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番外編
2-1、マッサージ
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ジプサムは足裏の強烈な痛みに声が出そうになり、シーツを握りしめた。
情けない悲鳴は免れたがうめき声が漏れる。
蹴飛ばさないよう自制するので精一杯である。
「このポイントとこのポイントを親指で同時に押して……」
ブルースが足元で説明している。
「本当にそこであってますか?ちっとも感じないんだけれど」
「場所はあっていると思う。力が足りないのかなあ?」
ジプサムの横であおむけで寝て、ユーディアにフィードバックしているのはルーリク。
ジプサムのベッドでどうして男と並んで寝なければいけないのか。
さらに、足元でジプサムの体をマッサージしているのは、ユーディアではなくてブルース。
そのブルースの横にいるのがユーディア。
ユーディアがおそるおそるマッサージをしているのは、なぜかルーリクである。
「ブルースがルーリクの体で手本をユーディアに見せてやり、ユーディアは俺の体で練習兼マッサージをしてもらえばいいんじゃないか?」
歯を食いしばり次の痛みに備えつつ、ジプサムはいう。
案の定、土踏まずの真ん中をキリでぐりぐりと押しこまれたような痛みの指圧が来る。
「ジプサム王子、練習だからといって適当なことをさせられません。まずジプサムさまは正しいマッサージを体感し、ユーディアは俺のやり方を学び、きちんとできるようになってからジプサム王子をマッサージするという手順でいくのがいいと思いますから」
しれっとブルースがいう。
ことさら他人行儀なのはルーリクがいるからだ。
勝負のあと、急激にユーディアにルーリクは接近している。
「ユーディアの練習台がルーリクなのはなぜだ?」
ルーリクは問いかけにゆっくりと反応し、ジプサムの方へ向く。
くるくるの巻き毛が乱れて顔にかかっている。
間近で見るとまつ毛が長い。
気持ちがいいのか目元と口元がだらしなく緩んでいる。
ハンサムな顔が台無しである。
吐息がジプサムの頬に触れた。
ジプサムは痛みに顔をゆがめているというのに。
ルーリクの華々しい女遍歴を思い出した。
ルーリクもユーディアも肌がきれいで整った顔立ちであるのにも関わらず、近くにいればユーディアには心臓が弾むのに対して、ルーリクには理不尽だとは思うが腹が立った。
望んでいたのは、ユーディアの手で優しく筋肉に圧をかけてもみほぐしてもらうことであって、ベッドで好きでもない男と並んで寝て、ブルースにぐいぐいと指圧されている今の状態では決してない。
「ちょうど扉の警護の交代に来たのですが、サンがどうしても王子の部屋に入ってマッサージの練習台になるのはできないと固辞したので、しかたがなかったのです。サンはわたしの代りに警護についております……わたしは間違ったことをいったりしたりしてないですよね?」
ルーリクの言い訳の後半はユーディアに向けたものである。
ユーディアは頷いた。
「サンの警護延長は不当でもいじめでもないと思う」
勝負になった経緯がそれだったので、ユーディアも慎重である。
割り込んできたのはブルース。
「練習台が必要なのも、そもそもあなたがマッサージをいままでしなかったことが問題でしょう。俺のマッサージを受けるばっかりで。この際俺が、教えてあげますから、何日かかってもいいので完璧に覚えてください」
それだとふたりっきりになれないではないか。
「マッサージは適当でいッッ……」
ジプサムの言葉は呻き声に変わる。
「まさか僕が誰かにしてあげる必要があるなんて思わなかったから」
「俺は、練習台で、完璧でなくても構わないッッ……」
「そういうわけにはいきません」
ブルースがしれっと一蹴する。
会話が堂々めぐりしている。
足裏が終わって、今度は足首からふくらはぎをてのひらで歩いていく。
ふくらはぎは絶対に筋肉がつぶされている。
一生歩けないようになったかもしれないと、恐怖が走る。
ユーディアにマッサージをされている隣のルーリクはというと、寝息を立て始めていた。
わかりにくいところは何度か中断し、繰り返される。
痛いところを何度もぐいぐいと押される。
変な汗が背中に噴き出してきた。
「……初回のマッサージで痛いと拒絶反応が出るかもしれないので、しっかりと圧をかけたいところだけれど回数をするうちに、強い圧にたえられるようにまずは体を慣らしていくことがまず大事だ。痛みのサインが出ているから、それを見逃さないように……」
ブルースが丁寧に説明をしている。
「僕の練習台が寝てしまっているのは?」
「それは気持ちがいい証拠だから、そのまま寝かせてあげればいいよ。俺もいつも寝かせてあげていただろう?」
「そうだけど」
ということは、ブルースが手を緩めないのはジプサムが痛いということをわかった上のことなのだ。
モルガンの中ではジプサムは下っ端なのに、ベルゼラでは王子で付き従わなければならないことへの反発なのか。
ユーディアを色小姓にしていることに対する反発なのか。
ブルースは噂を信じているのだろうか。
とにかく、ブルースがジプサムに対して容赦ないのがわかる。
日頃のうっぷんを晴らされているのだ。
