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第8話 勝負
77-2、勝負 剣と体術
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サンは別人かと思えるほど、遠慮のない目つきをしている。
大きな体がいつもより大きく、熊のように見えた。
庶民組のラルフとドルシェも、貴族組と対戦をしている。
彼らの顔が真剣過ぎて、貴族たい庶民のチーム戦をしていたかのような気持ちになる。
「これは?」
ユーディアも音の出どころをみてから、対戦する二人の周囲で始まっている4組の体術の取り組を見た。
「どうやら、俺たちの勝負をみていて、自分たちもやりたくなったようだな」
「そのようだね」
あちこちで受け身を取り床に打ち付けられるバンという派手な音が聞こえる。
「気にしないで、最後まで勝負をしなさい」
サニジンに言われなくてもそのつもりである。
再開してすぐに、一足で間を詰めて襟元をとった。
だが服が大きい。握り直して引き倒そうとするがその前にルーリクの懐に小柄な体がもぐりこんだ。
アッと思う間に、背負って投げられそうになるのを、必死に横にのがれ無様に転がった。
息をつぐ間もなく、肺からすべての空気が押し出されたかのような衝撃。
ルーリクの上にユーディアが体重をかけて、ルーリクの背中を床に押し付けに来たのだ。
体格差があるためにユーディアは絶対にしないだろうと思っていた寝技である。
サニジンのカウントが始まる。
10カウントで背中を床につけているルーリクの負けが決まる。
ルーリクの胸の上には細い体がのしかかっていた。
腰を上げて逃れようとするが、重心が下に移動し、腰を押さえこまれた。
腕も動かせない。関節が決められていた。
下手にもがけば、肩関節が外れてしまうだろう。
ほどこうとして、動く方の手をのしかかる足を掴んで引き離そうとするが、ももに手をかけたが、あることに衝撃をうけて、体を動かすことが全くできなくなってしまった。
「……10!この勝負、ユーディアの勝ち」
サニジンが審判を下す。
体から重しがなくなった。
ユーディアの体はルーリクから引き離されていた。
向きを変えてブルースにしがみつく。
対戦相手を強引に床に引き倒したサンは、ユーディアの勝利を知り、喜びの咆哮を上げた。
ルーリクは体を起こせなかった。
体術は三本勝負にしましょう、とジプサム王子に訴えろと、自分の中で自分が叫んでいた。
ユーディアの偶然と幸運は続かない。
何度か試合をすれば、実力のあるものが必ず勝ちを重ねるものだからだ。ルーリクが体術で負けるはずがないからだ。
己の体を抑え込んだ体は軽かった。
はじきとばせると思った。
簡単に体位を入れ替え押さえ込めると思った。
だが、あの時、ふわっとユーディアの匂いを嗅いでしまった。己の上で荒く上下する腹と、己れの腹がぶつかっていた。
とたんに、己の体は動揺した。体に力が入らない。
汗臭い男の匂いではなかった。
筋肉も細いからだなりについてはいるが、繊細で柔らかかった。
それはまるで……。
誰かと組み手を終えて汗を額にはりつけたクロードが手を差し伸べた。
その手を取ることができなかった。
「見ていなくて悪かったが、俺たちの中で一二を争うルーリクが負けるなんて、何か卑怯な手を使われたのか」
「卑怯……」
両足の間の息子が、ルーリクの意志とは無関係に立ち上がっている。
「抗議するか?」
いつまでもつかまれない手を、クロードはひっこめた。
ようやくルーリクの異常な状態にクロードが気が付いた。
「何があった?顔が赤いぞ」
「それが、いや、まさか……」
言いよどむ。
整った美貌に責任のない貴族の三男坊。
ルーリクは女に困ったことはない。
女の体の柔らかさや肌の匂いは知っている。
同じものを、小姓から感じたのだ。
直感が告げた疑惑に、ルーリクは狼狽する。
「頭でも打ったのか?本当に大丈夫なのか?いいから、もう休んで……」
小姓の姿を追う。
ベルトを外してブルースに渡していた。
薄青の制服は体のラインがわかりにくい。
もし自分が抱いたその疑惑が真実ならば、一体それはどういうことなのか?
あり得ないことに、まったく理解が追い付いていない。
クロードに相談するにも、荒唐無稽すぎて正気を疑われそうではばかられてしまう。
ユーディアの背中に手をまわしたブルースが肩越しにルーリクをにらみつけた。
その瞬間、疑惑が確信に変わる。あれは牽制の目だ。
ブルースはユーディアが女だということを知っている。
なら、ジプサム王子は?
