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第10話 雪山離宮 襲撃
98-2、仮面
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「頭をひどく打ち付けて脳内出血でもしているのかと思いました。無事で何よりですが。我々が信用なりませんか?」
ジプサムはしてやったり顔の子供を見て、銀狼を見据えた。
「申し訳なかった。子供たちのいたずらが過ぎたようだ」
「子供たちのいたずらで済ませる気か?俺たちを試したのか?そのために、ユーディアが遭難しかけたんだ」
「ユーディアは俺が助けなければ、崖から転落死していただろうな。もしくは大けがを負っていたか」
さらりとレグラン王がいう。
「レグラン王のご子息がどのような人間性をもった者なのか、トルメキアとベルゼラに隣接するところで生活する俺たちは、見極めなければらならない。次のベルゼラの王になる者が、俺たちリャオ族を一人の人間として扱う者たちなのか、雪が降るときには狩りをすることは禁止するという掟を尊重してくれる者たちなのか、掟に対する態度や、倒れた子供に対する態度で、俺たちの今後の身の振り方が決まってくるだろう。だからあなたがたの人間性を知りたかったのは確かだが、子供たちがそこまでするとは思わなかった。許してほしい」
「あなたは、リャオ族の族長なのか」
ジプサムの声の冷たさにユーディアは震えた。
銀狼はブルースの帽子下にはみ出た男髪を横目で見る。
「族長の名代だ。俺は次期リャオ族の族長になる。父は脚を悪くして山にでることはめっきり少なくなった。あなたが連れている者に、草原の民出身がいるようだな。少数部族に偏見を持っていないあなたなら、安心して俺たちも友好関係を結べそう……」
銀狼が普通に会話できたのはそこまで。
ブルースが銀狼の胸ぐらをつかみかかり締め上げる。
「おい、人間性を試すため、雪の玉を落とし雪崩の前兆と俺たちに思わせ、ユーディアを殺しかけたのか?そうですかと許してほしいで許せるものじゃないだろう」
「やめろ、苦し……」
みるみる銀狼の顔が青くなり赤くなった。
ベッカムが大股で進み止めようとしたのをレグラン王は手で制した。
レグラン王はジプサムに対応を任せるつもりなのだ。
「銀狼殿。アルタイ山に根を張るあなた方をわれわれは尊重する。積雪と狩りが禁止されるとの掟は知らなかった。われわれはリャオ族の掟をすき好んで侵すつもりはない。それを誠意をもってお伝えしたい。だが、掟を尊重してほしいのならばあなた方のことをまず教えていただきたい。そして、掟を侵した場合の報復はどのようなものなのか。伝えもしないあなた方の掟が尊重されているかどうかを確認するために、闇雲に俺たちの命を危険にさらしたことを、わらって許せるほど俺たちは馬鹿じゃない。ベルゼラとリャオ族と、生きている土台が違うんだ。だからこそ、我々はまず互いのことを知り、理解しあわねばならない。そのことはわかっていただけるだろうか。ブルース、放してやれ」
「ユーディアが大けがでもしていたら問答無用でお前も子供も殺していた」
そう吐き捨て、ブルースが離れた。
銀狼は喉をさすりあえぎなら息を吸う。
安心させるように銀狼はのろのろと手を挙げると、一斉に子供たちは駆け寄りしがみついた。すすり泣く子供もいる。
銀狼はジプサムとブルースとユーディアを順番に見た。
「わかった。まずは互いに知り合おう。ジプサム王子と草原の男はその女が大事なのか?大事な女を危険な状況に陥らせてしまい、改めて心より謝罪する。子供たちを責めないでほしい。俺たち大人の話を聞いていたから、勝手な行動をとってしまった」
「女ではありませんよ。ユーディアは小姓で……」
サニジンが口を差しはさんだ。
「は?女だろ?レグラン王が男のために自らの危険を顧みず助けたり、落ち着かせるために休憩を取りテントをはり、自らココアを作ってやるなんてことは想像ができないが?」
「その通りだ」
レグラン王がしれっと言った。
ユーディアは、自分の秘密がリャオ族の男に暴露されたことを知る。
突然のことで反応できなかったのはジプサムとブルース。
サニジンは細い目をあり得ないほど見開いた。
口笛を吹くふりをしたのはベッカムで。
その場にいた王騎士たちの顔が一斉に王の隣に立つユーディアに向く。