自分は王子なのに、無慈悲な扱いをされていいのか。
ストレッチも強すぎる。
腱か筋肉の繊維かが千切れそうだ。
許してくださいとか、負けましたとか、いうべきなのか。
情けない悲鳴は免れたがうめき声が漏れる。
蹴飛ばさないよう自制するので精一杯である。
「このポイントとこのポイントを親指で同時に押して……」
ブルースが足元で説明している。
「本当にそこであってますか?ちっとも感じないんだけれど」
「場所はあっていると思う。力が足りないのかなあ?」
ジプサムの横であおむけで寝て、ユーディアにフィードバックしているのはルーリク。
ジプサムのベッドでどうして男と並んで寝なければいけないのか。
さらに、足元でジプサムの体をマッサージしているのは、ユーディアではなくてブルース。
そのブルースの横にいるのがユーディア。
ユーディアがおそるおそるマッサージをしているのは、なぜかルーリクである。
「ブルースがルーリクの体で手本をユーディアに見せてやり、ユーディアは俺の体で練習兼マッサージをしてもらえばいいんじゃないか?」
歯を食いしばり次の痛みに備えつつ、ジプサムはいう。
案の定、土踏まずの真ん中をキリでぐりぐりと押しこまれたような痛みの指圧が来る。
「ジプサム王子、練習だからといって適当なことをさせられません。まずジプサムさまは正しいマッサージを体感し、ユーディアは俺のやり方を学び、きちんとできるようになってからジプサム王子をマッサージするという手順でいくのがいいと思いますから」
しれっとブルースがいう。
ことさら他人行儀なのはルーリクがいるからだ。
勝負のあと、急激にユーディアにルーリクは接近している。
「ユーディアの練習台がルーリクなのはなぜだ?」
ルーリクは問いかけにゆっくりと反応し、ジプサムの方へ向く。
くるくるの巻き毛が乱れて顔にかかっている。
間近で見るとまつ毛が長い。
気持ちがいいのか目元と口元がだらしなく緩んでいる。
ハンサムな顔が台無しである。
吐息がジプサムの頬に触れた。
ジプサムは痛みに顔をゆがめているというのに。
ルーリクの華々しい女遍歴を思い出した。
ルーリクもユーディアも肌がきれいで整った顔立ちであるのにも関わらず、近くにいればユーディアには心臓が弾むのに対して、ルーリクには理不尽だとは思うが腹が立った。
望んでいたのは、ユーディアの手で優しく筋肉に圧をかけてもみほぐしてもらうことであって、ベッドで好きでもない男と並んで寝て、ブルースにぐいぐいと指圧されている今の状態では決してない。
「ちょうど扉の警護の交代に来たのですが、サンがどうしても王子の部屋に入ってマッサージの練習台になるのはできないと固辞したので、しかたがなかったのです。サンはわたしの代りに警護についております……わたしは間違ったことをいったりしたりしてないですよね?」
ルーリクの言い訳の後半はユーディアに向けたものである。
ユーディアは頷いた。
「サンの警護延長は不当でもいじめでもないと思う」
勝負になった経緯がそれだったので、ユーディアも慎重である。
割り込んできたのはブルース。
「練習台が必要なのも、そもそもあなたがマッサージをいままでしなかったことが問題でしょう。俺のマッサージを受けるばっかりで。この際俺が、教えてあげますから、何日かかってもいいので完璧に覚えてください」
それだとふたりっきりになれないではないか。
「マッサージは適当でいッッ……」
ジプサムの言葉は呻き声に変わる。
「まさか僕が誰かにしてあげる必要があるなんて思わなかったから」
「俺は、練習台で、完璧でなくても構わないッッ……」
「そういうわけにはいきません」
ブルースがしれっと一蹴する。
会話が堂々めぐりしている。
足裏が終わって、今度は足首からふくらはぎをてのひらで歩いていく。
ふくらはぎは絶対に筋肉がつぶされている。
一生歩けないようになったかもしれないと、恐怖が走る。
ユーディアにマッサージをされている隣のルーリクはというと、寝息を立て始めていた。
わかりにくいところは何度か中断し、繰り返される。
痛いところを何度もぐいぐいと押される。
変な汗が背中に噴き出してきた。
「……初回のマッサージで痛いと拒絶反応が出るかもしれないので、しっかりと圧をかけたいところだけれど回数をするうちに、強い圧にたえられるようにまずは体を慣らしていくことがまず大事だ。痛みのサインが出ているから、それを見逃さないように……」
ブルースが丁寧に説明をしている。
「僕の練習台が寝てしまっているのは?」
「それは気持ちがいい証拠だから、そのまま寝かせてあげればいいよ。俺もいつも寝かせてあげていただろう?」
「そうだけど」
ということは、ブルースが手を緩めないのはジプサムが痛いということをわかった上のことなのだ。
モルガンの中ではジプサムは下っ端なのに、ベルゼラでは王子で付き従わなければならないことへの反発なのか。
ユーディアを色小姓にしていることに対する反発なのか。
ブルースは噂を信じているのだろうか。
とにかく、ブルースがジプサムに対して容赦ないのがわかる。
日頃のうっぷんを晴らされているのだ。
自分は王子なのに、無慈悲な扱いをされていいのか。
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