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第9話 トルメキアの姫
88-2、リリーシャの夜這い
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「本当に色小姓なのだとしたら、ユーディアと同じ匂いをまとっているわたくしを、彼だと思って抱いていたでしょう。そう思わせるようにしたのだから。ですが、ジプサムさまはユーディアは性器に触れることをしないと申されましたので」
直感的に感じたことを口にする。
ためらいがちにジプサムは口を開いた。
「ユーディアの体にはひどいやけどがある。体を見せることは嫌がるんだ。俺は、嫌がることをしたくない。見せたくないというのなら、一生見なくてもいいと思っている」
「ディアは今、どこにいるのですか?どうやって生活をされているのですか?護衛はつけておられますか?ジプサム王子の想い人というだけで、王子を意のままに操りたいものにとってはよい獲物になるのではないですか?もしくは、他の男に奪われたら?」
「居場所はしらないが、安全なところにいると思っている。彼女はいつも元気だから。ディアは大丈夫なのだと感じる。大丈夫じゃないときは、俺にはわかるような気がする」
「非科学的なことをおっしゃっているとわかっておられますか?女の直感で申し上げます。ディアが大丈夫だと感じるのは、ディアによく似たあなたの小姓が元気だからではありませんか。ディアは、ユーディアなのではありませんか?体をやけどで見せないユーディアは、実際は女でディアなのではないですか?」
「いや、まさか、そんなことは……」
ジプサム王子は口元を押さえた。
疑惑の種を植え付けられた王子の横を、リリーシャはすり抜ける。
もしディアがユーディアだったとしても、そうじゃなくてもリリーシャには関係ない。
決死の覚悟で王子の部屋に訪れた自分を拒絶した王子を、些細なことでもいいから悩ませたかった。
大きな体の見習い騎士の横をすり抜けた。
自室の前ではショウが小姓をその先へ進ませないように腕をつかんで押し問答をしていた。
「もういいわ、王子との用事はすっかり終わりました。その子を放してやりなさい」
リリーシャの、乱れた髪と薄着の夜着に王子の羽織ものを羽織る姿は小姓の目にどのように映るのだろう。
小姓の顔は傷つきみるみる顔がゆがんでいく。
ディアは小姓のユーディアではないか。
口から飛び出した言葉を反芻する。
女かもしれないと思えば、大きな目に傷ついた色をにじませるその顔立ちや、その男にしては華奢な肩幅は、女でも十分に通用する。
まさか、そんなことがあるのだろうか。
ここにいるすべての者たちに、性別をだましとおすことなどできるのだろうか。
「今夜はもう、王子の部屋に行く必要はないわ」
リリーシャがそういうと、返事もなく顔を伏せた小姓は踵を返して部屋に消えた。
泣きたいのは自分の方ではないか。
「……大丈夫ですか」
「大丈夫よ」
「お召し物を失礼します。これは俺の方から返しておきましょう」
肩から王子の羽織ものがはぎとられた。
代りにショウは自分の上着を脱ぎ、リリーシャの肩にそっとかけた。
あと二歩で、部屋にはいるだけなのに。
まるで、自分以外の男のものを身にまとうのが許せないとでもいうかのよう。
「ベルゼラの男は美醜もわからない唐変木ですから、どうかお気になさることがないように」
短時間で部屋を出たこと。
抱かれた痕跡がないことからショウは、自分が夜這いに再び失敗し、追い出されたことをわかっているのだ。
上着から感じるショウの体温と匂いは、拒絶されて自信を失い、自分は本当はひどく傷ついたことを実感させた。
その夜、ひとりで泣く。
涙も鼻水もとめどなく、上着に吸い込まれていく。
拒絶されたのは悲しかったのだけど、それにより自分の美貌も自尊心も損なわれたわけではない。
抱かなかったのは王子に好きな女がいるから。
ジプサム王子は女への愛に誠実で、欲望に素直に従えない唐変木なのだ。
ただそれだけのことなのだと、翌朝リリーシャはすっきりと目覚めたのである。
直感的に感じたことを口にする。
ためらいがちにジプサムは口を開いた。
「ユーディアの体にはひどいやけどがある。体を見せることは嫌がるんだ。俺は、嫌がることをしたくない。見せたくないというのなら、一生見なくてもいいと思っている」
「ディアは今、どこにいるのですか?どうやって生活をされているのですか?護衛はつけておられますか?ジプサム王子の想い人というだけで、王子を意のままに操りたいものにとってはよい獲物になるのではないですか?もしくは、他の男に奪われたら?」
「居場所はしらないが、安全なところにいると思っている。彼女はいつも元気だから。ディアは大丈夫なのだと感じる。大丈夫じゃないときは、俺にはわかるような気がする」
「非科学的なことをおっしゃっているとわかっておられますか?女の直感で申し上げます。ディアが大丈夫だと感じるのは、ディアによく似たあなたの小姓が元気だからではありませんか。ディアは、ユーディアなのではありませんか?体をやけどで見せないユーディアは、実際は女でディアなのではないですか?」
「いや、まさか、そんなことは……」
ジプサム王子は口元を押さえた。
疑惑の種を植え付けられた王子の横を、リリーシャはすり抜ける。
もしディアがユーディアだったとしても、そうじゃなくてもリリーシャには関係ない。
決死の覚悟で王子の部屋に訪れた自分を拒絶した王子を、些細なことでもいいから悩ませたかった。
大きな体の見習い騎士の横をすり抜けた。
自室の前ではショウが小姓をその先へ進ませないように腕をつかんで押し問答をしていた。
「もういいわ、王子との用事はすっかり終わりました。その子を放してやりなさい」
リリーシャの、乱れた髪と薄着の夜着に王子の羽織ものを羽織る姿は小姓の目にどのように映るのだろう。
小姓の顔は傷つきみるみる顔がゆがんでいく。
ディアは小姓のユーディアではないか。
口から飛び出した言葉を反芻する。
女かもしれないと思えば、大きな目に傷ついた色をにじませるその顔立ちや、その男にしては華奢な肩幅は、女でも十分に通用する。
まさか、そんなことがあるのだろうか。
ここにいるすべての者たちに、性別をだましとおすことなどできるのだろうか。
「今夜はもう、王子の部屋に行く必要はないわ」
リリーシャがそういうと、返事もなく顔を伏せた小姓は踵を返して部屋に消えた。
泣きたいのは自分の方ではないか。
「……大丈夫ですか」
「大丈夫よ」
「お召し物を失礼します。これは俺の方から返しておきましょう」
肩から王子の羽織ものがはぎとられた。
代りにショウは自分の上着を脱ぎ、リリーシャの肩にそっとかけた。
あと二歩で、部屋にはいるだけなのに。
まるで、自分以外の男のものを身にまとうのが許せないとでもいうかのよう。
「ベルゼラの男は美醜もわからない唐変木ですから、どうかお気になさることがないように」
短時間で部屋を出たこと。
抱かれた痕跡がないことからショウは、自分が夜這いに再び失敗し、追い出されたことをわかっているのだ。
上着から感じるショウの体温と匂いは、拒絶されて自信を失い、自分は本当はひどく傷ついたことを実感させた。
その夜、ひとりで泣く。
涙も鼻水もとめどなく、上着に吸い込まれていく。
拒絶されたのは悲しかったのだけど、それにより自分の美貌も自尊心も損なわれたわけではない。
抱かなかったのは王子に好きな女がいるから。
ジプサム王子は女への愛に誠実で、欲望に素直に従えない唐変木なのだ。
ただそれだけのことなのだと、翌朝リリーシャはすっきりと目覚めたのである。
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