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第9話 トルメキアの姫
86-2、リリーシャ姫とレグラン王②
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「問?」
「君が俺を夜這いをしようと駆り立てた理由。40もそろそろ手のとどく親父に15の娘が惚れるわけがないだろう」
「17よ。30そこそこだと思ったわ」
声に出して男は笑う。
裸も同然の女を前にして、動じもしない。
寝室の入口に常に護衛を置く男。
トルメキアの安全な離宮にいても、命を狙われる恐れがあるのだ。
黒髪に、銀の筋が混ざる肩までの豊かな髪は後ろで一つに結ぶ。
くっきりとした顔立ちは、大仰な愛想笑いがそぎ落とされた今、男らしい美貌が際立っていた。
旅の商団長とは仮の姿だと確信する。
「わたしをこの離宮から連れ出してほしい。そのためならなんだってできる」
「本当になんでもやるつもりか」
「愛人が無理なら、下働きでも家畜の世話でもなんでも。この牢獄で腐るよりかはましよ」
「その容姿で、その年で婚約者が決まっていないのだとしたら、苦労したのだろうな」
男は思案顔になった。
腕を組む。
なぜか、一挙手一投足が目を離せない。
彼は見られることに慣れていて、相手がバツが悪くて羞恥に身をすくめても、怒っていても、顧みることはなかった。
重要なのは、目の前の女が自分の役に立つかどうか。
立たなければ、殺すか追い出すまで。
「……レグランさま大丈夫ですか?」
「問題ない。生きのいい雌馬が紛れ込んできただけだ。それに今は、レグラルドという名前なんだが」
窓のすぐ外から声がかかる。
そこにも護衛がいるのだ。
もしかして、連れてきた10人の男たち全員が、護衛、もしくは兵士かもしれない。
それもトルメキアの兵士ではない。
彼らの中に赤毛はひとりもいなかった。
「俺の息子の心に響きそうな女を探している。奴は、何不自由なく育てられたお嬢さまというよりも、自分で自分の道を切り開くような、元気な女が好きだ。もしかして、かたくなな息子の心を、その美しい容貌で溶かすことができるかもしれない。その美しい金の髪が嫌ならば、ベルゼラ風に黒く染めたらいい。近くで光にすかしてみない限り、目の色など誰もわからない。だが息子の心を得るまでは金色のままでいることを勧める。逆境をものともしない女が好きだから。わかりやすい印があった方がいいだろう」
口の中にわきでた生唾を飲み込んだ。
レグランという名前は一人しか思い当たらない。
国境で緊張感を常にはらむ、強国ベルゼラの狂王。
身分を隠し偵察に訪れた。
よりによって父王は、王宮の奥深くにそうと知らずベルゼラの王を招き入れてしまったのだ。
「トルメキアの五の姫。俺との取引に応じるのならば、この甘ったるい花園から出してやろう。あとは君次第で、トルメキアの王は君の顔色をうかがうことになるだろうし、姉妹たちはうらやましがることになる。なにせ、王子妃、しいては次期ベルゼラの王妃になることもあり得るのだから」
「ここにベルゼラの王がいると叫べば、トルメキアは戦争をせずしてベルゼラに勝てる。わたしは英雄になれるわ」
男は驚いて見せた。
「あはは。その通りだ。そういう発想がいいな。それで、やってみるがいい。俺は死ぬかもしれないが、君は俺が死ぬ前に、トニーの手により息の根を止められるだろう。遺体となって英雄になり王宮を出ても、それは望みがかなったとはいえないんじゃないか。それよりも、その負けん気を俺の息子のために使ってほしいものだ」
同じ男なのに、同じような提案なのに、父王とは言葉の重みが違った。
ここから逃れるためだけの、身を売る選択ではない。
自分を虐げたもの全員を見返すこともできるかもしれない提案だった。
もう一度部屋の外から声がかかった。
うろつく男がいてとらえたのだ。
二人の前に跪かされた男は、リリーシャの騎士、ショウ。
リリーシャの姿を見て、必死だったハシバミ色の目に安堵が広がる。
リリーシャは、彼に心配されていたのだと知る。
怪我をしていないことが重要で、裸同然なのは許せる範囲らしい。
「この男は君の護衛か?案外、大事にされているぞ。君の主人と取引が成立した。そして今夜、商人レグランドと君の間には、何も起こらなかった。部屋に戻れ」
レグラン王がいうように、リリーシャは提案を飲む。
最適な状況を用意するというレグランの言葉に従い、待った。18の誕生日に気がついたのは乳母とショウだけ。
