舞姫の君

藤雪花(ふじゆきはな)

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第9話 トルメキアの姫

90-2、ユーディアの夜這い①

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 ジプサムの様子が気になった。
 怪我はどれぐらいひどいのか。
 食事は誰が運んでくれているのか。
 部屋の扉をたたこうとしたときに、ちょうど出ようとしたリリーシャ姫と鉢合わせる。
 手には半分残した皿の盆を持っていた。
 リリーシャがそれをユーディアに押し付けてジプサムの部屋に戻るかと思ったが、リリーシャはそのまま部屋を出る。 
 だが、お盆は思った通りユーディアに手渡した。

「今、お休みになられましたよ。もう、必要な世話はありませんわ。このお盆を食堂に戻してくるぐらいかしら。わたくしは当分ジプサムさまに専心するので、あなたはわたくしの方の身の回りをこれまで以上に心を砕いてくださいね」

 
 もう、金輪際、ジプサムさまに近づかないで。
 王子の妻になるのはわたくしなのだから。
 だから、王子の部屋に近寄らないで。

 ユーディアにはリリーシャが言葉の裏側で、そう牽制しているような気がする。
 昨夜、王子と肉体的な関係をもったリリーシャが、同じく肉体関係をもっているだろう色小姓のユーディアを遠ざけようするのは当然だろうと思った。

 本当のところは、ジプサム王子とは何の関係もない。
 ベルゼラにおけるユーディアの保護者のような、心強い理解者であるだけだ。
 だから、安心してほしいと言おうと思うが、言えなかった。

「あなた、顔色が悪いわ。大丈夫……?」
 ささくれひとつない白い手がユーディアの顔に触れようと延ばされた。
 とっさに振り払う。

「すみません、大丈夫です。では、片付けてきます……」

 食堂は、王子とブルースの喧嘩の話でもちきりだった。
 原因は何か、憶測が飛んでいる。
 部屋に戻ったユーディアは、何もする気にならずベッドに体を投げ出した。 
 ユーディアは昨夜からよく眠れていない。
 リリーシャがジプサムの部屋から深夜に出てきた事実が、こんなに自分をかき乱すとは思いもしなかった。男なら、女を抱くこともあるだろうと思う。そんな話、酒がはいるとよく皆しているではないか。それが、そう遠くない未来に結婚するかもしれないリリーシャ姫であっただけ。誰と寝ようがユーディアには関係ない話だった。


 今夜はジプサムの怪我の様子が気になって、眠れそうにない。
 それでも目を閉じてベッドで横になる。
 消灯の時間が過ぎて、無音の闇に包まれる。
 ユーディアは体を起こした。
 このまま横になっていても一睡もできそうになかった。胸がもやもやする。いても立ってもいられない。
 すこしだけ、ジプサムの様子を確認しに行くぐらいなら許されるだろうと思ったのである。


 
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