最後の槍は昼食後に持ち越された。
大きな体がいつもより大きく、熊のように見えた。
庶民組のラルフとドルシェも、貴族組と対戦をしている。
彼らの顔が真剣過ぎて、貴族たい庶民のチーム戦をしていたかのような気持ちになる。
「これは?」
ユーディアも音の出どころをみてから、対戦する二人の周囲で始まっている4組の体術の取り組を見た。
「どうやら、俺たちの勝負をみていて、自分たちもやりたくなったようだな」
「そのようだね」
あちこちで受け身を取り床に打ち付けられるバンという派手な音が聞こえる。
「気にしないで、最後まで勝負をしなさい」
サニジンに言われなくてもそのつもりである。
再開してすぐに、一足で間を詰めて襟元をとった。
だが服が大きい。握り直して引き倒そうとするがその前にルーリクの懐に小柄な体がもぐりこんだ。
アッと思う間に、背負って投げられそうになるのを、必死に横にのがれ無様に転がった。
息をつぐ間もなく、肺からすべての空気が押し出されたかのような衝撃。
ルーリクの上にユーディアが体重をかけて、ルーリクの背中を床に押し付けに来たのだ。
体格差があるためにユーディアは絶対にしないだろうと思っていた寝技である。
サニジンのカウントが始まる。
10カウントで背中を床につけているルーリクの負けが決まる。
ルーリクの胸の上には細い体がのしかかっていた。
腰を上げて逃れようとするが、重心が下に移動し、腰を押さえこまれた。
腕も動かせない。関節が決められていた。
下手にもがけば、肩関節が外れてしまうだろう。
ほどこうとして、動く方の手をのしかかる足を掴んで引き離そうとするが、ももに手をかけたが、あることに衝撃をうけて、体を動かすことが全くできなくなってしまった。
「……10!この勝負、ユーディアの勝ち」
サニジンが審判を下す。
体から重しがなくなった。
ユーディアの体はルーリクから引き離されていた。
向きを変えてブルースにしがみつく。
対戦相手を強引に床に引き倒したサンは、ユーディアの勝利を知り、喜びの咆哮を上げた。
ルーリクは体を起こせなかった。
体術は三本勝負にしましょう、とジプサム王子に訴えろと、自分の中で自分が叫んでいた。
ユーディアの偶然と幸運は続かない。
何度か試合をすれば、実力のあるものが必ず勝ちを重ねるものだからだ。ルーリクが体術で負けるはずがないからだ。
己の体を抑え込んだ体は軽かった。
はじきとばせると思った。
簡単に体位を入れ替え押さえ込めると思った。
だが、あの時、ふわっとユーディアの匂いを嗅いでしまった。己の上で荒く上下する腹と、己れの腹がぶつかっていた。
とたんに、己の体は動揺した。体に力が入らない。
汗臭い男の匂いではなかった。
筋肉も細いからだなりについてはいるが、繊細で柔らかかった。
それはまるで……。
誰かと組み手を終えて汗を額にはりつけたクロードが手を差し伸べた。
その手を取ることができなかった。
「見ていなくて悪かったが、俺たちの中で一二を争うルーリクが負けるなんて、何か卑怯な手を使われたのか」
「卑怯……」
両足の間の息子が、ルーリクの意志とは無関係に立ち上がっている。
「抗議するか?」
いつまでもつかまれない手を、クロードはひっこめた。
ようやくルーリクの異常な状態にクロードが気が付いた。
「何があった?顔が赤いぞ」
「それが、いや、まさか……」
言いよどむ。
整った美貌に責任のない貴族の三男坊。
ルーリクは女に困ったことはない。
女の体の柔らかさや肌の匂いは知っている。
同じものを、小姓から感じたのだ。
直感が告げた疑惑に、ルーリクは狼狽する。
「頭でも打ったのか?本当に大丈夫なのか?いいから、もう休んで……」
小姓の姿を追う。
ベルトを外してブルースに渡していた。
薄青の制服は体のラインがわかりにくい。
もし自分が抱いたその疑惑が真実ならば、一体それはどういうことなのか?
あり得ないことに、まったく理解が追い付いていない。
クロードに相談するにも、荒唐無稽すぎて正気を疑われそうではばかられてしまう。
ユーディアの背中に手をまわしたブルースが肩越しにルーリクをにらみつけた。
その瞬間、疑惑が確信に変わる。あれは牽制の目だ。
ブルースはユーディアが女だということを知っている。
なら、ジプサム王子は?
最後の槍は昼食後に持ち越された。
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