169 / 238
第8話 勝負
79-3、五番目の勝負(第8話完)
しおりを挟む
化粧っけなくても、胸が大きくなくても、ルーリクの愛してきた女たちのようなあでやかな微笑みや流し目や気の利いた会話やむしゃぶりつきたいような脚をしていなくても、こんなにもルーリクの心をとらえるのだから。
この女はきっと、大きく化ける気がする。
ユーディアはゴクリと生唾ごとルーリクの提案を飲み込んだ。
「僕が王子妃になることはないけれど、それが条件ならいいよ。そんなありえない未来の約束のために、僕の秘密を守ってくれるというのなら」
ルーリクはユーディアの手を要求する。
おずおずと伸ばされた手の甲に唇を押し付けた。
指先が震えてとっさに引っ込めようとしても逃さない。
騎士のルーリクがささげるキスは、この女だけに決めてしまった。
立ち合い人は、黒目がちな軍馬たち。
「俺の姫と勝手に呼ばせてもらう。これからは姫の信頼をえられるように誠心誠意、努力させてもらうとして……」
「ひ、姫も信頼もいらない!黙っていてくれるだけでいいから。じゃ、約束したから!」
慌てて振りほどくと、ルーリクの未来の姫は厩舎から闇の中へ走り去っていく。
追いかけようにも追いつくことはできないだろう。
ルーリクの胸に、ふつふつと喜びが湧き上がっていた。
退屈だけだった人生が、予測もつかない方向へ向かい始めている。
ジプサム王子もただの坊ちゃん王子の皮を脱ぎ、その実力を美都に向かうわずかな期間で示し始めていた。
自分の姫の騎士になれなくても、王子の騎士としても、波乱がこれから起こるのだろう。
笑みが自然と口元に浮かぶ。
はたかれた衝撃で額に落ちていた、くっきりとしたウエーブの髪をかき上げた。
急に、この退屈だと思っていた刺激の少ない離宮の蟄居が、波乱に満ちた人生の始まりに思えてきたのだった。
第8話 完
この女はきっと、大きく化ける気がする。
ユーディアはゴクリと生唾ごとルーリクの提案を飲み込んだ。
「僕が王子妃になることはないけれど、それが条件ならいいよ。そんなありえない未来の約束のために、僕の秘密を守ってくれるというのなら」
ルーリクはユーディアの手を要求する。
おずおずと伸ばされた手の甲に唇を押し付けた。
指先が震えてとっさに引っ込めようとしても逃さない。
騎士のルーリクがささげるキスは、この女だけに決めてしまった。
立ち合い人は、黒目がちな軍馬たち。
「俺の姫と勝手に呼ばせてもらう。これからは姫の信頼をえられるように誠心誠意、努力させてもらうとして……」
「ひ、姫も信頼もいらない!黙っていてくれるだけでいいから。じゃ、約束したから!」
慌てて振りほどくと、ルーリクの未来の姫は厩舎から闇の中へ走り去っていく。
追いかけようにも追いつくことはできないだろう。
ルーリクの胸に、ふつふつと喜びが湧き上がっていた。
退屈だけだった人生が、予測もつかない方向へ向かい始めている。
ジプサム王子もただの坊ちゃん王子の皮を脱ぎ、その実力を美都に向かうわずかな期間で示し始めていた。
自分の姫の騎士になれなくても、王子の騎士としても、波乱がこれから起こるのだろう。
笑みが自然と口元に浮かぶ。
はたかれた衝撃で額に落ちていた、くっきりとしたウエーブの髪をかき上げた。
急に、この退屈だと思っていた刺激の少ない離宮の蟄居が、波乱に満ちた人生の始まりに思えてきたのだった。
第8話 完
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる