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第10話 雪山離宮 襲撃
96-2、リャオ族
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男は短髪、堅牢な体格が多いベルゼラ国人の中で、細かく編まれた髪、細く見るからにしなやかでありながら強靭な体がリリーシャとユーディアの間の壁になる。
そのブルースとリリーシャの間にショウが割って入った。
ショウの手は腰に佩いた剣の柄を握る。
鼻先を突き合わせる形で二人はにらみ合った。
「ブルース控えろ。リリーシャ姫も、ショウを下がらせてほしい。それから、ユーディアもブルースも奴隷扱いしないでほしい。あなたこそ、色眼鏡で見られることの口惜しさを知っている人だったのではないのか?俺は奴隷をなくそうと思っていることをあらかじめ伝えておく」
それだけ言うとジプサムは背中をブルースに任せた。
「ユーディア。絶対に、あのようなことにはならないから。俺が阻止して見せる」
「あのようなこと。ベルゼラ軍とモルガン族の話し合いの場で決裂し、そこからモルガン族は粛清された。モルガン族はベルゼラ人にとっては蛮族だ。山岳民族のリャオ族も、ベルゼラ人は蛮族とみなし、差別していた。同じことが起こらないとは言えないんじゃあ……」
「俺は違う、俺が間に入る。だから、ユーディア、大丈夫だ……」
ジプサムは子供をあやすように言いながらも、ユーディアの腕についた血の跡に気が付いた。
だらんと垂れた少年の腕を上げて確認すると、枝に引っ掛けたのか二の腕の後ろ側の厚い生地が裂け、血がでていた。
サニジンが止血する。
「怪我は大したことがないとは思いますが、今だに目が覚めないのは気になります。ここにいてもしょうがありません。体が冷えていくばかりです。離宮に戻りましょう。他の者たちには誰かひとり連絡にいかせたらいいでしょう」
子供を背負いながらスキーをするにはまだブルースには荷が重い。
サニジンが子供を背負った。
リリーシャは押し黙り、ブルースが目をそらしても、ショウは一度置いた右手の位置を変えようとしなかった。
「では我々はもどりますか」
ユーディアはスキーを履き直した。
震える指では紐が結べない。ジプサムが固く結んでくれる。
結び終えると顔を上げ、目を合わせようとする。
「ユーディア、大丈夫だから」
何度大丈夫だと言われるのだろう。
それだけ自分は大丈夫ではない顔をしているのだろう。
その時、斜面から一つ、二つと雪の塊が弾みながら落ちてきたのである。
そのブルースとリリーシャの間にショウが割って入った。
ショウの手は腰に佩いた剣の柄を握る。
鼻先を突き合わせる形で二人はにらみ合った。
「ブルース控えろ。リリーシャ姫も、ショウを下がらせてほしい。それから、ユーディアもブルースも奴隷扱いしないでほしい。あなたこそ、色眼鏡で見られることの口惜しさを知っている人だったのではないのか?俺は奴隷をなくそうと思っていることをあらかじめ伝えておく」
それだけ言うとジプサムは背中をブルースに任せた。
「ユーディア。絶対に、あのようなことにはならないから。俺が阻止して見せる」
「あのようなこと。ベルゼラ軍とモルガン族の話し合いの場で決裂し、そこからモルガン族は粛清された。モルガン族はベルゼラ人にとっては蛮族だ。山岳民族のリャオ族も、ベルゼラ人は蛮族とみなし、差別していた。同じことが起こらないとは言えないんじゃあ……」
「俺は違う、俺が間に入る。だから、ユーディア、大丈夫だ……」
ジプサムは子供をあやすように言いながらも、ユーディアの腕についた血の跡に気が付いた。
だらんと垂れた少年の腕を上げて確認すると、枝に引っ掛けたのか二の腕の後ろ側の厚い生地が裂け、血がでていた。
サニジンが止血する。
「怪我は大したことがないとは思いますが、今だに目が覚めないのは気になります。ここにいてもしょうがありません。体が冷えていくばかりです。離宮に戻りましょう。他の者たちには誰かひとり連絡にいかせたらいいでしょう」
子供を背負いながらスキーをするにはまだブルースには荷が重い。
サニジンが子供を背負った。
リリーシャは押し黙り、ブルースが目をそらしても、ショウは一度置いた右手の位置を変えようとしなかった。
「では我々はもどりますか」
ユーディアはスキーを履き直した。
震える指では紐が結べない。ジプサムが固く結んでくれる。
結び終えると顔を上げ、目を合わせようとする。
「ユーディア、大丈夫だから」
何度大丈夫だと言われるのだろう。
それだけ自分は大丈夫ではない顔をしているのだろう。
その時、斜面から一つ、二つと雪の塊が弾みながら落ちてきたのである。
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