そして、今、ベルゼラの王子は二つ向こうの部屋で休んでいる。
なんとか関係を先へ進める方法を考えなければならなかった。
「君が俺を夜這いをしようと駆り立てた理由。40もそろそろ手のとどく親父に15の娘が惚れるわけがないだろう」
「17よ。30そこそこだと思ったわ」
声に出して男は笑う。
裸も同然の女を前にして、動じもしない。
寝室の入口に常に護衛を置く男。
トルメキアの安全な離宮にいても、命を狙われる恐れがあるのだ。
黒髪に、銀の筋が混ざる肩までの豊かな髪は後ろで一つに結ぶ。
くっきりとした顔立ちは、大仰な愛想笑いがそぎ落とされた今、男らしい美貌が際立っていた。
旅の商団長とは仮の姿だと確信する。
「わたしをこの離宮から連れ出してほしい。そのためならなんだってできる」
「本当になんでもやるつもりか」
「愛人が無理なら、下働きでも家畜の世話でもなんでも。この牢獄で腐るよりかはましよ」
「その容姿で、その年で婚約者が決まっていないのだとしたら、苦労したのだろうな」
男は思案顔になった。
腕を組む。
なぜか、一挙手一投足が目を離せない。
彼は見られることに慣れていて、相手がバツが悪くて羞恥に身をすくめても、怒っていても、顧みることはなかった。
重要なのは、目の前の女が自分の役に立つかどうか。
立たなければ、殺すか追い出すまで。
「……レグランさま大丈夫ですか?」
「問題ない。生きのいい雌馬が紛れ込んできただけだ。それに今は、レグラルドという名前なんだが」
窓のすぐ外から声がかかる。
そこにも護衛がいるのだ。
もしかして、連れてきた10人の男たち全員が、護衛、もしくは兵士かもしれない。
それもトルメキアの兵士ではない。
彼らの中に赤毛はひとりもいなかった。
「俺の息子の心に響きそうな女を探している。奴は、何不自由なく育てられたお嬢さまというよりも、自分で自分の道を切り開くような、元気な女が好きだ。もしかして、かたくなな息子の心を、その美しい容貌で溶かすことができるかもしれない。その美しい金の髪が嫌ならば、ベルゼラ風に黒く染めたらいい。近くで光にすかしてみない限り、目の色など誰もわからない。だが息子の心を得るまでは金色のままでいることを勧める。逆境をものともしない女が好きだから。わかりやすい印があった方がいいだろう」
口の中にわきでた生唾を飲み込んだ。
レグランという名前は一人しか思い当たらない。
国境で緊張感を常にはらむ、強国ベルゼラの狂王。
身分を隠し偵察に訪れた。
よりによって父王は、王宮の奥深くにそうと知らずベルゼラの王を招き入れてしまったのだ。
「トルメキアの五の姫。俺との取引に応じるのならば、この甘ったるい花園から出してやろう。あとは君次第で、トルメキアの王は君の顔色をうかがうことになるだろうし、姉妹たちはうらやましがることになる。なにせ、王子妃、しいては次期ベルゼラの王妃になることもあり得るのだから」
「ここにベルゼラの王がいると叫べば、トルメキアは戦争をせずしてベルゼラに勝てる。わたしは英雄になれるわ」
男は驚いて見せた。
「あはは。その通りだ。そういう発想がいいな。それで、やってみるがいい。俺は死ぬかもしれないが、君は俺が死ぬ前に、トニーの手により息の根を止められるだろう。遺体となって英雄になり王宮を出ても、それは望みがかなったとはいえないんじゃないか。それよりも、その負けん気を俺の息子のために使ってほしいものだ」
同じ男なのに、同じような提案なのに、父王とは言葉の重みが違った。
ここから逃れるためだけの、身を売る選択ではない。
自分を虐げたもの全員を見返すこともできるかもしれない提案だった。
もう一度部屋の外から声がかかった。
うろつく男がいてとらえたのだ。
二人の前に跪かされた男は、リリーシャの騎士、ショウ。
リリーシャの姿を見て、必死だったハシバミ色の目に安堵が広がる。
リリーシャは、彼に心配されていたのだと知る。
怪我をしていないことが重要で、裸同然なのは許せる範囲らしい。
「この男は君の護衛か?案外、大事にされているぞ。君の主人と取引が成立した。そして今夜、商人レグランドと君の間には、何も起こらなかった。部屋に戻れ」
レグラン王がいうように、リリーシャは提案を飲む。
最適な状況を用意するというレグランの言葉に従い、待った。18の誕生日に気がついたのは乳母とショウだけ。
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