を絞められ殺されかけたのだ。
「なんでわたくしも行かなきゃいけないのよ」
不機嫌を隠し切れないのはリリーシャ。
「じっとしていたらおかしくなりそうだとレグラン王に訴えたからではないですか?」
「嘘つき女とも一緒にいたくないのだけど」
リリーシャだけは辛辣である。
「男のふりをしながら王も王子も手玉に取るなんて、なんて淫乱な……」
ユーディアはぐっとこらえた。
リリーシャはジプサム王子と結婚する未来が潰えて、八つ当たりしたい気持ちなのだと思う。
だからと言って売られた喧嘩を笑って流せるほどユーディアは大人ではない。
「リリーシャさま。白狐を誤射したお詫びをしていないのではないですか?銀狼からお詫びの気持ちを伝えてもらった方がいいのではないですか?曲がりなりにもトルメキアの姫であるリリーシャさまは、ここではトルメキアの代表であられます。その自覚はおありになりますか?」
リリーシャの頬が寒さだけのためではなく赤くなる。
「なんなのよ、あんた、ちょっとジプサムさまにもレグランさまにも目にかけてもらっているからといって、どうして野蛮な蛮族に……」
「五の姫」
ショウが静かに声をかけた。
銀狼がじっと様子をうかがっていた。
リリーシャは押し黙る。
ユーディアのいう通り、リリーシャはここではトルメキアの代表なのだ。
その言動で、あまり友好的ではないリャオ族と、さらに関係が悪化することもありえそうだった。
「雪の積もるときにはリャオ族は狩りはしないのですって?狩りをしたのは知らなかったから許して。そして間違って子供を射かけて申し訳なかったわ」
「謝罪は受け入れます。もう気になさらずに」
銀狼は途中、薄く氷を張る銀の泉やら、鍾乳洞の入口やら、やどり木やら説明をしてくれる。
登るにつれて木々はまばらになり、雪をかぶる岩がちになる。
そこから眼下を見下ろすと、森の途切れ目がくっきりとわかる。
「ここが森林限界。これ以上は木々が生えることはない」
足下には、幾筋も雪だけの道が裾広がりにずっとふもとまで続いている。
ユーディアは、滑落してレグラン王に助けられたところはどの筋か見定めようとした。
「白い木々の生えていない筋はすべて雪崩の痕?」
「そう。雪崩は些細な事から起こる」
「些細な事ってどんなこと?そんなに頻繁に起こるものなの?」
「あなたは好奇心が旺盛なんだな。だから、草原から出てベルゼラ国に入っているのか?」
そういいながらも銀狼は説明を始めた。
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