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第10話 雪山離宮 襲撃
98、仮面
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レグラン王の一行に助けられたユーディアは、急ごしらえのテントの中でココアをご馳走になっていた。
レグラン王も腰を下ろしココアの湯を沸かすのに作った火の前で、にこにことしている。
庭師のレギーの顔になっていた。
「むさくるしい男たちに囲まれていい加減辟易していたところだったんだ。君にこんなに早く会えるなんて思いもしなかったよ。ココアは珍しいだろ?南国からの貿易品だ。金と同等の価値があるとされているぐらい貴重で、体を温めてくれる薬のような嗜好品だ」
「甘い……」
「砂糖をいっぱい入れた。飲みなれない人にはまずはおいしく感じてもらうのがいいからね。体じゅうに傷をつくって。恐怖で消耗しただろうから、甘いものは疲労回復にもいい」
「だけど、そろそろ戻らないと。ジプサムさまが心配している」
こんなことをしている場合ではないと思うのだが、濡れた服を乾かし冷えた体を温めるのは、雪山では命に係わることだそうである。
王の一行は王騎士5人、ベッカムとその部下。
そして灰色の毛皮の帽子に襟巻の、鋭い目つきのリャオ族の若い男がいた。
リャオ族の男は身のこなしは軽そうで、身にまとう毛皮は狼。
腰にじゃらりと飾りを付けている。
彼は案内人として王の一向に同道しているという。
レグラン王から銀狼と呼ばれていた。
ユーディアは、銀狼を呼び止めた。
リャオ族の子供を狐と間違って矢を射かけてしまった事情を話した。
目が覚めないので保護して離宮に戻るつもりだったと説明する。
リャオ族の男が激怒するかと思ったが、最後まで聞き終えた男は意外なことにすまそうな顔をする。
「銀の狐の帽子の子供、白狐だな。それから雪の塊が落ちてきた。だからあなたは雪崩の通り道であんな危険な滑りをしていたのか」
銀狼の目に浮かぶのは同情か、罪悪感か。
「おい、ユーディア。あんたは雪崩を知っているのか?」
口をはさんだのはベッカム。
「知らない。ショウが、ショウだと思うんだけど誰かが雪崩と叫んだから、逃げるものだとサニジンが。ショウとはトルメキアの五の姫の護衛騎士で……」
ため息をついたのはレグラン王。
「あなたは危ういな。雪崩の逃げ方は、真横に逃げる。雪崩は水の流れのようなものだ。流れていきやすい道がある。先ほどあなたを確保したところなんかは特に気を付けなければならない、銀狼のいうところの雪崩の通り道だ。雪崩を気にするのなら絶対に入りこんではいけない危険ゾーンなんだ。俺たちは細心の注意をしながら横切った。背丈の低い若い木々のところは数年前に雪崩ががあった証拠だ。木が生えていない広々としたところは毎年雪崩を繰り返すために、木々が成長できない。そうだろう?銀狼」
「そのとおり」
銀郎の顔は苦虫をかみつぶした顔をしている。
そしてココアを飲み終え、移動の準備をし始めたころ。
ジプサムとサニジンとブルースはユーディアの痕跡をたどりレグラン王の一向に合流する。
ジプサムは王の一行に来訪に驚きつつも正式な挨拶を行う。
「恐縮するな。王宮でもあるまいし堅苦しい礼儀はいらない。それよりも、お前は未熟者だな」
「何がですか?わたしにわかるようにご教授いただけないでしょうか」
ジプサムは頬を引きつらせた。
父王とはディアをめぐり争った歴史がある。
そのディアはユーディアであり、ユーディアは今、父王がその腕をつかんでいた。
まるで、ジプサムに渡さないと誇示するように。
「雪山の危険のことをまず学ぶべきだったのではないか?ユーディアは危険な雪崩の通り道を悠々とすべっていたぞ。そのお前は、見習い騎士たちも連れず、サニジンとモルガンの護衛と、たった二人しか連れていないのか」
「見習い騎士たちは山間コースを訓練中で。わたしたちはリャオ族の子供を確保していったん離宮に戻るつもりだったのですが」
レグラン王とジプサムの親子の対決のような対面がなされている間、サニジンはリャオ族の男に気が付き、今だに目覚めない子供を背中からおろし抱きかかえ直した。
「我々の手違いで大変なことになりまして申し訳ありません……」
銀狼はぐったりした子供に近づき、帽子をずらして耳を出す。
「寝たふりをやめろ!白狐!起きてるのはわかってるんだ!」
耳元の大声に、子供の目がぱちりと開いた。
愛嬌のある照れ笑いで、子供はサニジンの腕から元気よく飛び降りた。
帽子を耳まで深くかぶり直す。
白狐と呼ばれた少年は、とっくに意識を取り戻していた。
「なんでえ。狼兄は心配してくれないんだ」
「どうせ、獲物を前にしたベルゼラの方々の反応をみたかったのだろ?雪崩のふりまで皆にさせて」
背後から白狐と呼ばれた子供と同年代の子供たちがぞろぞろと森の中から現れる。
「雪をわざと落としたのは悪かったよ。だって、ベルゼラのお偉いさんがどんな奴らか知りたかったんだよ。おいらを狙った男はトルメキアのやつら?あいつともう一人の雪豹の女はダメだけど、こいつらは俺に親切だった。少し驚かしたらどんな反応するかと思ったら、俺を連れて逃げてくれた。こいつらは合格だよ!」
「雪の塊を落としてごめんなさいッ」
子供たちは口々に謝った。