「あ……」
何かが崩れ落ちる音がする。
ユーディアの内側で、男の仮面が砕けて落ちた音だった。
揺れるユーディアをレグラン王は支えた。
ジプサムはしてやったり顔の子供を見て、銀狼を見据えた。
「申し訳なかった。子供たちのいたずらが過ぎたようだ」
「子供たちのいたずらで済ませる気か?俺たちを試したのか?そのために、ユーディアが遭難しかけたんだ」
「ユーディアは俺が助けなければ、崖から転落死していただろうな。もしくは大けがを負っていたか」
さらりとレグラン王がいう。
「レグラン王のご子息がどのような人間性をもった者なのか、トルメキアとベルゼラに隣接するところで生活する俺たちは、見極めなければらならない。次のベルゼラの王になる者が、俺たちリャオ族を一人の人間として扱う者たちなのか、雪が降るときには狩りをすることは禁止するという掟を尊重してくれる者たちなのか、掟に対する態度や、倒れた子供に対する態度で、俺たちの今後の身の振り方が決まってくるだろう。だからあなたがたの人間性を知りたかったのは確かだが、子供たちがそこまでするとは思わなかった。許してほしい」
「あなたは、リャオ族の族長なのか」
ジプサムの声の冷たさにユーディアは震えた。
銀狼はブルースの帽子下にはみ出た男髪を横目で見る。
「族長の名代だ。俺は次期リャオ族の族長になる。父は脚を悪くして山にでることはめっきり少なくなった。あなたが連れている者に、草原の民出身がいるようだな。少数部族に偏見を持っていないあなたなら、安心して俺たちも友好関係を結べそう……」
銀狼が普通に会話できたのはそこまで。
ブルースが銀狼の胸ぐらをつかみかかり締め上げる。
「おい、人間性を試すため、雪の玉を落とし雪崩の前兆と俺たちに思わせ、ユーディアを殺しかけたのか?そうですかと許してほしいで許せるものじゃないだろう」
「やめろ、苦し……」
みるみる銀狼の顔が青くなり赤くなった。
ベッカムが大股で進み止めようとしたのをレグラン王は手で制した。
レグラン王はジプサムに対応を任せるつもりなのだ。
「銀狼殿。アルタイ山に根を張るあなた方をわれわれは尊重する。積雪と狩りが禁止されるとの掟は知らなかった。われわれはリャオ族の掟をすき好んで侵すつもりはない。それを誠意をもってお伝えしたい。だが、掟を尊重してほしいのならばあなた方のことをまず教えていただきたい。そして、掟を侵した場合の報復はどのようなものなのか。伝えもしないあなた方の掟が尊重されているかどうかを確認するために、闇雲に俺たちの命を危険にさらしたことを、わらって許せるほど俺たちは馬鹿じゃない。ベルゼラとリャオ族と、生きている土台が違うんだ。だからこそ、我々はまず互いのことを知り、理解しあわねばならない。そのことはわかっていただけるだろうか。ブルース、放してやれ」
「ユーディアが大けがでもしていたら問答無用でお前も子供も殺していた」
そう吐き捨て、ブルースが離れた。
銀狼は喉をさすりあえぎなら息を吸う。
安心させるように銀狼はのろのろと手を挙げると、一斉に子供たちは駆け寄りしがみついた。すすり泣く子供もいる。
銀狼はジプサムとブルースとユーディアを順番に見た。
「わかった。まずは互いに知り合おう。ジプサム王子と草原の男はその女が大事なのか?大事な女を危険な状況に陥らせてしまい、改めて心より謝罪する。子供たちを責めないでほしい。俺たち大人の話を聞いていたから、勝手な行動をとってしまった」
「女ではありませんよ。ユーディアは小姓で……」
サニジンが口を差しはさんだ。
「は?女だろ?レグラン王が男のために自らの危険を顧みず助けたり、落ち着かせるために休憩を取りテントをはり、自らココアを作ってやるなんてことは想像ができないが?」
「その通りだ」
レグラン王がしれっと言った。
ユーディアは、自分の秘密がリャオ族の男に暴露されたことを知る。
突然のことで反応できなかったのはジプサムとブルース。
サニジンは細い目をあり得ないほど見開いた。
口笛を吹くふりをしたのはベッカムで。
その場にいた王騎士たちの顔が一斉に王の隣に立つユーディアに向く。
「あ……」
何かが崩れ落ちる音がする。
ユーディアの内側で、男の仮面が砕けて落ちた音だった。
揺れるユーディアをレグラン王は支えた。
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