それぞれ毛色に違う動物の毛皮の帽子をかぶり襟巻を巻いている。
成り行きを把握し、唖然としたのはサニジンとジプサム、ブルース、そしてユーディアである。
レグラン王も腰を下ろしココアの湯を沸かすのに作った火の前で、にこにことしている。
庭師のレギーの顔になっていた。
「むさくるしい男たちに囲まれていい加減辟易していたところだったんだ。君にこんなに早く会えるなんて思いもしなかったよ。ココアは珍しいだろ?南国からの貿易品だ。金と同等の価値があるとされているぐらい貴重で、体を温めてくれる薬のような嗜好品だ」
「甘い……」
「砂糖をいっぱい入れた。飲みなれない人にはまずはおいしく感じてもらうのがいいからね。体じゅうに傷をつくって。恐怖で消耗しただろうから、甘いものは疲労回復にもいい」
「だけど、そろそろ戻らないと。ジプサムさまが心配している」
こんなことをしている場合ではないと思うのだが、濡れた服を乾かし冷えた体を温めるのは、雪山では命に係わることだそうである。
王の一行は王騎士5人、ベッカムとその部下。
そして灰色の毛皮の帽子に襟巻の、鋭い目つきのリャオ族の若い男がいた。
リャオ族の男は身のこなしは軽そうで、身にまとう毛皮は狼。
腰にじゃらりと飾りを付けている。
彼は案内人として王の一向に同道しているという。
レグラン王から銀狼と呼ばれていた。
ユーディアは、銀狼を呼び止めた。
リャオ族の子供を狐と間違って矢を射かけてしまった事情を話した。
目が覚めないので保護して離宮に戻るつもりだったと説明する。
リャオ族の男が激怒するかと思ったが、最後まで聞き終えた男は意外なことにすまそうな顔をする。
「銀の狐の帽子の子供、白狐だな。それから雪の塊が落ちてきた。だからあなたは雪崩の通り道であんな危険な滑りをしていたのか」
銀狼の目に浮かぶのは同情か、罪悪感か。
「おい、ユーディア。あんたは雪崩を知っているのか?」
口をはさんだのはベッカム。
「知らない。ショウが、ショウだと思うんだけど誰かが雪崩と叫んだから、逃げるものだとサニジンが。ショウとはトルメキアの五の姫の護衛騎士で……」
ため息をついたのはレグラン王。
「あなたは危ういな。雪崩の逃げ方は、真横に逃げる。雪崩は水の流れのようなものだ。流れていきやすい道がある。先ほどあなたを確保したところなんかは特に気を付けなければならない、銀狼のいうところの雪崩の通り道だ。雪崩を気にするのなら絶対に入りこんではいけない危険ゾーンなんだ。俺たちは細心の注意をしながら横切った。背丈の低い若い木々のところは数年前に雪崩ががあった証拠だ。木が生えていない広々としたところは毎年雪崩を繰り返すために、木々が成長できない。そうだろう?銀狼」
「そのとおり」
銀郎の顔は苦虫をかみつぶした顔をしている。
そしてココアを飲み終え、移動の準備をし始めたころ。
ジプサムとサニジンとブルースはユーディアの痕跡をたどりレグラン王の一向に合流する。
ジプサムは王の一行に来訪に驚きつつも正式な挨拶を行う。
「恐縮するな。王宮でもあるまいし堅苦しい礼儀はいらない。それよりも、お前は未熟者だな」
「何がですか?わたしにわかるようにご教授いただけないでしょうか」
ジプサムは頬を引きつらせた。
父王とはディアをめぐり争った歴史がある。
そのディアはユーディアであり、ユーディアは今、父王がその腕をつかんでいた。
まるで、ジプサムに渡さないと誇示するように。
「雪山の危険のことをまず学ぶべきだったのではないか?ユーディアは危険な雪崩の通り道を悠々とすべっていたぞ。そのお前は、見習い騎士たちも連れず、サニジンとモルガンの護衛と、たった二人しか連れていないのか」
「見習い騎士たちは山間コースを訓練中で。わたしたちはリャオ族の子供を確保していったん離宮に戻るつもりだったのですが」
レグラン王とジプサムの親子の対決のような対面がなされている間、サニジンはリャオ族の男に気が付き、今だに目覚めない子供を背中からおろし抱きかかえ直した。
「我々の手違いで大変なことになりまして申し訳ありません……」
銀狼はぐったりした子供に近づき、帽子をずらして耳を出す。
「寝たふりをやめろ!白狐!起きてるのはわかってるんだ!」
耳元の大声に、子供の目がぱちりと開いた。
愛嬌のある照れ笑いで、子供はサニジンの腕から元気よく飛び降りた。
帽子を耳まで深くかぶり直す。
白狐と呼ばれた少年は、とっくに意識を取り戻していた。
「なんでえ。狼兄は心配してくれないんだ」
「どうせ、獲物を前にしたベルゼラの方々の反応をみたかったのだろ?雪崩のふりまで皆にさせて」
背後から白狐と呼ばれた子供と同年代の子供たちがぞろぞろと森の中から現れる。
「雪をわざと落としたのは悪かったよ。だって、ベルゼラのお偉いさんがどんな奴らか知りたかったんだよ。おいらを狙った男はトルメキアのやつら?あいつともう一人の雪豹の女はダメだけど、こいつらは俺に親切だった。少し驚かしたらどんな反応するかと思ったら、俺を連れて逃げてくれた。こいつらは合格だよ!」
「雪の塊を落としてごめんなさいッ」
子供たちは口々に謝った。
それぞれ毛色に違う動物の毛皮の帽子をかぶり襟巻を巻いている。
成り行きを把握し、唖然としたのはサニジンとジプサム、ブルース、そしてユーディアである。
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